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3話 死体 On 死体

 指の隙間からボタボタと落ちる水色の粘液のような塊。

 先ほどまで私の手のひらでぴょこぴょこと可愛かったその姿はなくなった。


「うげぇ…きっしょ!!きっしょ!!!!」


 手のひらをブンブンと振って指に絡みついた粘液を払い落す。

 足元にもビチャビチャと落ちている粘液を踏まないように数歩下がる。


「きもちわる…ドロドロやんこれ」


 壁に手をこすりつけながら倒れている人間とベチャベチャのスライムを交互に見る。これって、これって…。


(あれ…これ、私が殺ったぽく見えない?)


 さっきの男どもは消えてしまったし、魔物も今死んじゃった…。これって誰か来たら非常にまずいんじゃない?ぜったい私犯人にされるよね!?

 頭の中で一通り想像すると、ここにずっといることはよくない。という結論になってすぐに逃げようとちょっと進んだけど、初めて手のひらに乗ってくれたスライムのことが忘れられなかった。

 チラッと後ろを見ると相変わらず倒れた人間と散らばったスライム。気のせいかもしれないけど、さっきより溶けてきてない?なんかデローッとしてる気がする…。


「ふぅ…」


 せっかく懐いてくれたスライムを握りつぶしてしまって、しかもこのまま立ち去るのはあまりにもひどいのではないか…。と責任を感じて戻った。

 しかし、なにもしてやれることはない。


「墓…そうか、墓くらい作ってやればいいか!」


 自分に言い聞かせてウンウンと頷いて早速作業にとりかかろうとするも、手に持っているのは棍棒のみ。穴を掘るにも手が汚れるのはもうイヤだ。


『動物が死んだら、草木の下に埋めるの…その動物はやがて栄養になって、草木は元気になって、また新しい命に繋がるんだよ』


 小さい時にお姉ちゃんに教えてもらったことを思い出した。

 周囲に草木を探してみるが、ゴツゴツした岩肌くらいで、植物なんてない。


「…コイツでよくね?」


 再び棍棒で人間の女をつついて、仰向けにしてみる。

 でも返事はない。これだけつついても起きない。


「……死んでるよね?」

「…」


 返事はない。


「うん。死んでる。死んでるでいいやん」


 バラバラに散らばったスライムの破片をイヤイヤ集める。出来れば触りたくない。棍棒で拾いあげようとしても、ベチャっとすぐに地面に落ちてしまう。

 ものすごく嫌な気持ちを抑え込めるだけ抑え込んで、ゆっくりつまみ上げながら集められるだけ大きな破片を集めて死んでる人間の腹の上に乗せた。


(死んだ人間を肥料にして、スライムが命を繋ぐってこと??あの時はよくわからなかったけど、とにかく死体の上に置いたものはハッピーってことだよね?)


 お姉ちゃんに言われたことが今ちょっとわかった気がする。

 本当は十字架とかなにか置きたいけど、今持ってるのってこの棍棒だけだし、棍棒はお宝だからちょっと置いていきたくないし…。


「まぁいいだろ!また生まれ変わって会いに来いよ!」


 スライムの前で手を合わせてパンパンと手を叩く。よくわかんないけどこうするといいらしい。


「え?なになになに!?」


 手をパンパンと叩いた後、手についたスライムのドロドロが気になってちょっとザラザラしている岩にこすりつけている時だった。


「……ん?」


 僧侶のお腹に乗せた水色の粘液が、ゆっくり動いた。


「え?」


 ぬるり。

 散らばっていた小さな破片まで、地面を這うように女の身体へ集まってきた。


「す、スライム生きてんじゃね?」


 喜んだ直後、スライムは人間の鼻や口や耳から体内に入り込んでいった。

 人間の身体を全て包み込むと、スライムの粘液は人間の体の中に溶け込んでいく。

 ぐにゃ!グニャグニャ!!

 と、時折身体が変な動きをして、手や足がグネグネ動いている。

 見た目だけは相当に気持ち悪い。アンデッドやグールでもこんな動きしないぞ。


「はぁ~~~~」


「ひ、ひぃ!!」


 低い、呼吸のような、息を吐く音が聞こえた。

 驚いて私は大急ぎで近くの岩陰に隠れる。生きてんじゃん!つーか怖いよ!何で今更起きるの!あとちょっと寝ててくれれば私ここからいなくなってたのに!


「いだぁぁい!!!」


 女は立ち上がるとユラユラと少しの間揺れていたけど、急にダンジョンの中に響き渡るほどの大きな叫び声を発した。

 岩陰から頭一つ出して観察していた私に気が付いたのか、女はゆっくり私を見た。


「……きっしょ!!」


 怖い。気持ち悪い。なのにあまりにも動きがおかしくて、変な笑いまで込み上げてくる。

 女の身体が、ぷるん、と揺れた。


 どてっ。


 こちらに歩こうとした瞬間、バランスを崩して倒れてしまった。


「…」


 女は無言で再び立ち上がろうとする。

 そして再び崩れるように倒れる。


「あ、歩けないの?足、痛いの?」


 立ち上がれない姿を見て心配になった私は岩陰から出ると、女のところへ近づこうとした時だった。


「ひゃだぁ!!!」


 立ち上がれないと察した女は急にうさぎ跳びでこちらに迫ってきた。その姿を見て顔が引きつったのが自分でもわかる。

 真顔でうさぎ跳びをしながらこちらに向かってくる女を見て私は叫びながら全速力でダッシュした。



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