授業中の不穏
授業の時間となり、教師が教科書に沿って生徒に教鞭を執る。周りの生徒もただ黙ってノートに書く。ヤッキーは足子の言うことは大げさなのではないかと気にも留めなかった。途中、彼は上履きを脱いで裸足になって弄んだり、前の席で上履きを脱ぎ大胆に足を前に組んで机に突っ伏しているニアを、頬杖をつきながらずっと眺めていた。ニアの美脚は有名女優に負けず劣らずで、授業などそっちのけで彼女の虜になった。ふと、机をピシャリと叩かれた。
「あ、すみません。」
そう反射的に言葉が出てしまったが、目の前にいたのは教師ではなく足子だった。
「授業、ちゃんと受けないとね。」
「ああ、すまない。」
気づけば周りの生徒や教師は、自分たちの様子など気にも留めずただ、ペンを走らせるのみであった。この様子にヤッキーも様子がおかしいと気づき始めた。まるでニアも含めて自分たちが透明人間になってしまったかのような、どこか別の世界に取り残されてしまったかのような得体のしれない恐怖を覚えた。それでも、まじめに授業を受けないと、足子の叱責が面倒であったので、1時間目はまじめにノートを取った。
そして、彼は授業の終わりに、足子に事情を問うた。
「これ、いったいどういうことなの?」
「本当にわからない。でもみんながちゃんと授業を受けてるのは悪いことじゃなさそうだけど・・・。」
彼女も現状に困惑していた。彼はその様子にどうにもならない違和感を放っておくしかなかった。仮にそれが気分の悪いことであっても、足子と関わってしまった以上仕方のないことなのだと割り切った。
次の授業で意図的に提出物を出さないでみると、見事にスルーされたので、彼はことのほか悪い気はしなかったが、やはり足子は彼を咎めた。
「ヤッキー、提出物は出さなきゃダメだよ。」
「だってよぉ。誰も僕たちのことなんて気にしてないんだからさぁ。そういうとこ端折っちゃったほうが楽じゃん!」
「私は許されないと思っている。」
「それが100年以上も迷った結果だっていうのか?」
「私、あなたになら教えるけど、私はほかの人とは明らかに違う。他人の心だって読めた。でも、その力をどうやって制御していけばいいのがずっと考えてきたの。その結果として、ちゃんと生きる道を選んだんだよ。」
「君の気持ちは分かるけど・・・。」
「それにもし家族があなたに無関心になったらって一度でも考えた?」
「う・・・それは・・・。」
「でも大丈夫だよ。私が何とかする。」
すでに授業が進んでいる中、彼女の言葉が僕に鋭く突き刺さる。もしこれが彼女の原体験なのだとすれば、ずっと寂しい思いをしていたのかもしれない。それ故に彼女の100年間を思うと胸が痛くなった。もう授業どころではなく、どうしても彼女の言葉、そして生き様、顔が頭から離れなくなってしまった。そして、この無関心な世界を生き抜くには彼女だけが心の灯火になる他なかった。




