ニア・モラル
「ていうかさ、ソファに座ってるだけじゃダルいからゲームでもしない?」
「宿題はどうするんだ?」
ヤッキーはニアをたしなめた。入学してまだ2日目だが、学力の確認も兼ねて課題が出されていた。自分たちが通う高校は地区でもそれなりの進学校ではあったので、勉強慣れされる意味もあるのかもしれない。
「足子、超能力で全部やってよ。」
「可能ですが、それはあなたの学力と答案用紙との齟齬につながる。不相応な結果を見せても、みんな不幸になる。」
「じゃあ、私の学力に沿った答えでも書いてくれよ。」
「残念ながらあなたの学力を私は知らない。」
ヤッキーは、自分でやることだな、とニアに吐き捨てると、ムカッとした顔で宿題を取り出し、汚い字でひたすら解答した。その様子に彼女にも相応の学力はあるんだなぁと感心した。
「足子さんは?」
「すでに答えは記述済み。」
初めて、彼女のことがうらやましくなった。それと同時に、なぜトップ校に行かなかったのか気になった。
「なんで中途半端な偏差値の高校へ来たんだ?お前ならもっと、こう賢いとこ行けるだろ?」
「家が近いから。」
「それ、私も同じ。」
急にニアが首を突っ込んできたが、彼女は続けた。
「現実世界との齟齬の解消に時間を使いすぎて、勉強がおろそかになった。そもそも知識とは、その場その場で変わる万華鏡のようなもので、絶対的な集合知は存在しない。今回も受験という知に適合し得なかっただけ。私をあまり買いかぶらないでください。」
「まぁそういうことなら仕方ないか。」
ヤッキーは懸命に努力してやっと入学できた進学校であったので2人の様子に心が折れそうだったが、僕のなんとか筆を動かした。しばらくして、彼が宿題を終えた頃には、ニアは床に転がってテレビゲームをしていた。
「それ結構気が散ったぞ。」
「悪いな。でもやっと終わったんだし、みんなでゲームしようぜ。」
ニアはテレビの裏から、1台は付属品のコントローラー、そして過去のゲーム機のコントローラーを出した。
「それ使ってくれ。」
「これ使えるのかよ。なんかベトベトするし。てか何でお前がその立派なコントローラー使ってるんだ?客人に渡すだろ。」
「そんなめんどくさいこと気にしねーし。さっさとUSB繋げよ。」
ニアは純正品の最新モデルのコントローラー、足子さんは、付属品のコントローラー、そしてヤッキーが古いタイプのコントローラーだった。ただ、意外にもこの古いタイプのものは手にフィットしてやりやすかった。足子さんのものは四角くて持ちにくそうであった。
「どんなゲームするんだ?」
「4対4のサバイバルゲーム。陣地が最も広いほうが勝ち。」
「あー僕も知ってるわ。」
「なら話は早いな。足子は?」
「初めて。」
「まぁやってみるのがいいよ。」
三人はチームを組み、残りの一人はネットから勝手にやってきた人だ。そしてバトルが始まる。ヤッキーは、久しぶりにやるので、最初こそ手こずったものの、すぐに慣れ、相手をけん制した。足子さんは、しばらくカチャカチャとイジっているだけだった。画面は4分割でそれぞれが何をやってるのか一目瞭然だった。ニアは1人欠けてるじゃねえか?とイライラしながら愚痴った。敵に押されまくった状態で残り1分というところで、急に足子さんは動き出して、次々と相手を撃破し、逆転勝利してしまった。ヤッキーは彼女に喜びを見せた。
「すごいな初めてなのに。」
「慣れれば単純。」
そう淡々と答えるのみだった。ふとニアは唐突に足子さんに問いかけた。
「これ、君の力があれば、パラメーター改変して無双できんじゃね?」
「それはできない。」
足子は続ける。
「不正な値が検知された時点で、エラーとなる。その数値の修正も面倒だし、ゲームは決められたルールのなかでやるから楽しいの。野球界では自分の実力のなさに絶望する人も多いらしいけど、人生という大きなルールのなかでは他愛もないことなんだ。」
「まぁ、もっともだな。」
ニアは不服そうに答えた。その後3人は夜が更けるまでゲームをして楽しんだ。




