14話 気に入らないからぶっ飛ばす
ぷるぷると合流した私は、あのあとしばらく路地を探していたが結局あのジジィの姿を見つけることはできなかった。
ぷるぷるも周囲を探してくれたのに、影すら見当たらない。
完全に見失った私たちはとりあえずその路地を離れて大きな広場の屋台で肉串に噛みついていた。
「あのジジィ…どこ行ったんだろう。急に消えるなんて変じゃない?」
「そうだね…あんなに足が悪そうなのに…そんな早く移動できるとは思えないけど…」
「あーー!ムカつく!何だよあのジジィは!」
ガブッともう一口。
「さっき屋台の人に聞いたんだけど、あのガルドって人間はかなりの有名人らしくて、この町に住んでればみんな知ってるって言ってたよ」
「そんな有名なのに人殺すの?奴隷買うの?変なの」
「あ、ありちー!そんなこと言ったらダメだって…。ま、まぁ家の場所も実はわかったんだ」
「マジで!?ぷるぷるすごい!それじゃあジジィ殴り飛ばして解決やん!」
「う、うん…まぁ君らしいよね…」
私は肉串を頬張りながら左手で殴る仕草をしてみせる。
「それで?いつ殴り飛ばしに行く?今!?」
「い、いま!?それはちょっと考えた方がいいかな…時間も良くないし、相手はこの町の英雄らしいんだよね」
「えいゆぅ??リセを殺したジジィが?」
「だから…。はぁ、うん、そう。そのジジィは英雄なんだって。さっき聞いた話だと、10年くらい前にこの町にAランクのモンスターが急に襲ってきたことがあって…」
「えぇ!?可愛いやつ!?」
私はドラゴンが好きだ。いつか手懐けてペットにして、乗ったり遊んだりしたいと思ってる。ドラゴンも種族によってはA、もしくはSランクがいるらしいし…。いつか、真っ白なドラゴンに乗ってみたい…。
「か、可愛い??…う~ん、話を聞くとトロール系のモンスターらしいよ。大きくて強かったって」
「あ。パス。あいつら嫌いなんだよね。臭いし何言ってるかよくわかんないし…まぁそれで?」
「…その、ガルドってやつが一人で倒したんだ。それで、この町の英雄らしいよ」
「ふぅ~ん。あんな杖のジジィに…ねぇ」
「その時にできた傷のせいで、あんな足になったらしいよ。今でも当時のことを知っている人は多いから、この町でガルドを敵に回すとちょっと面倒じゃないかなぁ」
「ちょっと…ねぇ…いっその事より忍び込んで襲っちゃうとかは!?」
「だ、ダメ!それやっちゃうと僕たち絶対悪人になっちゃうし、最初から喧嘩しに行くわけじゃないんだよ?それに…」
ちょっと冗談を言っただけなのにぷるぷるは慌てて何かを言ってきた。
最後にちょっと言いにくそうにモゴモゴしてたのが気になる。
「それに?」
「…う、うん…それに」
「はははー、ぷるぷるってそらのお散歩したいのかな?」
私は片腕を上にあげてにっこりとぷるぷるにほほ笑んだ。
「ち、ちち違うよ!こんなところでやめてよ!危ないでしょ!…僕が言いたかったのは、本人から聞いたわけじゃないから、リセを殺したのも、まだガルドが完全な悪っていうのも決めない方がいい、ってことを言いたかったんだよ」
「あっそ。興味ない」
「…」
最後の一口を頬張りながら、近くを流れる川を見ていた。
黒い…。ところどころに灯が反射して水面がキラキラとしている。
「ねぇ!ここのシュワシュワって、他のところのより炭酸がちょっと強めで美味しくない?」
「えぇ…僕好きじゃないんだよそれ…。体がピリピリするっていうか…水分はやっぱりお水が一番いいな」
確かに…言われてみると最初に飲ませてからいつの間にか水を飲むようになっている。苦手だって言ってたし…スライムだから身体に炭酸がうつるのかな。
色付きのジュースや飲み物飲ませたら体の色変わったらおもしろいな。
「ねぇありちー。今、僕で遊ぼうとしてない?」
「えぇ!?し、してないよ!はは!ばっかじゃないの」
まさしく青くなったらとか黄色とか、混ぜたら?とか考えていた時だから驚いてしまった。
「はぁ…怖いなぁ。…まぁとりあえず、ガルドのところは明日行ってみようよ。今日はもう遅いし、なにかあってからじゃ僕たちが本当に悪者になって捕まっちゃうから。ね?」
「はいはい。今日はたくさん走って疲れたし、なんか眠くなってきたし…言う事きくよ。急いでも死人は生き返らないしね」
大きなあくびをしながら残ったシュワシュワを飲み干すと私たちは宿へ戻ることにした。
「うん、ごめんねありちー。ありがと」
「??はぁ?…ただ眠いし、ちょっとだるくなっただけだし」
後ろを歩くぷるぷるが、ちょっと元気ないのはもしかしたらもっと喰いたかった?くらいにしかこの時は考えてなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「てめぇ!ぶっ殺すぞこのくそスライム!!」
「ひ、ひぃぃ!!だ、だから昨日夜に謝ったじゃないか!!」
「うっさいなぁ!!文句言うなよ!!」
私は次の日の朝。ぷるぷるに朝起こされて身支度をしていた時にニーナのことを話された。私たちが奴隷屋のところに行ったときには既にニーナはいなかった。あの時すれ違ったガルドが買ったというじゃないか。ジジィ一人だったから買ったなんて思いもしなかった。
なんでよりによってニーナなんだよ。他にもいただろ!!
「そ、そこ曲がって!そしたらしばらくまっすぐだよ!!」
私はぷるぷるを肩に担いだまま宿を飛び出し、そのままガルドの屋敷へ向かっていた。
遅くなってはダメだ…。リセは翌日死んでいた。最悪ニーナも間に合わないかもしれない。あのムカつく目。何か言いたそうな、ウジウジした態度。
あいつ、めっちゃ気に入らない!
「あ、あの…アリシアさん?僕、そろそろ苦しくて…」
「うるせー!!黙ってそこに乗って死んでろ!」
絶対に一発ぶん殴ってやる。ニーナ取り返したらこのくそスライムもぶん殴る。
私はそう思いながら朝の街並みを走り抜けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほ、本当にもう口からスライムが出るかと思った…」
「お前どういう身体してんだよ。口からスライムって」
無事にガルドの屋敷まで来た私はぷるぷるを地面に捨てた。
力なく地面に落ちたぷるぷるは咳き込みながらぐったりとしていた。
「おい。ニーナに何かあったらお前覚悟しとけよ?」
「え!?ありちーそんなニーナのこと大切にしてないじゃん!何でそこまで肩入れするのさ!おかしいよ!」
「気に入らないから殴りたいだけ。以上!!」
「そ、そんなむちゃくちゃな…」
「んで、ニーナ殴ったら次お前な」
指をボキボキっと鳴らしながらぷるぷるに笑いかける。こいつ、最近調子乗ってるからちょっと懲らしめてやらないと。
「ど、どっちみち僕は殴られるじゃん!イヤだよ!せめてニーナ無事なら許してよ!」
「いいからさっさと行けよ!お前の仕事だろ!あのジジィ連れてこい!」
「お、お願いしますガルド様…僕のためにもあなたのためにもニーナに何もしないで…」
ぷるぷるの尻を軽く蹴飛ばすと慌てて屋敷の入り口に向かいながらブツブツとぷるぷるは言っていた。
大き…くはない。そこまで大きくないけど立派な屋敷に見えた。庭なども手入れされているし、見た目はそれほど気にならないけど…。
(ここ、人間がいるの?気配が…)
窓にかかるカーテンの隙間、話し声や生活音などが一切聞こえない。
まるで無人のような…。
「すいませーん!誰かいませんかー?」
ぷるぷるが玄関前で声をかけてみるも、誰からも返事はない。
「ニーナのことで話に来ましたー!だれかー?」
ドンドン、と扉を叩くも返事はない。
誰もいないんじゃね?と思った瞬間、2階の窓越しのカーテンが一瞬揺れたのを私は見た。
「よっと…」
私は窓の手前までジャンプした。
「わ!ちょ、ちょっとなんでそんなところにいるの!?」
下からぷるぷるが見上げて慌てていた。
「え、この部屋、誰かいるんだよ。カーテン揺れたし、今なんか物音も聞こえた。中見えないけど…叩き割ってもいいよね?」
「ば、バカなの!?ダメだって!ダメって言ったじゃん!そういうの!いいから戻ってきなよ!」
「ちぇっ…めんどくさ」
私は窓からぷるぷるのところへ降りた。
「しれっとすごいことしてるけど、ありちーってそんなことできるの?」
「え?普通でしょ。姉ちゃんと昔、壁登り対決とかやったし。みんなするっしょ?」
「し、しないしない!普通はそんなことしない。き、木登りとかじゃない?」
「世界樹とか?」
「そんなのそこらへんにポンポン生えてないよ!それだよ!その木!後ろにいっぱいあるでしょ!」
振り向いてみると普通の木が数本見える。
「こんなの殴り相手にもならないよ」
「ときどき、すごいこと言うよね。本当になんなんだよ。きみ」
「だから、ありちーはありちーなんだって。ってか、コイツでてこないじゃん!…」
私はドアに手をかけて、ガチャガチャっと開かないか試してみた。
ボキィ!!
ポロポロ…。と木くずが地面に落ちた。
キィィィィ…
玄関の扉が自然にゆっくり開いた。
「これって、どうぞ!ってことじゃない?」
「ちがうよ!」
私は玄関のドアを足で蹴飛ばし、そのまま中に入っていった。




