15話 捜索
絨毯の敷かれた玄関から入ってすぐ目の前に現れたものに、私たちは驚いて言葉を失った。
デカい斧。
私の身長よりも大きい?と思うくらい大きな斧がガラスケースの中に保管されていた。
持ち手には傷や汚れ、刃にも傷、刃毀れがあって観賞用…というよりも誰かが使っていた記念品、みたいな感じだ。
「でっか…こんなの振り回せる人間って…すごくない?」
ぷるぷるがガラスケースに近づいて斧を見上げながら言った。
「そぉ?軽そうじゃない?」
「…そうでした。えぇ…そうでしたとも…」
「??」
確かに大きいから片手じゃ掴みにくいかもしれないけど、両手なら余裕そうだなって感じ。
でも、飾るよりぶん回した方が楽しそうなのに。
「こんなのいいよ!早くあの部屋に行かないと!」
斧が少し気になったけど、こんなの持って行っても邪魔だろうし、帰りにもらって武器屋に売ることにした。
「う、うん!急ごう!!…僕の安全のためにも…」
「なに!?何か言った!?」
「い、いや!早く行こうって言ったの!!」
目の前に見えた階段に向かって走りだした。階段を駆け上がるとカーテンが揺れた部屋の扉に手をかける。
ガチャ!!
ドアにカギはかかっていなかった。
そのままドアを押し開けると、中は埃を被った部屋だった。
「ここ?!ありち―が言ってたのって」
「知らないよ!この辺!…だから窓割ればよかったのに」
「だめだってば!…と、とにかく窓開けてみようよ。ホコリがすごくて…」
バン!
ぷるぷるが窓を開けると部屋の中のホコリと空気が外へ流れていった。
部屋の床にはぷるぷると私の足跡しかない。この部屋は長いこと使われていなかったようだ。
テーブルの上に枯れた植物と空っぽの瓶が置いてあった。
(…なんだろ。これ。草?)
茶色に枯れた草はつまみ上げようとしてもすぐにバラバラの粉末になってしまう。相当古いもののようだ。空の瓶にもなにか文字が書いてあるけど、もうかすれて読める状態ではない。
私はぷるぷるの開けた窓に近づいて外を見てみる。
左右に窓がいくつかならんでいた。
「ねぇ、玄関ってどっちだっけ?」
「え?玄関?…えーっと、こっちかな」
ぷるぷるが指さした方は反対だった。端から2番目の窓だった気がする。
ここも端から2番目だったけど、それは向こうの部屋だった。
「部屋が違うわ。端から2番目だったけど、こっちじゃなくて向こう!」
「そっか…ありちー、昨日も路地で迷ってたもんね…」
「うっさいな!仕方ないじゃん!だから窓から入るって言ったんだよ!!」
私は部屋を出て人の気配がした部屋に向かってすぐにドアに手をかけた。
ガチャガチャ…。
今度は鍵がかかっていた。
「ここは鍵がかけられているね…本当に誰かいたのかな」
「だからいたんだって言ってるじゃん!どうすんのこれ!?壊す?」
「こ、壊す!?…か、鍵!カギだよ!きっとどこかに鍵があるはず――」
ギチギチ…ガキィン…
「あれぇ?握ったら壊れちゃったなぁ。古かったのかなぁ」
私はドアノブを掴んだままゆっくりと回した。
鍵がかかっていたのでそれは当然回らなくなったんだけど、そのまま何食わぬ顔でゆっくりと力を込め続けると、金属が軋んでへし折れた。
「…。僕、盗賊になったつもりはないんだけど」
「はぁ!?まだ何も取ってないもん!盗賊じゃないもん!」
帰りに斧を貰っていくつもりだったのでちゃんと『まだ』っていう素直なのが私のいいところだ。
「君の手にかかったら鉄格子でも意味がなさそうだね」
「は?当たり前じゃん。あんなのひん曲げて終わりだよ」
折れたドアノブを床に置くと半開きになった部屋の中に入っていった。
「あれ?誰もいないね。…本当にこの部屋なの?」
部屋の中には誰もいなかった。
ぷるぷるは部屋を見渡しながらまた窓を開けに行った。
私も窓から外を見てみる。端から2部屋目。
窓の外に靴の跡がある。きっとさっき私が飛んだ時のだ。ここで間違いない。
でも、この短時間で、私たちに遭遇せずにいなくなるなんて、どうやった?
「ここであってるよ。ホラ、靴の跡がある。どこにいったんだろ」
私は窓の外を指さしてぷるぷるに見せた。
「ほんとだ。じゃあここで間違いないね」
改めて部屋を見渡してみる。
ホコリはない。この部屋はさっきの部屋と違ってきれいだ。
ベッドのシーツも乱れていて、誰かがいたに違いない。
ふと、テーブルの上に目が行った。さっきの部屋と同じく、草が置いてある。こっちはまだ緑だ。新しいのだろう。
瓶は…ない。
私は草を持ち上げてみる。なんか独特なにおいがする。嫌いではないけど、普通の草ではないという感じ。
「なにそれ。どこにあったの?」
「ここ。置いてあったんだよ。なんかくっさい!」
私は窓の方へ戻って外の空気で深呼吸をする。
この部屋にいたのは間違いない。ベッド、テーブル、椅子、本棚、暖炉…特に珍しいものも、物が少ないから逆に怪しいものもこれ以上何もない。
「うげっ!!」
ぷるぷるがさっき渡した草を口から吐き出していた。
「はっ!?なんで食ってるの!?そんなクサイ草美味いわけないじゃん!」
「そ、そうなんだけどさ…この身体の記憶で、似たような草で毒薬っていうのがあったんだ。だから実際に少し食べてみようかと思って」
「スライムのクセにばかじゃん!」
「いや、ニーナに何かあったら僕ぶっ飛ばされるでしょ?頑張っておかないと…。あ、それでこの草、麻痺の効果がある草だよ。体が痺れて動かなくなるから間違って飲んだり食べたりすると危ないね。なんでこんなところにあったんだろう?」
ぷるぷるは、ぺっぺっ、と口に残った草の汁を吐き出す。
「なんでって、…食べるんでしょ?これ。テーブルにあるし」
「毒なのに?」
「実はガルドってジジィは超貧乏で食べ物がこれしかないとか?食べ過ぎて足が動かなーい!って」
「だから足は昔の戦いの古傷なんだって!それに貧乏でも毒草食べるやつなんていないって…」
「だって食べるから置いてあるんでしょ?」
「そりゃ…あっ!そうか、そしたらきっとこの部屋のどこかに…!」
ぷるぷるが何かを閃いて暖炉に手をかけた時だった。
きゃぁあーーーー!!!
ニーナの叫ぶ声が玄関の方から聞こえた。
「どっち!?」
「下!玄関の…した!?」
「地下室ってやつ??」
「そうかも!!」
私たちは部屋から出た二階から一階の玄関を見下ろした。
確かにこっちの方から声が聞こえた。
でも、イマイチ場所まではつかめない。
「どこ!?どうしたらいい!!」
「どど、どこって多分地下室だし、入口はきっとこの部屋のどっかにあると思うけど…遅くなってニーナにもしもの事があったら僕の命がぁ!!」
「地下室OK!!」
二階から玄関を睨んでいたけど、場所がわからない。ぷるぷるは地下室と言った。
地下室って言ってたし、悲鳴が聞こえたってことは緊急事態ってことでいいよね!
私は二階から玄関に飛び降りると、床に思いっきり殴りかかった。
ベキィ!!
床に大きな穴が開いた。
床板をもって、思いっきり上に持ち上げる。
バキバキバキ…
床の木材が軋んで折れて、ドンドン捲れて行く。
床材を剥がしていくと、途中で地下へ続く階段が出てきた。
「これだ!ありちーこれだよ!!」
階段を駆け下りてきたぷるぷるが叫ぶ。
私はそれを聞くと階段のまわりの板をどけて地下へ走った。




