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19話 言いたいことは言う

 崩れ落ちたセレナを見て、ニーナは麻痺が残っている身体のはずなのに、ぷるぷるの手を振り払いセレナの方に一歩進んで崩れ落ちるように倒れた。

 上手く動かせない、痺れる身体で、苦しそうにも、少しずつ、這いつくばって進みセレナの手を掴んだ。


「し、死なないで…死なないでよ…」


「……」


「ぷ、…ぷるぷる!!回復!!早く!!」


「う、うん!!」


 呆気にとられてぼーっと立ちすくんでいたぷるぷるは私の声で我に返ると、急いでセレナのところに駆け寄った。


「癒しの光よ、傷つきし者を癒せ。ヒール!!」


 ぷるぷるはセレナを仰向けに横にすると、すぐに回復魔法をかけはじめた。

 床にはセレナを中心に血が広がって紅く染まっている。


「ニー…ナ?…なの?このあったかい手」


「うん…セレナ、私だよ!死なないで…」


「…」


「おいジジィ!!」


 私はガルドを睨みつけると、ガルドはすぐに次の動きに回っていた。


「三人まとめて死ねぇい!!!」


 足をズルズルと引きずりながら、ガルドは剣を振り上げて迫ってきていた。

 ソレを見てすぐに三人をかばうように私は前に立ちはだかる。


「どけぇい!!!邪魔だ!!…剛閃!!」


 ガキィィィン…


 頭上でまばゆい光を放ちながら剣を構えていたガルドが振り下ろしてくるよりも先に、私は渾身の力で刃を殴って砕いた。


「な、なにぃ!!?」


「邪魔!」


 私はそのまま無造作に腕を掴んだまま、ガルドを壁に向かって放り投げた。


 ドォォン!!


「がはっ!!」


 壁に叩きつけられたガルドが床に落ちる。


「ど、どうしようありちー…魔力が…魔力が足りないよ!!」


「気合で振り絞れよ!どうにかなるだろ!!」


「振り絞って出てくるなら今困ってないよ!!…それっ!それ返してよ!!」


 ぷるぷるは私に胸元についているアクセサリーを見ていた。

 そうだ、市場で買ったこのアクセサリー…魔力がアップするとか言ってたっけ。

 私はアクセサリーを外してぷるぷるの背中にとりあえず付けた。


「な、なんてとこに!?」


「べ、別に身につければどこでもいいんでしょこんなの!…それよりどう?!変わった!?」


「…だ、ダメだ…なにも変わった感じがしないよ!」


「あのババァ!!これ偽物かよ!!」


「わ、わかんないよ!!でも、でも…魔力がぁ!!」


「…いいよ。大丈夫…心臓を貫かれてるんだもの。もう、助からないわ…」


 セレナが目を閉じながら静かに言った。

 次の瞬間、ぷるぷるの手から白い光が消えた。


「し、心臓!?」


「あぁ。私も薬師だ。回復魔法も多少使えるし、自分のことくらいちゃんとわかるよ。…もう、少しの延命しかできない。私はもう……死ぬ」


「そ、そんな…セレナ、セレナ…」


「泣かないでニーナ。私はもう…いいのよ。罪を犯しすぎた…」


 ニーナの手を握り返そうとしたのか、セレナの指がほんの少しだけ動いた。


「そんな…昨日の夜言ったじゃない。あれはどうするの?私、まだ続き聞いてないよ?」


 ニーナがその手をぎゅっと握った。


「あぁ…そうだね。続き…か。…続きはニーナ、あなたが作るのよ。ぷるぷる…?私の指輪をニーナに…彼女につけてくれる?」


 呼吸が荒くなってきた。息を吸うたびに、セレナの喉から変な音がする。

 さっきより声も小さくなっている。


「え?あ、あぁ。わかったよ」


 ぷるぷるはセレナに言われるがまま、彼女の左の小指についていた金色に輝く指輪を外してニーナの小指につけた。


「これでいいの?」


「えぇ、ありがと…。いい?今はわからなくていい。そのうちわかるから。私の話の続きは、あなたが見せてちょうだい…」


「わ、私になんて無理だよ…」


「大丈夫よ。…ゴホッゴホッ…」


 苦しそうにセレナが咳き込むと、周囲に血が飛び散った。


「そうだ!回復薬…回復薬はダメなの!?作ってたんでしょ!?」


 私の思いつきも、セレナは静かに首を横に振った。


「ダメ…あの薬は未完成なの…。それに、副作用が…」


 はぁ、はぁ、と苦しそうに呼吸をする姿を見て、なにも言葉が出ない。

 ヒールもダメ。

 回復薬もダメ。

 ……じゃあ、どうすんだよ。


「ニーナ…お別れよ。続き、ちゃんと見てるからね?」


「イヤだ!…イヤだ!!」


 涙を流すニーナの言葉を聞いて、セレナは少し表情が和らいだ。

 深く…、深呼吸をすると、濁った瞳で宙を見ながら、静かに口を開いた。


「ねぇ…魔族の子…」


「・・・なに?」


 なんだよ。

 言いたいことあるなら早く言えよ。


「たまには…素直になりなさいよ。みんな困っちゃうから」


「は?こんな時に何言ってんの?」


「ふふ……」


「笑うな、…ばか」


「…わたし、言いたいこと言った…よ」


 最後にそういうとセレナの体を包んでいた緑色の光は徐々に消えていき、彼女の体から力が抜けた。


「……」


「セレナ?」


 ニーナが呼んでも返事をしない。


「おい」


 声をかけても、なんの反応もない。

 ……死んだの?

 本当に?


「うそだ…嘘だ…セレナ…」


 亡骸の隣で泣きじゃくる姿を見て、私は言葉が出なかった。


「ごめん…ごめんよぉ…僕なんかじゃなくて…ちゃんとリップスだったら…ごめんよぉ」


 隣でぷるぷるまでもが肩を震わせて涙を流していた。

 いや、お前が悪いんじゃない。回復魔法も使えない私が悪いのか?

 ……私が、ちゃんと勉強してたら?魔法の勉強、サボらなかったら。

 ヒールくらい使えた?……そんなの、今さらじゃん。


 胸の奥が、ぎゅぅっとして痛い。


 別にコイツのこと、そんな好きじゃない。

 昨日会ったばっかだし、ニーナに酷いことしたし。

 ……でも、今はそんな嫌いでもない。

 さっきまで喋ってたじゃん。

 もう喋れないの?

 ずっと?


「……なんで死ぬんだよ」


 気づいたら、私の頬にも涙が流れていた。


 ……なんで私まで泣いてんだよ。


「ちゃんと…埋めてあげよう。こいつは、嫌いじゃないし」


「ぐすっ…う、うん…うん…うん…」


「ひっく…ひっく」


「ぷるぷる、ニーナ連れていける?私、ソイツ連れて行くから」


「うん…わかった。…行こうニーナ。僕に掴まれる?」


 ぷるぷるはニーナのことを背負うと、そのままゆっくりと部屋を出て行った。

 ニーナはぷるぷるに背負われながらも、左手の指輪を右手で大切に握りしめていた。

 私は、動かなくなったセレナの目を閉じさせると、そのまま彼女をそっと抱き上げた。

 帰り際ガルドを見ても、さっきのまま動いていない。気を失ったか…死んだか。

 どっちでもいい。私はアイツが嫌いだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 地下室の階段を上がると、騒ぎを聞きつけた町の住人が屋敷の周りに大勢いた。


「ちょ、大丈夫かい!?」

「血だらけじゃないか!」

「ガルド様のお屋敷で何をしてたんだ!?」

「が、ガルド様はご無事なのか!?」

「せ、セレナちゃんじゃないのかい!?使用人の子だろ!?」


 私が抱いているセレナを見て、彼女を知っている人がいた。


「ガルドに…刺されたんだ…。もう死んでる」


「えぇ!?ガルド様に!?」

「そ、そんな嘘だ!!そんなことするわけない!」

「お前、お前がやったんじゃないのか!」

「こんないい子が死んじゃうなんて」

「お姉ちゃん動かなくなっちゃったの?なんで?」


 当たり前の反応か…ガルドはこの町の英雄。ぷるぷるが昨日言ってたな。

 あぁ。考えるのがめんどくさ。


「ガルド様!ガルド様!ご無事ですか!?」


 町の人間が一人、また一人と屋敷の中に入っていく。


「だ、だめだよ!危ないよその中!」


 ぷるぷるが声をかけても、誰も反応しない。

 これがよそ者に対する態度、ってわけか。


「ガルド様!!」

「ご、ご無事でしたか!」

「皆心配しています!」


 屋敷の奥から街の人間の声が聞こえた。

 どの声も歓喜に溢れていたが、それはすぐに変わった。


「や、やめてください!!」

「ガルド様ぁ!!」

「ひ、ひぃやぁ!!」


 怯え…恐怖…苦痛…。屋敷の中から悲鳴が聞こえた。

 屋敷の周りにいた人間たちも、様子がおかしいことに気がついたのか、ざわめき始めた。


「クソジジィ…狂ってるだろ」


 パリィィィン


 ガラスが割れる大きな音が聞こえると、屋敷の玄関が勢いよく吹き飛んだ。

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