素直な夜
私はそろそろ眠る。
足子さんは口火を切る。
えー、まだ遊びたんないんだけど。
僕も眠いよ。明日も早いし。
そういえばさぁ、瞬間移動で学校まで行けたりしないの?
可能。2つ方法はある。1つは光の速さで、教室までたどり着くこと。ただし瞬時に移動することにより、時間の進み方が現実と乖離して、学校につく頃には夕方になる。それは本末転倒、マッハで移動も可能だが、気絶するかも知れない。もう一つは、空間移動。
それがいいじゃん。
いや、ランデブーがうまくいかないと、悲惨なことになる。たとえば壁に埋まったり、そこに人がいたらと考えただけで恐ろしい。
なんか結局、面倒なことばかりだなぁ。現実が悪いんじゃないの?
それは違う。現実とは地球の回転や物質の崩壊速度を正確に表している黄金律なの。それを過度に解釈する人間は多いけど、甘く見てはいけない。
そうだよなぁ。素直に寝るか。
ニアは諦めた様子で、常夜灯にしてソファに寝転がった。それにしても、足子さんの理屈っぽさは天下一品だし、それを素直に聞いているニアも意外と似ているのではないかと察した。とりあえず、ヤッキーも寝床が欲しかった。
ニア、どこで寝ればいい?
ソファーでいいよ。
僕、男だぞ!
そんなん気にしないって。
ヤッキーは恐れ多くも、女子が寝るソファに、彼女と対になって横になった。目の前にはニアの大きく、酸っぱさの残る足裏。大きな親指に一本一本キノコのように伸びる長い指。そして、綺麗なアーチにシワが寄っていて、オトナの女性を思わせた。素足で上履きを履いていると思うと、それが目の前で見えて幸せだった。
すると足子さんも、足をヤッキーの顔側に、背にして詰めてきた。そのため、ニアの足に顔を埋めるようなカタチになり、足子さんの足も頭の後ろに柔らかく触れた。さらに、ニアはヤッキーの足を枕にしたので完全に身動きが取れなくなった。
ヤッキー、当たってる。
ご、ごめん。
ニアはヤッキーを咎めたので、なんとか気持ちを抑えつつ、この心地よさのなかで夜を明かした。ふと、足子さんはヤッキーの手を触れた。
目覚めると、まだ外は暗かった。相変わらず、足が目の前にあったが、眠気のほうが強かったのでまた眠った。しばらくして目覚めると、まだ夜だった。何かがおかしいと思い、体勢を崩さぬまま足子さんに問いかける。
なんか、ずっと時間が止まっているように見えるのだが。
それは、あなたが求めていた温もり。
本当に時を止めたのか?
そう。
あなたが私の足を見た時間はほかの人よりも長い。だから足に囲まれた今が一番幸せなのではないかと思ったの。
た、たしかにそうだが。
どうする?時を動かす?
しばらく考えさせてほしい。
ヤッキーは考えた。確かに自分には、今は幸せかもしれない。でも、それだけじゃ虚しい。足子さんのように特に悩みもないのに、この幸福な状態のままでいると自分が腐ってしまうような気がしてくる。
やっぱり、時間、動かすよ。
あなたは修羅の道を進むわけだね。人はいつか死ぬ。そこに希望も見いだそうというわけだね。
何言ってるのか分からないが、とにかく手を離すよ。
分かった。
触れていた手が離れると、ニアが僕の顔を蹴ってきた。痛かったが、むしろホッとした。




