9話 報酬
「あ、ありちー。全部っていうのはちょっといくら何でも…」
盗賊がいなくなったあとも、私たちはその場に残っていた。
商人たちが荷物を片付ける姿を、シュワシュワを飲みながら眺めている。
「だって、お礼するって。なんでもできる事するって言ってた!」
私は商人たちを睨みつけた。
「も、もちろんでございます!私はこの輸送隊のリーダーをしているレノと申します。この度は救っていただき心から感謝と――」
「いいよそんなの。私たちおなか減った。早く何か頂戴」
「は、はい!ただいまご用意します!ほら、お前たち食事の用意だ!」
レノが手をパンパンっと叩くと商人たちが残った荷物から食料を出す。
パン、干し肉、チーズ、果物など、いつも屋台では見ないような物ばかりだ。
私は適当に手を伸ばし肉を喰らい、パンをかじった。
「ぷるぷるも食べようよ。今日ずっと食べてないし」
「う、うん…いいのかな。こんなことして」
「どうぞお気になさらず!命を救っていただいたのです。これくらいのお礼は当然でございます!お二方がいなければ私たちは今頃死に、荷物もすべて奪われていたでしょう。多少の被害はありましたが、命あっての物種です。感謝しております!」
「う、うん…。それなら…いいんだけど…」
「はい!気に入っていただけるものがあるだけで幸福の極みでございます」
「…」
「い、いかがされましたか?」
気に入ってもらえるもの。という言葉で私は手を止めた。その様子を見ていたレノは不安そうな、びくついた様子で顔色をうかがってきた。
「…肉串」
「…は、はい?」
「肉串は?」
「に、肉串……?あの屋台で売られているあれでございますか?」
「ないの?」
ため息をついて私は手に持っていた肉を一気に口に放り込むとシュワシュワで一気に流し込む。
「ご、ごごございます!!肉串!すぐにご用意します!」
レノは無事だった荷物から串を取り出すと、まだ燃えている馬車のそばで手持ちの肉を焼き始めた。
「肉はたくさんございます!いくらでも焼かせて頂きます!!」
「ほんと!?」
私は肉串を貰うと頬張りながらぷるぷると笑い合った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
肉串をたらふく食べ終わった後、私たちは弱くなった焚火の前に座っていた。
「ぷるぷる」
「なに?」
「……怒ってる?」
「怒ってるよ」
「まだ?」
「まだ!」
「……しつこ」
「誰のせいだよ!!」
「私は何もしてないもん」
「…」
「…」
お互い口を開けなくなった。
「でも……助けてくれてありがとう」
「ん?」
「ありちー、盗賊やめたんだよね?」
「うん?そもそも入るなんてひと言も言ってないし。肉串くれたから貰いに行っただけで」
「よかったぁ……いつものありちーだ。」
「??」
「さっき、ものすごく怖かったんだ。ありちーを怒らせたら、僕なんて一瞬で死んじゃうってわかって」
「……」
「だから、今までみたいに一緒にいられるのかなって……ちょっと心配だった。でも、いつものありちーだね!」
「きっしょ…」
私は笑いかけてきたぷるぷると視線を外した。
なんか、顔がにやけちゃって、見られるのが嫌だったからだ。
「お二人とも、服の用意ができました!どうぞ見てください!自慢の逸品ばかりです!」
レノが馬車の荷台に並べてくれたのは数十着の服だった。
「へへ、私の方でお二人の背丈に合うサイズをご用意させて頂きました!気に入っていただけるものがあればいいのですが」
「うーん…どれが一番高い?」
「高い?!そ、そうですね。こちらのドレスはかなり高価なものです。貴族の社交界向けのドレスで――」
「興味ない。パス」
私はドレスをつまむと端へ放り投げた。
「こ、こちらはいかがでしょうか?」
レノが持ったのはいわゆる、可愛い女の子の服。という感じだった。
私は無言でつまみ上げるとドレスの方へ放り投げた。
「あぁ!!今人気の服なのに…」
「ん~、これ、なに?」
「そ、それは…収納バッグになります」
「収納?なにそれ」
「魔法道具でして、カバンの中は亜空間。一応、生き物以外は何でも入れることができるという便利なマジックアイテムでございます」
「これがいい!ありち服いらない!今のままでいいや。だからこれもらう!」
「は、はいぃ!!」
「ぼ、僕はこれでいいよ。ありがと」
私は腰ベルトにつけられそうなポーチをレノの手から奪い取ると、さっそく取り付けてみる。中をのぞいても真っ暗。何が入ってるかわからない。
「あ、ぷるぷる。ちょっとそれ貸して」
「ちょ、今貰ったばっかりなのに!」
私はぷるぷるの手にある服を取るとポーチの中に押し込んでみる。
「は、はいってった…」
「ちょっと!僕の服は!?出てくるの?」
「ま、待ってよ…え、レノこれどうやって出すの?」
「中に手を入れて取り出したいものを思い浮かべれば大丈夫です」
「服…服…」
私はカバンに手を入れてぷるぷるの服をイメージすると、なんとなく指先に触れる布の感触がした。
思い切って掴んで引っ張り上げてみる。
「僕の服!」
「で、でた…おもしろーい!!すごい!」
私はカバンの中に服を出し入れして遊んでいると、商人の一人が皮袋を持って近づいてきた。
ジャラ…。
「か、カネだ!!」
「は、はい!そうです!こ、これは私たちから今回のお礼としてお二人にお支払いできる精一杯の金額でございます…」
目を輝かせて近づいた私に驚いた商人はお金の入った皮袋を差し出してきた。
ジャラ…。
いい音してる。それに、重い。
「あ、ありちー。顔がにやけてるって。顔に出てるよ」
「き、きっしょいな!見るなよ!いいだろ!?こんなに重いんだもん、嬉しいに決まってるじゃん!」
私はそぉーっと皮袋を開けて中を見ると、銀色に光る硬貨がジャラジャラと入っていた。
「お、おぉーー!!み、見てぷるぷる!肉串とシュワシュワがいっぱいだよ!!野宿もしないで済むよ!!」
「す、すごい!!こんなにたくさん!?」
私はぷるぷるに見せるとすぐに皮袋をポーチの中に入れた。
「か、返さないよ。これも私のだから!」
「だ、大丈夫ですよ。誰も返せなんて言いませんから、ご安心ください」
「やった!やった!この人間たちちゃんと払ってくれたよ!」
「そうだね、盗賊にならなくてよかったでしょ?」
「うん!おなかもいっぱいだし、便利なものもくれたし、お金もたくさん!」
「あ、あの…」
私たちが喜んで飛び跳ねていると、レノが何かを言いにくそうにしていた。
「なに?」
「……あなたはいったい何者ですか?」
「私?」
「そうです。護衛に雇った冒険者三人が重傷を負った盗賊たちを、あなたはたった一人で……しかも、あっという間に撃退してしまった。ぜひ今後のためにも、あなたのことを知りたい」
「アリシア」
「いや、名前ではなくて……」
「?」
「聞かない方がいいと思います……。僕も知らないですし…ただ、悪い子じゃないんですよ。しかも冒険者じゃないですし…」
「えぇ!?冒険者じゃない!?そんなに強いのに!?」
「僕も登録しない??ってギルドに連れて行ったんですけど、急に怒って登録しないって。だから僕たちはあくまでも一般人です」
「そ、そうですか…それを聞いた上でお願いするのは大変心苦しいのですが、私たちは東の町へ移動している途中なんです。先ほどの盗賊もまた襲ってくるかもしれません。どうか、東の町まで一緒に来ていただけないでしょうか?」
「私からもお願いしたい」
「私もだ、もうあんな連中に襲われるのはごめんだ」
「アリシアさんがいると心強い!ぜひとも、お願いさせてもらえないだろうか」
「めんど…」
「そんなことないよ!」
私は知らない奴らと同じ馬車で移動するなんて、正直イヤだった。
無駄に話しかけられるし、なにかあれば便利に使われそうだし…。面倒くさそう、という言葉以外何も思い浮かばなかった。
「おぉ!ぷるぷる殿!」
「商人さん、移動手段は?」
「馬車になります。いくつか燃えてしまいましたが、残った荷物を積みかえてお二人には少しでも快適に乗っていただけるように善処します」
「移動中のご飯は?」
「もちろん、シュワシュワも肉串も食べ放題でございます」
「いつごろ到着するの?」
「明後日の夜あたりが予定時刻となっています」
「ほら!聞いたありちー?明後日までシュワシュワも肉串も食べ放題!しかもお昼寝もできそうだよ!」
「行く」
「おぉ!ありがとうございます!さすがぷるぷる殿!」
「これで移動中は襲われないぞ」
「安心して東の町まで行ける。ありがとうございます」
商人たちはぷるぷると握手をしていたが、私にはそれがどうしてかわからなかった。
ただ、心残りは100ゴールド…。どうにかもらえなかったかな…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝。
野営をした私たちは馬車に乗った。
「ほんとに肉串ある?」
「ございます」
「シュワシュワは?」
「ございます」
「ぷるぷる、この旅最高だね」
「まだ出発もしてないよ……」
ガタゴト……。
馬車が動き出すと、私は外を見ていた。
昨日まで歩いていた町が少しずつ遠ざかる。
別にたいした思い入れはない。たまたまいただけの場所。それだけだ。
荷台に寝っ転がる場所を確保して私はゴロンと寝ころぶとそのまま目を閉じた。
こうして東の町へ向けて出発した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
無事に東の町へ私たちはついた。
道中はとても暇だった。盗賊はあのあと一回も出なかった。魔物とは何度か遭遇した。
中でも一番残念だったのが、かわいい熊みたいな魔物だ。
ぷるぷるみたいに仲間にできないかな?と思って近づいてみたけど、ものすごい勢いで逃げられた。
ぷるぷるにも新しい仲間がいた方がいいと思っていたから、とっても残念。
それ以外は特になにもなく、退屈しているうちに二日が過ぎた。道中約束通りシュワシュワと肉串も食べ放題で大満足だった。こんな旅ならまたしてもいいかな。
私たちはレノの紹介もあり、初日の宿代はタダにしてくれる宿へ泊まることになった。受付で部屋の鍵を受け取ると、風呂があると聞いて先に二人で向かった。
久しぶりに身体をきれいにしたあと、私たちは部屋へ駆け足で向かう。ドアを開けると、そこには小さいながらにベッドが並んでいた。
「だーいぶ!!」
ベッドに飛び込むと、全身が柔らかい布団に包まれているような幸福感を覚えた。
いいにおい…。土じゃない。岩じゃない…ベンチじゃない。虫もいないし、雨も降らない。家出してからこんなふかふかな場所で寝るのは初めてだ。
「よかったね、ありちー」
「うん……」
ぷるぷるは隣のベッドに腰かけると、その柔らかさなどを確認していた。
「そっか、ぷるぷるはベッド初めてだよね」
「うん、身体の記憶では知ってるんだけど…見るのは初めてだよ。すごいな…フワフワだ」
ぷるぷるもベッドに倒れてやわらかい布団に沈んでいく。
「気持ちいいね」
「…」
「ねぇ聞いてる?」
「…………」
「寝てる……」
布団に沈んだまま、心地良くてそのまま私は寝てしまった。何日も野宿や野営ばかりで疲れた体には、最高のご褒美だった。
「……に、にくぐし……」




