6話 人間を助けるスライム
野宿をした者の朝は早い。
明るくなってくると眠れないし、昨日噴水のある場所で適当にベンチに横になっていたらそのまま寝てしまった。
ぷるぷるも隣のベンチで横になっている。
「あぁ…だる」
大きなあくびをして眠い目をこすって目を閉じたまま座ったまま、今度は居眠りをする。頭が時々カクンッと落ちる。そのたびに目を覚ましては100ゴールドが頭によぎる。
昨夜は100ゴールドをどうにか貰えないか。ぷるぷるを連れて行けば金になるかも、とかいろいろ考えて寝ていたせいかあんまり寝た気がしない。
正直金は欲しい。
シュワシュワ毎日何杯のめるんだよ。肉串だってクソほど買えるぞ!屋台まるごと買える…、いや、この際屋台を始めれば毎日食える。
野宿もなくなる。プール付きのめっちゃいい宿に泊まって、美味しいもの食べて…妄想が止まらない。
「100ゴールド…」
「まだあきらめてないの?もう諦めなよ。無理だって」
口から洩れた私の欲望にぷるぷるが嫌そうな顔をしながら返事をして体を起こした。
「なんだ、起きてたの?」
「隣でそれだけカネカネカネ、って言ってればこっちも落ち着かないよ。昨日聞いただろ?探してる僧侶って、たぶんこの身体の人なんだと思う。でも髪も目も変わっちゃってるし、今さら同じ人だなんて思われないよ」
「そんなのわかんないじゃん!もしかしたら半分の50ゴールドもらえるかもしれないじゃん!」
「は、半分て…。無理でしょそんなの。だから諦めて今日もダンジョンへ行って宝箱を探してみよう?」
「やだやだ!100ゴールド欲しい!」
頭を左右にブンブン振って嫌がる私を困った顔で見るぷるぷる。
はぁ。と大きめのため息をついてベンチから立ち上がると、人が大勢いる方を指さした。
「そう言えば、この身体の記憶なんだけど冒険者登録をすると『依頼』っていうお金貰える仕事ができるようになるんだって。そこまで100ゴールドが気になるなら、ギルドはあっちの方向みたい。行って冒険者登録でもしてみない?そのついでに僕を見せてみればいいじゃん。どうせ無理だと思うけど…」
「いいねぇ!なんか面白そうじゃん!100ゴールドもらえるなら行ってみようよ!」
私は100ゴールドがもらえるかも!?という期待で目が覚めて立ち上がると、ぷるぷるが指さした方へ歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…」
ギルドの中は朝なのに人が多かった。どこを見ても人間、人間。人間!うるさいしむさ苦しいし、私はこの場所が好きじゃなかった。
「だいじょうぶありちー?」
「うん、早く終わらせよ」
あきらかに元気がなくなった私を見てぷるぷるが心配そうに声をかけてきた。
「えぇと…受付はあっちだって」
ぷるぷるが入口から入ってまっすぐ奥にあるカウンターを指さして歩き始めた。
その後ろを黙ってついていった。
「すいません。受付はここであってますか?」
「はい、おはようございます。初めての方ですか?」
「あぁ~、はい。そうだよね?ありちー?」
私は黙ってうなずいた。
カウンターの中では私よりも少し年上の女の人が愛嬌を振りまきながら仕事をしていた。
正直、ちょっと苦手な感じ。私はぷるぷるの後ろに隠れながら、ただ終わるのを待っていた。
「初めての方ですね。それじゃ冒険者の登録が必要になるので、あちらのカウンターへ進んでもらえますか?」
女の人が指さしたカウンターを見ながらぷるぷるが離れようとした瞬間、私は腕を掴んで引き止めた。
「ねぇ。100ゴールド。聞いてよ」
「えぇ?ここで?今?僕が??」
急に引っ張られて驚いた様子だったけど、私が言うと少し嫌な顔をしながら受付の方にまた声をかけていた。
「あの、すいません。ちょっと聞きたいんですけどいいですか?」
「はい?なにかお困りですか?」
「困っている…っていうか、その、昨日他の人が話しているのを聞いて、100ゴールドで探している人がいるって」
「あぁ!レイスさんのところのパーティーの事ですね。おっしゃる通り、誰でもいいから僧侶のリップスさんを見つけたら100ゴールドって、ものすごい大金で探していらっしゃるようですね」
受付の人は引き出しから紙を一枚取り出すと渡してくれた。ぷるぷるが受け取ると、私はソレをすぐに後ろから取った。
「その、その人って僕に似てるんですか?…その、今朝声をかけられたもので…」
「んー、私もそこまで詳しいわけじゃないんですけど、似ていると言われれば似ていますが…リップスさんとは髪の色や目の色が違いますから…」
女の人はぷるぷるの顔をよく見ると、首をかしげていた。
「そうですよね。今お話聞いて僕も安心しました。ありがとうございます」
「だから言ったじゃん!無理だって。もうあきらめようよ」
ぷるぷるは女の人に頭を下げて不貞腐れる私の手を取ると小声で文句言いながらその場を離れた。
「帰る」
「は?何いきなり」
「だからもういい!帰る!」
「え?冒険者の登録は?」
「もういい!やらない!」
私はギルドの出口に向かって歩いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんで冒険者登録しなかったのさぁ」
私はぷるぷるより少し前を歩いていた。
ギルドを出てからずっとこの調子だ。
別に、ぷるぷるが悪いわけじゃない。それは知ってる。でも、100ゴールドがもらえなかったことがおもしろくない。私はお金持ちになりたかった。
ぐぅ~…となるお腹を押さえながら昨日の肉串の味を思い出して100ゴールドがもらえなかった。という思考ループをずっとしている。
「ねぇありちー、待ってってばぁ。どこ行くか決めたの?」
「うっさいなぁ!いいじゃんどこでも!!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃん。僕何も悪いことしてないよ?」
「別に怒ってないし!」
ぷるぷるの顔も見ないで私はひたすらにズンズン前に進んでいく。
言われなくてもぷるぷるは悪くない。
でも、なんかムカつく。せっかくギルドまでぷるぷるを連れて行ったのに、髪の毛の色が違うくらいでカネくれないっていうのが納得できない。もっとちゃんと調べてほしい。
「はぁー、ダンジョン行って宝箱漁ればいいんでしょ?それでまたアイテム売って、金稼げばいいってだけじゃん!なにが100ゴールドだよ大ウソツキが!」
「…」
「そもそも、本当に払う気あるのかよ?どうせ見つけても、なんだかんだ言って払わないんじゃねーの?」
「…」
「ねぇ聞いてるの?!」
返事がなくて私は立ち止まると後ろを振り返るが、そこにはあるはずのぷるぷるの姿がなかった。
周囲を見渡してもそれらしい姿はない。
「おーい、ぷるぷるー?」
声をかけるも返事はなかった。
(もしかして、拉致られた?私の100ゴールドなのに誰かが…)
そう思って来た道を走って戻ると、すぐにぷるぷるは見つかった。
道の端っこにしゃがみこんで、人間の子供と何かを話しているようだった。人混みで何を話しているのかまではここからは聞こえなかった。
「傷を癒したまえ!ヒール!」
ぷるぷるが子供の足に手をかざすと、白い光が見えた。
その直後、子供は立ち上がってぷるぷるに何かを言うとすぐに去っていった。
「なにしてんの?」
「え?何って、見てのとおりだよ。子供が怪我して泣いてたんだ。昨日回復魔法が使えるっていったじゃん?試してみようと思ってやったら、案外うまくできたみたい」
スライムが人間の治療ねぇ…。
得意げに話すぷるぷるを見て、変な関係だなぁ。と思って鼻で笑ったけど私は一つの可能性に目を付けた。
「それだ!それだよぷるぷる!!」
「え?なに…なにーー!!!」
ぷるぷるの腕を掴むと、私は一目散に町の出入り口へ向かった。




