8話 カネのためなら盗賊もあり?
煙に向かって走ると、周囲に焦げた臭いが漂ってきた。
まだ、はっきりとは見えないがこの感じは火事で間違いなさそうだ。
急ぐ私にぷるぷるが必死で追いかけてくる。
「待ってよ、ありちー!火事なんて危ないよ!」
「火事なら人いるじゃん!」
「だからなんで行くの!?」
「人がいたなら、なにか食い物あるかもしれないじゃん!それにカネもあるかも!!」
ぷるぷるはそれ以上のことは特に何も言わなかった。
私は焼け焦げる臭いでテンションが上がり、ドンドン暗闇の森を走り抜けて最短コースで駆け抜ける。
次第に遠くの方で馬車が燃えているのが見えた。
男女問わず、逃げ惑う悲鳴や追いかける怒号のようなものが聞こえる。
距離が縮まってくると、剣を持った男たち、倒れている冒険者が見える。戦闘があったようだ。
まだ燃えていない馬車の荷物を漁っている男、一ヵ所に集められて捕まっている商人や女性も見える。数人は怪我もしているようだ。
少しして追いついてきたぷるぷるは怪我人を見るなり、
「け、怪我してるじゃん!助けてあげようよ!」
「やだ!!」
「な、なんで?!怪我してるよ?」
「さっきお金貰えなかった!もう回復屋さんやめた!!」
さっきの男たちのことが頭に浮かんだ。また、回復してもカネを払わない。だったらもう助けない。だから回復屋はやめたのだ。
少し離れた高い場所の草木の影から私とぷるぷるは何をしているのかを観察していた。なぜ人間同士で争っているのだ?魔族や魔物ではなく人間同士で争う理由がわからない。
「ねぇ、あれ何してるの?」
「たぶん……盗賊だよ」
「盗賊?それも冒険者?」
「ちがうちがう、あいつ等は人の物を奪ったり、人をさらったりする人たち」
「…………」
人をさらうことの良さがイマイチ理解できないけど、物を奪う…か。
馬車のそばに乱雑に置かれているモノを見ると、武器屋に並んでいるような剣や鎧、シュワシュワが入っていそうな樽。お金まである!
「…いいなぁ」
「へ?なにが?」
「私も欲しい!盗賊なりたい!」
「そっち!?ダメだよ!ダメ!絶対!って聞いてる!?」
ぷるぷるが言い終わるよりも早く、私は襲われている馬車の一つへ走った。
まだ火の回りが遅い。荷台へ入って中を物色すると、樽が一つ倒れて中身のシュワシュワがこぼれていた。
「しゅ、シュワシュワ!!」
一目散に樽へ駆け寄ると両手ですくって何度も口へ運ぶ。
一日ぶりのシュワシュワ…しかもタダ飲み。ここへ来るまでだいぶ走った。
「…う、うまい…げふ」
お腹いっぱいになって馬車の中で横になるとタプンタプンになったお腹をさすりながら休む。
肉は…もう入らないな。とりあえず次はカネが欲しいな。
私は馬車から降りると地面に転がっているお金を拾いながらウロウロしていた。
「あ、ありちー!!危ないってば!」
「あ、ぷるぷる、ここら辺お金落ちてるから拾ってよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!早く逃げないと見つかっちゃう!!」
ぷるぷるが私の腰を掴んで無理やり移動させようとしていた時だった。
「なんだてめぇら!?」
「み、見つかっちゃったよ!」
ぷるぷるは私の後ろに隠れる。目の前には無精ひげの中年のおっさんが二人、短めの剣を持って立っている。
「こいつらが盗賊?」
「そうだよ!それ以外いないでしょ?!」
「そっか。ねぇおじさん、これ、おじさんたちの?」
「おうそうだ!今からここの物は全部俺らのもんだ!」
「ふぅーん…いいね」
視界の奥の方に見えるカネ、食料、シュワシュワの樽を見た。置いてる武器も捨てがたい。武器屋に持って行けば30ブロンズよりは高く買ってくれそう。
「欲しいのか?」
「うん、まぁくれるなら?」
二人の盗賊は笑った。
「面白れぇガキだな!お前みたいなやつ初めてだ!どうだ、俺たちの仲間になるか?」
「仲間って何?友達?…なったらもらえるの?」
「ならないよ!!どう考えてもダメでしょ!?僕は絶対反対だよ!」
「…」
昨日の宝箱は30ブロンズだった。肉串とシュワシュワでなくなっちゃう。
今日は回復屋さんを始めたけど、ムカつくジジィのせいでカネがもらえなかった。あいつ等が金払えば美味しいご飯が食べれたのに。
……やっぱり殺しとけばよかった。
「肉でも酒でも好きなだけ食わせてやる」
「……」
「あ、ありちー?」
「本当に?裏切らない?」
「ちょ、ダメ!ダメだからね??」
ぷるぷるが私の前に立って、両腕を掴みながら叫ぶ。
その奥、視界の見切れるくらいのところで馬車の持ち主と思うやつらが話していた。
「た、助けてくれ」
「何でもする。できる事は何でもするから」
「こ、子供が待ってるんだ。家に子供がいるんだ…」
数人の男たちは悲痛な表情で私に何かを言ってくる。それを見て私は昨日と今日自分がされたことを思い出しイラっとした。
私は捕まっている男たちのそばに行くと、見下しながら叫んだ。
「お前たちは、嘘つきだ!今日、金払わなかった!大っ嫌いだ!!」
「う、嘘?!私たちはあなたに嘘なんて言ってない」
「そうだ、今初めて会ったのに…頼む、助けてくれ」
「なんでも…なんでもできる事はするから、頼む」
人間はうそつきだ。だからきっとパパもお姉ちゃんも、人間を嫌っているに違いない。だから私が生まれるずっと前から戦争があるんだ。
こんな奴らより、魔物の方がいい。ぷるぷるみたいに裏切らない。
「よ、よくわかんねぇけどどうするんだ?俺らの仲間になるのか?」
「ダメ!ありちー僕の話を聞いて!」
楽な仕事じゃん、馬車から欲しいもの貰ってくるだけの簡単なお仕事。
『誰かの為に働いたら、きっと自分に返ってくるのよ』
小さいころに聞いたお姉ちゃんの言葉を思い出したけど、今日私は裏切られた。お姉ちゃんは嘘つきだ。もうどうでもいいや。
「ごめん、ぷるぷる。私、もうめんどくさい」
「おぅ!ようこそ盗賊の世界へ!歓迎するぜ!へへへ」
私は男が持ってきた肉串を貰うとハグハグと頬張った。
美味い…。一日ぶりのご飯だ。
「おい、そっちの女は?」
「ぷるぷる」
「変な名前だな。そいつも仲間か?」
「うん」
少し離れたところで立ち呆けているぷるぷるを見ると、盗賊の一人が声をかけてきた。
「いい女じゃねぇか。お前も来いよ。悪いようにはしねぇからよ」
グイっと腕を掴まれて体勢を崩すとぷるぷるは地面に転んでしまう。
「…やめて」
私の声は喧騒に消えて誰にも聞こえていなかった。
「あ、ありちー!助けてよ!僕はイヤだよ!盗賊なんて!」
「騒ぐなよ!お前が今回一番の上物じゃねぇか。お頭も喜ぶだろうよ!」
三人の男がぷるぷるの両手、両足を持ち上げて連れ去ろうとしていた。
イヤな感じがしているのはわかる。心がモヤモヤしているんだ。
昨日の肉串の方がおいしかった。
「ぼ、僕はありちーと冒険がしたかったんだ!だから君と一緒にいたいって思ってついてきたのに!!アリシアの大馬鹿野郎!!」
どぉぉぉん!!!
私は思いっきり地面を踏みつけた。
物凄い轟音と共に、地面が揺れ、森の木々の中から鳥たちが羽ばたいていく。
その場にいる全員がバランスを保てなくなり倒れこんだ。
「お前ら、なにしてんの?」
私はゆっくりとぷるぷるのところへ歩み寄った。
「何って、この女は俺たちが…」
その場にいるだれもが口をきけなかった。私と視線が合った盗賊の一人が、動揺しながら説明をしていたがそんなことは関係ない。
「離して」
ぷるぷるの足を持っていた男の腕を掴んだ。
男はまだ理解が追い付いていないようだった。
「…あ、いや…これは」
「離せよ」
私は笑いながら掴んだ手に力を込めた。
ミシッ。
「いっ……!?いだだだだ!!」
男はぷるぷるから手を放すと急いで仲間のいる方に走った。他の二人もその様子を見るなり、すぐにぷるぷるを捨てて逃げる。
「大丈夫?」
「う、うん…。あ、ありち―危ない!!」
ぷるぷるに手を差し伸べて立ち上がらせた。
その瞬間、背後から別の盗賊が大きな剣を振りかぶって斬りかかってきた。
「このクソアマ!!ぶっ殺してやる!」
ガキィン!!
振り下ろされた剣は私の背中にあたると大きな音を立ててはじき飛んだ。
「……な、なにぃ!?剣が弾かれただと!?」
弾かれた衝撃で2、3歩退いた盗賊は驚いた様子で剣を手から落としてしまう。
「……もういい。お前ら嫌い」
ドゴォォン!!
私は近くにあった燃える馬車を殴り飛ばした。
燃える馬車はバラバラになりながら盗賊へ向かって飛散していく。
「な、なんだこいつ……」
「魔法使いか!?」
「違う!こいつ、素手で馬車を……!」
さっきまで偉そうにしてたくせに、みんな顔が引きつっている。
弱いくせにいきがってる奴……大嫌いだ。
「逃げんなよ」
ドォォン!!
私は残っていた燃える馬車も盗賊めがけて殴り飛ばした。
「ば、ばけものだ!!」
「やべぇ、逃げろ…にげろ!!」
馬車の破片は盗賊の何人かに激突するものの、多くは森の中へ無造作に散らばっていった。
当然、逃がすことはしない。
「逃げんなって言ってんじゃん」
ドォォォン!!
再び地面を踏みつける。
衝撃で木々が倒れ、逃げていた盗賊たちの悲鳴が森に響いた。
それでも何人かは暗闇の奥へ逃げていった。
「……逃げた」
追いかけるのも面倒だった。もういいや。
大きく深呼吸をすると、ぷるぷるの方へ振り返った。怪我は…してないみたい。でも服がまた汚れちゃった。
「あ、ありちー??」
「うん?なに?」
「い、いや…なんていうか。こんな強かったんだなって思って…」
「そぉ?お姉ちゃんの方が私の何倍も強いかも…いつもすぐに泣かされるし…。あのいじめっ子」
私が強い?そう思われている事に驚いた。パパやお姉ちゃんに絶対勝てないし、最弱だと思っていたのに。
「そ、そうなんだ…」
ぷるぷるは顔が引きつったまま笑っていた。よっぽど怖い思いをさせてしまったみたい。そうだよね。スライムだもん。あんなに囲まれたら怖いよね。
「た、助かったのか?」
「俺たち、生きてるぞ!」
「あ、ありがとう!ありがとう!君、名前は?!お礼をさせてくれ」
「そうだ!ぜひお礼をさせてくれ!」
残った男たちは鳥の巣のヒナドリのようにピヨピヨ言っている。
正直めんどくさい。
「ねぇ、ぷるぷる。あいつ等なに言ってるの?」
「たぶん、あの商人たちはありちーが盗賊を倒してくれて喜んでるんじゃないかな。お礼がしたいっていってるよ」
「お礼…」
商人たちが私を見あげてくる。私は商人たちを見下ろしながら、さっきのことを思い出した。こいつらが嫌い。それは本当。
でも、お礼か…。
商人の周りに置いてある積み荷だったものを見る。
「ねぇ」
「は、はい?」
「なんか食べるものない?それに着るもの。あとカネも欲しいな。宿代もないんだ」




