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『最弱の戦略家は復讐しない 〜俺を騙したパーティーを俺のクランで雇い直す。ざまぁより、そっちが"勝ち筋"だったので〜』  作者: めざし
盤面の外へ編

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第66話 灯を掲げる者

時は少し先へ進み...


——ガルド視点


その報せが届いたのは、レイジたちが王都へ発って五日が過ぎた頃だった。


「ガルドさん! 敵襲です! それも、街の裏手から!」


伝令が血相を変えて駆け込んできた。俺は思わず立ち上がった。裏手から、だと。ミストリアの正面は、レイジの張った霧の防壁が守っている。王国軍は、あの霧を越えられない。だが、裏手は。


「森を迂回してきたか」


霧の防壁を避けて、街の背後へ回り込んだ。手間も日数もかかる道を、あえて選んで。よほど切羽詰まった連中だ。


俺は大楯を掴んだ。



街の裏手に出ると、二百に近い一団がいた。


冒険者だ。装備も得物もばらばら。だが掲げている紋章には、見覚えがあった。冒険者ギルドの紋章。それも、王都ギルド本部の直轄を示す、金の縁取り。


その先頭に、でっぷりと肥えた男が立っていた。上等な衣を着込み、指には宝石。冒険者ではない。こいつが束ねている者か。


「ほう。貴様が、この街の守りか」


男が値踏みするように、俺を見た。


「私は王都ギルド本部のギルドマスターだ。この街を、我々がもらい受ける。──おとなしく明け渡せ」



ギルドマスター、か。


俺はその顔をじっと見た。狸のように肥えた顔。その奥の、抜け目のない目。──こいつの後ろにあるものが、俺には手に取るように分かった。


利権だ。難度を偽り、平民を安く使い潰し、金を抜き、上に納める。あの、俺が飲み込まれていた構造。その頂点に近い場所にいる男。


「断る」


俺は短く言った。


「この街は渡さねえ。一歩たりともだ!」


「威勢のいいことだ。だが見ろ。こちらは二百。貴様らは、せいぜい百かそこらだろう」


ギルドマスターが下卑た笑みを浮かべた。


「それに──貴様らが匿っているのは魔族だ。人の敵だぞ。それを守って、何になる」



その時、俺の後ろから、若い声が飛んだ。


「二百? 数だけ揃えても、烏合の衆だろ」


ヴァイスだった。第一部隊の連中を率いて、俺の隣に並ぶ。その後ろには、クレイとリルさんの姿もある。


「ガルドさん。ここは俺たちが預かった街だ。レイジさんに任されたんだ。──守り抜くぞ」


「ああ」


俺は頷いた。ヴァイス。この若い魔族は、いつの間にか一部隊を率いる男になっていた。レイジが、ソラが、こいつに継いだものが、確かに根を張っている。


「行くぞ野郎ども! ミストリアを舐めるなよ!」


ヴァイスの号令で、第一部隊が動いた。



戦いが始まった。


だが、それは戦いと呼べるほどのものではなかった。


「な……速い!?」


「くそ、囲まれ……ぐあっ!」


攻めてきた冒険者たちは、魔物討伐には慣れていても、対人の戦にはまるで不慣れだった。連携も統率もない。ただ数を頼みに、押し寄せてくるだけ。


対して、ヴァイスの第一部隊は、ソラが鍛え、ヴァイスが磨いた精鋭だ。クレイの指揮が戦線を的確に組み立てる。リルさんの水魔法が、敵の足を、視界を削っていく。


冒険者たちが次々と地に転がされていった。峰打ちで。当て身で。殺さずに。



俺は大楯を構えながら、その光景を見ていた。


そして気づいた。攻めてくる冒険者たちの、顔に。


若い。そして擦り切れている。装備は安物で、体は痩せて、目には余裕がない。追い詰められた者の顔だ。──これは、甘い汁を吸ってきた連中の顔じゃない。搾取されて、燻って、それでも冒険者を続けるしかなかった、名もなき者たちの顔だ。


俺は大楯を、地に突き立てた。


そして腹の底から、声を張った。


「お前ら! なんでこんなことをしてる!」



冒険者たちの動きが、わずかに止まった。


「ギルド本部に言われたんだろう! このままだと破滅だと! ミストリアを落とせば、全部なかったことになると! ──だが、考えてみろ!」


俺は続けた。


「お前らは、ずっと搾取されてきたはずだ! 難度を偽られ、安く使い潰され、危ない役ばかり押し付けられて! その、お前らを食い物にしてきた連中が! 今さらお前らを助けると思うのか!」


冒険者たちの顔に、動揺が走った。図星なのだろう。


「この戦でお前らが死んでも、あいつらは痛くも痒くもねえ! お前らはまた、使い捨てられるだけだ! それが搾取ってもんだろうが!」



「──黙れ、裏切り者が!」


ギルドマスターが声を張り上げた。


「聞くな、お前たち! この男は連邦の犬に成り下がった、恥知らずだ! いいか、貴様らは冒険者だ! 魔物を狩り、依頼をこなし、富を得る、人の側の人間だろう!」


ギルドマスターが、ミストリアの街を指さした。


「そこにいるのは魔族だ! 家畜同然の化け物だぞ! それを狩って、街を奪って、何が悪い! 貴様らには、その権利がある!」


家畜。その言葉に、俺の腹の底が冷たくなった。かつて、俺が飲み込まれていた、あの価値観。魔族は人ではない。だから奪ってもいい。踏みつけてもいい。──その毒が。



その時だった。


「……ガルド......」


冒険者の一人が、俺の顔を見て、掠れた声を上げた。


俺はその男を見た。痩せた頬。荒んだ目。だが、その面影に──俺は覚えがあった。


「お前……ダグ...か?」


ダグ。かつて紅の盾の、臨時メンバーだった男。四ヶ月、囮として使い潰して、それきり街を去ったと思っていた。あの、俺が搾取した十四人のうちの、一人。


「ダグ……お前、生きて──」


「生きてたさ!」


ダグが吼えた。その目に、憎しみが燃えていた。



「あんたに囮にされてなァ! 死にかけて、右腕は動かなくなって、それでも生きてやったよ!」


ダグが、動きの鈍い右腕を突き出した。


「まともな依頼は受けられねえ。パーティーにも入れねえ。ギルドにいいように使われて、それでも食うために冒険者を続けるしかなかった! ──全部、あんたのせいだ、ガルド! あんたが俺をこうしたんだ!」


その叫びが、俺の胸を抉った。


俺はこの男から、未来を奪った。四ヶ月、囮に使って、擦り切れさせて、捨てた。その結果が、この荒んだ姿だ。


「…………すまなかった」


俺は頭を下げた。



「すまなかった、ダグ」


俺は絞り出した。


「俺はお前を使い潰した。許してくれとは言わねえ。償いきれることじゃねえ。──ただ、謝ることしかできねえ。本当に、すまなかった」


「謝って済むと思ってんのか!」


ダグが剣を握りしめた。


「俺の右腕は戻らねえ! 奪われた歳月は戻らねえ! あんたが今さら頭を下げたって、何も──!」


その通りだ。何も戻らない。俺の謝罪は、あまりにも遅く、あまりにも軽い。


分かっている。それでも俺には、謝ることしかできなかった。



その時。


「きゃあっ!」


甲高い悲鳴が上がった。


見ると、街の路地から、二人の子供が飛び出してきていた。魔族の兄妹だ。避難が遅れたのだろう。幼い妹の手を引いて、兄が必死に逃げ場を探している。


その二人へ。混乱の中、一人の冒険者が剣を振り上げていた。ギルドマスターの言葉に煽られたのだろう。魔族は家畜──その毒に。


「やめろぉぉっ!」


俺は駆けた。



間に合え。


俺は地を蹴り、子供たちと剣の間へ、体をねじ込んだ。


大楯を掲げる。


がぎぃんっ!


冒険者の剣が、俺の大楯を叩いた。重い。だが退かない。俺は二人の子供を背中に庇いながら、その一撃を受け止めきった。


「大丈夫か。もう、大丈夫だ」


俺は震える子供たちに、そう言った。兄が妹を抱きしめて、こくこくと頷く。その目に、涙が溜まっていた。



俺は子供たちを庇ったまま、立ち上がった。


そして、冒険者たちを見回した。


「見ろ! これが、お前らが剣を向けてる相手だ!」


俺は叫んだ。


「この、震えてる子供が! 家畜か! 化け物か! ──違うだろうが! 人だ! 俺たちと同じ、人なんだよ!」


冒険者たちが、その子供たちを見た。怯え、涙を溜め、兄が妹を庇う、その姿を。



「俺は……!」


俺は腹の底から叫んだ。


「俺は過去に間違えた! 搾取して、仲間を使い潰して、その構造の駒になった! ──だが、もう繰り返さねえ! 二度と、弱い者を踏みつける側には立たねえ!」


俺は大楯を握りしめた。


「お前らも搾取されてきたんだろう! その痛みを知ってるだろう! なら、なんでその痛みを、この子たちに味わわせる! お前らを踏みつけた連中と、同じことをするのか!」


静寂が落ちた。



ダグが、俺を見ていた。


その目から、憎しみが揺らいでいた。


「……信じても、いいのか」


ダグの声が掠れた。


「あんたが本当に変わったって、信じてもいいのか。また騙されるんじゃ、ねえのか……」


「騙りじゃねえ」


俺はまっすぐ、ダグを見た。


「証明する。この命で。──俺はこの街の、こいつらの盾になる。人も魔族も関係ねえ。二度と、誰も踏みつけさせねえ」



ダグが、剣を下ろした。


「……もう、いい」


ダグが呟いた。


「もう、いいんだ。俺はもう、疲れた。搾取されて、搾取して……そんなの、もうたくさんだ」


ダグが、剣を地に落とした。


からん、と乾いた音が響いた。それをきっかけに。一人、また一人と。冒険者たちが、武器を下ろし始めた。擦り切れた者たちから。搾取されてきた側の、者たちから。



「な……何をしている!」


ギルドマスターが慌てた。


「戦え! 貴様ら、戦わんか! ──ええい、まだ立てる者はいるだろう! あの魔族どもを狩れ! 家畜を殺せ! 街を奪って、富を手に入れろ!」


ギルドマスターが、後方に残った者たちを煽り立てた。まだ武器を握る、屈強な冒険者たち。搾取構造の中で、甘い汁を吸ってきた側の連中だ。奪うことに慣れた目をしている。


「魔族は家畜だ! 奪ってもいい! それが人の権利だ! お前たちは間違ってなどいない!」


その言葉に、甘い汁を吸ってきた者たちが動いた。まだ諦めていない。利権の、旨みを。



俺は大楯を構えた。だが、得物はそれだけだ。攻めの剣がない。


その時。


「ガルドさん!」


ヴァイスの声。振り向くと、ヴァイスが自分の剣を、こちらへ放っていた。


「やっぱ我慢できねえわ! それ使えよ! ──その腐った冒険者どもを、斬っちまえ!」


剣が宙を舞い、俺の足元に突き立った。


俺はその剣を見た。そしてヴァイスを見た。──こいつ、口では「斬れ」と言いながら。その目は。



その目は、言っていた。


(斬らないでくれよ、ガルドさん)


と。


ヴァイスは分かっている。俺がどういう男か。この剣を、どう使うか。「斬れ」と言いながら、本心では、俺を信じている。レイジが、ソラが、こいつに継いだもの。──自分で考えろ。自分で選べ。ヴァイスはそれを、俺に託したのだ。


俺はその剣を、拾い上げた。



俺は剣を手に、冒険者たちの前に立った。


そして、切っ先を下げたまま。静かに問うた。


「お前ら」


俺は背後の、魔族の子供たちを示した。


「この子供にも、剣を振れるのか」


冒険者たちが、息を呑んだ。


「この震えてる幼い子に、刃を突き立てられるのか。──こいつが。この子が。本当に人じゃねえって、言えるのか」



沈黙。


そして、一人の冒険者が、剣を取り落とした。


「……無理だ」


その男が呟いた。


「無理だよ。こんな子供を斬れるかよ。あれは人だ。どう見たって、人じゃねえか」


その言葉が、堰を切った。



「俺も無理だ」


「あれが家畜なんて、嘘だろ」


「もう、戦えねえよ……」


冒険者たちが、次々と武器を手放していった。搾取されてきた者たちの、大半が。


「俺たちの負けだ。……いや、負けじゃねえ。目が覚めたんだ」


一人の冒険者が、両手を上げた。


「投降する。処罰は受ける。こんな戦、続けらんねえ。あんたの言う通りだ、ガルド。俺たちは、あいつと同じ側に立っちまうところだった」


半分以上の冒険者が、戦いをやめた。



「おのれ……おのれぇ!」


ギルドマスターが顔を真っ赤にした。


「役立たずどもが! ならばお前たち、甘い汁を吸ってきた者だけでもやれ! 報酬ははずむ! 街の富は全部、お前たちのものだ!」


残ったのは、三十人ほど。こいつらは下りない。金と利権の味を知っている。魔族を狩ることに、何のためらいもない目をしている。


「仕方ねえ」


俺は剣を構え直した。峰を返して。


「目が覚めねえってんなら。──叩き起こしてやる」



「ガルドさん、一人で抱えるな!」


ヴァイスが駆け寄ってきた。その隣に、クレイも。


「俺たちもやります。ローゼンの当主として。この街の仲間として」


クレイが剣を構える。ヴァイスは素手のまま、拳を鳴らした。


そこへ、セシリアの声が響いた。


「みんなに祝福を! ──どうか、無事で!」


温かな光が、俺たちを包んだ。セシリアの祝福。体が軽くなる。力が満ちる。俺の古傷すら、この一瞬は痛みを忘れた。



「行くぞ!」


俺たちは、残った者たちへ斬りかかった。


だが、殺しはしない。俺は峰打ち。クレイも峰で。ヴァイスは拳と当て身で。リルさんの水魔法が、敵の動きを絡め取る。祝福を受けた俺たちの武が、甘い汁を吸ってきた連中を、圧倒していく。


「ぐあっ!」


「こ、この化け物どもが!」


「化け物はどっちだ」


俺は剣の腹で、一人を打ち据えた。どがっと。


「子供に剣を向けて恥じねえ奴が。──お前らのほうがよっぽど化け物だろうが!!」



次々と、敵が倒れていく。


祝福を受けた俺たちの連携。クレイの指揮、ヴァイスの武、リルさんの魔法、セシリアの支え。そして、俺の盾と剣。──かつて搾取の駒だった俺が。今は、灯を守る盾になっている。


最後の一人が地に沈んだ時。


残ったのは、ギルドマスター、ただ一人だった。



「ひ……ひぃっ」


ギルドマスターが後ずさった。でっぷりと肥えた体を震わせて。


「ま、待て! 私は王都ギルド本部の、ギルドマスターだぞ! 私に手を出せば……!」


俺は剣を捨てた。


そして、ギルドマスターへ、まっすぐ歩み寄った。


「お前が」


俺は拳を握りしめた。


「お前みたいな奴が、難度を偽って。平民を使い潰して。金を抜いて。──俺を、ダグを、あの十四人を。街じゅうの燻る冒険者を。全部、食い物にしてきたんだ」



「ま、待──」


「待たねえ」


俺の拳が唸った。


どがっ!


渾身のグーパンチが、ギルドマスターの顔面に突き刺さった。狸みたいな顔が、無様にひしゃげる。でっぷりと肥えた体が宙に浮いて、地面に叩きつけられた。


白目を剥いて、ギルドマスターは動かなくなった。


搾取構造の頂点に近い男は、たった一発の拳で、あっけなく沈んだ。



静寂が戻った。


戦いは終わっていた。投降した冒険者たちが、呆然とその光景を見ている。甘い汁を吸ってきた連中は地に伏し、ギルドマスターは白目を剥いて伸びている。


俺は大きく息を吐いた。


「……ヴァイス」


俺は若い魔族を見た。


「投降したこいつらだ。許してやっちゃくれねえか。こいつらも、搾取されてきた被害者だ。目が覚めたなら、それでいい」



ヴァイスは、しばらく投降した冒険者たちを見ていた。


そして、にっと笑った。


「なあガルドさん。──攻めてきたのって、そこで伸びてる狸おやじと、そいつに尻尾振ってた連中だけ、だよな?」


「……ヴァイス?」


「クレイ。リル。お前ら、そこにいる連中が攻めてきたの、見たか?」


ヴァイスが、クレイとリルさんに問うた。


クレイが、ふっと笑って肩をすくめた。


「さあ。俺は狸おやじと、その手下しか見ていないな」


「わたしも、知りません」


リルさんも、こくりと頷いた。


「そんな奴らしりませーん。」

「そんな奴らいたか?」

「さぁ?あのおっさんとあの連中くらいじゃね?」


第一部隊の連中も口をそろえ答えた。



俺は、その意味を悟った。


こいつらは、投降した冒険者たちを「攻めてこなかったこと」にしてくれるつもりだ。罪を問わない。なかったことにして、迎え入れる。──レイジが、俺にしてくれたのと同じように。


「お前ら」


ヴァイスが、投降した冒険者たちに向き直った。


「聞いての通りだ。お前らは攻めてこなかった。ただ、道に迷ってただけだ。──だがな」


ヴァイスが、にやりと笑った。


「壊したとこは、直してもらうぞ。街の塀も、割れた石畳も、全部だ。それと、その腐った根性も。俺がみっちり、叩き直してやる。覚悟しろ」



投降した冒険者たちの顔に、戸惑いと、そして涙が滲んだ。


「……いいのか。俺たちを、仲間に……?」


「よかねえよ。労働だ、労働。タダ働きしてもらうからな」


ヴァイスが、あっけらかんと言った。


「けどまあ、行き場がねえんだろ。搾取されて、使い潰されて、ここまで来ちまったんだろ。──なら、ここでやり直せよ。ミストリアは、そういう街だ。人も、魔族も、行き場のねえ奴も。全部、受け入れる」


ダグが俯いた。その肩が震えていた。


「……ちくしょう。なんだよ、それ。救われちまうじゃ、ねえか」



ダグたちを、第一部隊が街へと案内していく。伸びた連中とギルドマスターは、縄を打たれ、牢へと運ばれていった。


戦いの後始末が進む中。


ヴァイスが、俺の隣に来た。


「ガルドさん」


「なんだ」


「あんた、思うところがあるんだろ」


ヴァイスが、まっすぐ俺を見た。



「そこで伸びてる狸おやじ。あれは王都ギルド本部の、ギルドマスターらしいじゃねぇか。──ってことは、この一件の大元は、王都だ。レイジさんとソラが向かった、その先だ」


ヴァイスが続けた。


「あんた、行きたいんだろ。レイジさんとソラのいるところへ。決着を、最後まで見届けたいんだろ」


俺は答えなかった。だが、ヴァイスには伝わっていた。



「ここは任せろ」


ヴァイスが胸を叩いた。


「俺が預かった街だ。あいつらの根性も、叩き直しとく。──だから、行ってこいよ、ガルドさん」


「……ヴァイス」


「あんたは、あんたの決着をつけてこい。搾取の始まりから、終わりまで。全部見てきた、あんたが。その場にいなくて、どうすんだ」


若い魔族の目が、まっすぐだった。レイジが、ソラが、継いだもの。それが確かに、ここに根を張っている。



俺は、セシリアを振り返った。


「セシリア」


「はい」


「俺は王都へ行く。搾取の決着を、見届けに。だが──危険な戦いになる。相手は、王国そのものだ。お前を巻き込むことに──」


「ついていきます」


セシリアが、俺の言葉を遮った。



「あなたが正しいことをするのを、隣で見守る。──そう約束したでしょう」


セシリアが微笑んだ。


「今度こそ逃げずに。あなたの隣で。最後まで見届けます。それが、私の望みです」


俺は、その笑顔に胸が熱くなった。六年間、俺を見捨てずにいてくれた女。今もこうして、俺の隣にいてくれる。


「……ありがとう、セシリア」


「はい」



「俺たちも行きますよ」


そこへ、クレイがリルさんを連れて、やってきた。


「レイジさんの最後の戦いだ。ローゼンの当主として、見届けないわけにはいかない。──それに」


クレイが、俺を見て笑った。あの、横柄だが品のある笑みで。


「あんた一人を行かせるほど、俺たちは薄情じゃない。馬は、もう用意してあります」


「わたしも行きます。ガルドさんのみなさんの力になりたいので!」


リルさんも、こくりと頷いた。



俺は、仲間たちを見回した。


セシリア。クレイ。リルさん。──そして、街を任せられる、ヴァイス。


かつて俺は、一人だった。搾取の構造の中で、誰にも言えず、金策に追われ、仲間を使い潰し、壊れかけていた。


だが、今は。


こんなにも多くの仲間が、俺の隣にいてくれる。


「……行くぞ」


俺は大楯を背負い直した。


「王都へ。搾取の大元へ。──全部、終わらせに行く」



馬に跨る。


ヴァイスが、街の門で俺たちを見送った。


「ガルドさん! レイジさんとソラに伝えといてくれ! ミストリアは、俺が守るってな!」


「ああ! 任せたぞ、ヴァイス!」


俺は手を振った。


そして馬を駆った。セシリアと、クレイと、リルさんと共に。北へ。

そして王都へ。

レイジと、ソラの待つ場所へ。


搾取の始まりを見た男が。その終わりを、見届けるために。



街を出る。


風が頬を撫でた。北の空の下、王都はまだ遠い。だが、その空の下で、レイジが盤面を組んでいる。ソラが剣を振るっている。


俺の拳の痛みが、まだ残っていた。ギルドマスターを殴った、あの拳の。


搾取の構造。俺を飲み込み、俺が飲み込まれた、あの毒。その大元が、王都にある。


「待ってろよ、レイジ」


俺は呟いた。


「お前が始めた、この戦い。──最後は俺も、その盤面にいさせてくれ」


馬蹄の音が、北へと駆けていく。灯を掲げた男が、その始まりと、終わりを繋ぐために。

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