カーテンの奥
足子は自室、布団と丸テーブルだけの簡素な暗い空間で天井を見上げていた。
ヤッキー、あなたは私のことをどう思っているのだろうか?ニアを差し置いて手をつないだこと。どう思っているのだろうか?私を導いてくれたこと、迷惑じゃなかったのかな?
ふと私は過去に封印した能力のことを思い出した。あの頃、私には人の心が手に取るように分かった。幼稚園に入れば、眠いよー。お遊戯会のなんてつまんない。アニメみたい。こいつムカつく。いじめちゃえ。家に入れは、なんでこの子はいつも無表情なのかしら。もっと教育をすれば東大に受かるのかしら。無愛想で嫌い。何のためにパートしてるんだろう。家出たい。嫌だ。嫌だ。なんで人の気持ち分かるの?え、この子また不安定になってる。嫌だ嫌だ。私のことを話さないで。
黙ってー!!!
一度精神病院に入れたほうがいいのかしら。こんな子なんで産んでしまったんだろう。母親がずっと見つめてくる。見ないで!見ないで!嫌だ!嫌だ!え?ツバメ?巣を作ってる。雛もいる。かわいい。あ、こんなとこに巣を作られてる。早く掃除しないと。
私は母に飛びかかった。
ツバメの巣!壊さないで!絶対ダメ!
この子のこんな姿、初めて見た。でもなんでツバメの巣のことを?そんなことはいっか。この子がこんなに心を開くの初めて見たわ。母は私を強く抱きしめた。ただお互いに温かいという声しか聞こえなかった。
・・・それっきり、他人の声と自分の声が行き交うようなことはなくなった。その時の記憶がまざまざとよみがえった時、ヤッキーが何を考えているのかなんて考えることをやめた。他人の心が聞こえてしまう地獄のような苦しみに比べたら、彼を私のメルヘンチックなオトギ話の王子様に仕立て上げたほうが、健全なのではないか。
私は、布団から起き上がり、シャワーを浴び、冷蔵庫から適当なパンを手に取って頬張った。ふと父親が起き出してきて、足子!と声をかけた。その一言に驚いてしまった。私は信子であるはずなのに、なぜヤッキーとニアとジジェイしか知らないその名を呼んだのか。
父には適当に返事をして、また自室に戻った。いったい何が起こっているのだろうか?これまで、何かしらの異変が起きても、家の中に変化が起きることはなかった。穴が広がりつつあるのと何か関係があるのだろうか?思えばヤッキーと知り合ったときから、穴は広がっている気がする。私は秩序のなかで生きていたい。混沌など嫌だ。何とかしなければ。




