裸足の帰宅
ヤッキーは気づいた。下駄箱にローファーがない。教室にいた足子さんに問いかける。
そういえばローファーは?
ニアのマンションの玄関にある。
持ってくることはできないのか?
ローファの位置の特定と下駄箱への移動はかなり力を使う。今日は無理。
じゃあ裸足で帰るしかないのか?
彼は困惑し、諦めかけたが、ふと足子さんは答える。
手をつなげばいい。
なるほど、何か手があるんだな?
そう、一次的に私たちの意識をそらすことができる。
ニアにも言わないと!
・・・一人分の余力しかない。
足子さんは一瞬沈黙したあと答えた。彼女のこれまで見せてきたものに対して釣り合っていなかったため違和感を覚えたが、ニアには黙っておいた。
放課後、ニアは颯爽と教室を出ていった。しばらくして人もいなくなったので、足子さんは静かに手を握ってきた。彼女の手は柔らかく暖かかった。一瞬だけ余韻に浸り、ヤッキーは彼女を連れて行った。それに、彼女は黙ってついていく。夕日に照らされた廊下に2つの影が伸びた。
昇降口まで着き、上履きを脱いだら、二人はそのまま下の床へ踏み出した。ひんやりとザラザラが足裏から伝わってきて、裸足でいることが実感でき、ワクワクと同時に興奮が芽生えた。彼女の手を強く握り引っ張り早足で歩く。彼女はそれに応じるように付いてきた。外へ出ると、アスファルトの床は痛かった。歩きながら足子さんに問いかける。
足子さん大丈夫?
私は平気だけど、もっとゆっくり歩きたい。
あぁ、ごめん。
ヤッキーは足子さんと隣り合うようにして歩いた。何人かの学生とすれ違ったが気にならなかった。ただ、2人だけの裸足の散歩だった。校門を既に抜け、野球部やカラスの声が響き、風がザワザワと森を揺らす薄暗い道をただ静かに一歩一歩踏みしめる。痛みに慣れた頃には、マンションの手前だった。ふと、急に風の冷たく感じた。
ドアの前までは手をつないで行き、インターホンを鳴らすと、ニアが出てきた。
あぁ、上がって!
彼女の言葉に甘えた。すでに雑巾が準備されていて、足を拭くとその冷たさが染みた。そして平らな廊下を歩くと改めて足裏がヒリヒリとした。
ニアも裸足で帰ってきたのか?
いや?ビーサンが一応あるからそれは履いてきたんだ。
なんでそんなものを?
夏とか便利じゃん。
彼女のビーサン姿を想像するとギャルさながらだ。夏になったら見れると思うとワクワクした。ふと足子さんは、帰るとつぶやいた。確かに明日の準備があるだろうと察したヤッキーも、これでお邪魔することした。帰り際、ニアがいつになく寂しそうな顔を浮かべ、こちらを覗いていた。ヤッキーは、またね、とだけ返して足子さんと外へ出た。すると彼女は再び手を繋いできた。二人はもう一度、時間を共有した。




