7話 回復屋さん始めました
町の入り口から少し離れた場所の草っぱらの上に私たちはいた。
まだお昼前。この時間じゃみんなダンジョンの攻略に精を出している時間だろう。
まぁ、働きアリたちよ。せいぜいよく働くがいい。
「ねぇ、こんなところでゴロゴロしてていいの?」
「いいのいいの。今日はお休みにしようよ。夜はあんまり眠れなかったしさ」
ゴロン、と寝っ転がりながら大あくびをしている私の隣で不安そうな顔をしているぷるぷる。
「こんなところにいても、お金なんて稼げないよ?今日も何も食べれないよ?」
「だーいじょーぶだよ。ありちーに考えがあるから…。それより、他にも魔法は使えるの?」
「うーんとね、使える…と思う」
「なんでそんな自信なさげなん?」
「わかんないよ。なんかね、思い出せることとなんかモヤモヤして思い出せないこともあるんだ。リップスって名前も、さっき言われて急に思い出したんだ」
「ふぅ~ん。まぁそのうち思い出すっしょ。気にしない気にしない!」
「ありちーって時々すごく適当だよね。君って変な人間」
「そぉ?ぷるぷるだって変な人間だよ!ま、怪我人来たら教えて!」
スライムにとりつかれた人間に変とは言われたくない。
記憶だって別にどうでもいい。私は今日の晩御飯のシュワシュワと肉串がお腹いっぱい食べられたらそれだけでいいんだ。
ぐぅ~。となるお腹を押さえながら目を閉じた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぶえっくし!!」
「あ、やっと起きた?」
赤く染まる空。風が少し冷たくなってきた頃に目が覚めた。
むくっと起き上がると、お昼と何も変わってない。無理くり言うなら、何組かの冒険者が楽しそうに町へ向かって歩いていた。
「さてっ…と。お仕事しますか!」
「え?今から??なにするのさ?」
私は両手に宝箱から手に入れたであろう武器やアイテムをもって楽しそうに歩く冒険者たちを見ながら、ニヤッと笑うと立ち上がって大きく背伸びをした。
「ま、まさかそれだけはダメだよ!ありちー本当に捕まっちゃうよ!」
「はぁ?なにが?」
「だって、あの冒険者を襲ってアイテム横取りする気でしょ!?そんなことしたら本当に町にいれなくなっちゃうよ!!」
「ちょ、ちょいちょいちょい!!誰が襲うって言ったの!?」
ぷるぷるが歩き出そうとした私の足を両手で掴んできた。
そもそも、誰が冒険者襲おうなんて言ったんだよ。
「ダメだよ!それだけはダメ!」
「だーかーらー!違うっつってんの!」
「え?本当に?冒険者襲わない?」
「襲わないよ!いいからついてこい!」
「う、うん…」
私たちは冒険者が歩いている街道の方に進んでいった。
「う~ん…いないな」
町に帰る冒険者とは反対の方向に歩いて行く。
すれ違う冒険者を観察しては、次の冒険者、次の冒険者へ視線を送る。
「何やってるの?」
「怪我人」
「え?」
「怪我人探してんだよ」
「なんで?弱っている人を襲うの?」
「だから違うっつってんの!!怪我人見つけてお前が治すんだよ!そしたらカネ儲かるじゃん!」
「あ、あぁ!!そうか。回復アイテム買うよりも安く治療してお金稼ぐんだね!すごいよありちー!」
「え?回復アイテム?……」
「え?」
「…」
「…」
「そ、そうだよ!回復アイテムよりな!そうだよ!」
何を言ってるかわからなかった。とりあえず怪我人回復してお金儲かって肉串食べれる!って思ってたけど、ぷるぷるがなんか難しいこと言ってた。けどよくわかんないからまぁ任せておこう。
「たしか、この身体の記憶だと回復薬はけがの程度によって変わるみたい。安いのは50ブロンズ~で、高いのは5シルバー以上になるみたい。その他にも状態異常回復とか…って聞いてる!?」
「え?あぁ聞いてる聞いてる。まぁその辺はぷるぷるが好きにしていいよ。めんどくさい」
「はぁ…。じゃあ怪我人探しはありち―に頼んだよ」
なんか小難しいことをぷるぷるは言っていたけど、途中から何言ってるのかわかんなくなったからもうどうでもいいや。
それに私はカモを…いや、怪我人を探してあげないと!
「怪我人いないなー…」
「いや、怪我人がいないのはいいことなんじゃないの?」
「よくないよ!肉串が買えないじゃん!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「来た!怪我人だ!」
私は暗闇の中ぎこちない歩き方をした二人組を見つけると意気揚々と立ち上がった。
暗くなってきて、もう冒険者の姿もほとんど見なくなった。いつまで探しても怪我人がいなくて街道の端に座ってもうあきらめようと思っていた時、彼らは来た。
「ぷるぷる!!来たよ!いこ!」
「え?行く?!僕のとこに連れてくるんじゃなくて!?って、ちょっと待ってよ!」
私はぷるぷるの手を掴んで冒険者のところへ走りだした。
「にっくぐし!にっくぐし!にっく!にっく!」
「ほ、本当に好きなんだねぇ…怪我人を見て喜ぶなんて人間としてどうかと思うけど…」
「お前たち!どうした!?回復必要か?」
「お、おぉ…相方が足をやられちまって、手持ちの回復役じゃダメなんだ」
「ふふぅ~ん!!」
片足を引きずりながら歩く冒険者は、足首から下が紫に腫れあがっていた。折れているように見える。
(これは、1シルバーは固いかな?…いや、2シルバーかな…)
うしし、と怪我を見てにやけてしまう。私はぷるぷるの手を引っ張って冒険者の前に突き出した。
「よろしく!」
「えぇ!?丸投げなの?…仕方ないなぁ。じゃあ、そのまま動かないでね」
ぷるぷるは怪我をしている足を確認すると、一番ひどそうな足首に手をかざした。
「傷を癒したまえ!ヒール!!」
ぷるぷるの手の光は冒険者の足へうつり、暖かい光を放つとすぐに消えてしまった。
「どう?なおった?」
「お、おぉ!すごい!治ったぞ!!」
「おぉー!!やった!よしカネだ!カネ!ぷるぷる!」
「本当に助かった。助かったぞ。君、ぷるぷるっていうのか。ありがとう。歩くのもかなり大変でな。本当に助かったよ。1シルバーでいいか?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
冒険者が財布から金を出そうとしている時だった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺のことも頼む。腕を痛めてるんだ」
「うん、いいよ。…ヒール!」
……
あれ?
なにもおきない。
「傷を癒したまえ!ヒール!!」
「……ぷるぷる?」
「…………出来ない」
「どした?」
「分かんない……なんか、身体の中が空っぽみたい」
ぷるぷるは自分の手を見ながら不思議そうな顔をしていた。
何度試してもぷるぷるは回復ができなかった。
「おい!ふざけんなよ!なんでこいつだけ治して俺は治さねぇんだよ!」
腕が痛い。と言っていた男は声を荒げた。
「できないものはできないんだよ!しょうがないじゃん!」
「僧侶のクセに、相手選んで回復させんのかよ!」
「じゃあお前、明日また来いよ!」
「なんで俺だけ明日なんだよ!」
「今日はもう売り切れなんだよ!!」
「う、売り切れ!?なんだそりゃ!?…お、俺は納得しないぞ!このバカ野郎!大人をからかいやがって…行くぞ!!」
「え、行くってまだ支払いが…」
「いいんだよ!こんなガキども…大人に無償でご奉仕でもさせればいいんだ!」
「あ、待って回復料…」
「ご、ごめんな」
もう回復ができないって言っただけなのに、なぜか怒って男は歩いて行った。
足を治してやった男も、ぷるぷるが代金を請求しても、ただ謝って払わないで行ってしまった。
カネがもらえなかったショックと、ぷるぷるが回復できなかったショックで声も出なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ね、ねぇ…どこ行くの?」
「町…広場のテーブルにまた肉串あるっしょ」
一日冒険者を待っていて、やっとカモが来たと思ったのにまさか金を取りはぐれた。
夜は肉串とシュワシュワで楽しくやっているはずだったから、ガッカリ感がひどい。
「ダメだよ!また人のテーブルに残ってるの食べるつもりでしょ!」
「いいじゃん。捨てるかもなんだから」
「ダメ!そのうち捕まるよ!」
「じゃあ何食えばいいんだよ!」
「今日はもう我慢して外で寝ようよ!」
風に乗ってたまに広場から肉串のいい匂いが漂ってくる。
ぐぅ~。とまたお腹が鳴る。
腹減った。
金ない。
野宿。
「っつか、なんで回復できないんだよ!ぷるぷるがちゃんとできてれば今頃肉串食えたじゃん!」
「うん、この身体の記憶を思い出してたんだ。原因は魔力切れだって」
「魔力切れ?」
ぷるぷるに連れられてお昼に座っていた草っぱらに戻ってくると私はゴロン、っと横になった。
「そう。回復魔法を使って魔力を使った。2回目のヒールを使うには魔力が足りなかったみたい」
「魔力切れって言われても、そんなの知らないよ!その女僧侶なんだろ?回復一回しか使えねーの?マジでゴミじゃん」
「違うみたい」
「なにが?」
「この身体の魔力は多分減ってない。リップスじゃなくて、僕の…スライムのぷるぷるの魔力が少ないんだよ」
…。
まぁ、スライムだしな。
まじかぁ。せっかく楽でいい商売見つけたのに、回復魔法全然使えないんじゃ意味ないじゃん。
「ねぇ、魔力って、どうやれば増えるの?」
「えぇと…。レベルアップ。つまりたくさん戦って強くなるしかないみたい。普通に生活してたら変わらないみたいだよ」
なんだよ魔力切れって、わかんないよ。私なったことないもん。
しかもレベルアップとか、余計にだるいじゃん。どれだけ戦えばレベル上がるのか?って話。
最悪。
この回復屋はダメだな…。
ゴロン、っとぷるぷるに背を向けて寝っ転がると、遠くに煙が見えた。
「…ん?」
空がうっすらと赤い…。
そこに煙が見える。
「火事?何か燃えてるの?」
走っても行ける距離かな。と思った私はお腹が空いた体に鞭を打って立ち上がると、煙が見えた方へ向かって走りだした。
「ちょ、ありちー!?どこ行くの!」




