↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『最弱の戦略家は復讐しない 〜俺を騙したパーティーを俺のクランで雇い直す。ざまぁより、そっちが"勝ち筋"だったので〜』  作者: めざし
盤面の外へ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/77

第65話 俺のフィオナ

——フィオナ視点


それは勝利の歓声の、すぐ後だった。


ヴェルグが落ちた。フィオナがほっと息をついた、その一瞬。背後に気配が生まれた。振り返る間もなく、腕を掴まれる。冷たい何かが、手首に嵌められた。


かちり、と。


「これは……魔術封じの腕輪!?」


魔力がすっと引いていく。練ろうとしても、指先に何も集まらない。封じられた。フィオナの、最大の武器が。



「いやーごめんねー、お嬢さん」


軽い声だった。振り向くと、軽装の男がにっと笑っていた。盗賊のような身のこなし。いつの間に、こんなに近くへ。


「悪く思わないでね。これも仕事なんだぁ」


その手がフィオナの首筋へ伸びた。かわそうとする。だが魔力を封じられ、体術も並のフィオナには、その速さに追いつけない。


とん、と首筋に軽い衝撃。視界がぐらりと歪んだ。意識が急速に遠のいていく。倒れる体を、誰かが抱き止めるのがわかった。



次に目を覚ました時、フィオナは揺れる馬車の中にいた。


薄暗い荷馬車。手首には、まだ魔術封じの腕輪。周りを数人の男女が囲んでいた。皆、只者ではない気配。手練れの冒険者たちだ。


「お目覚めですか」


穏やかな声でそう言ったのは、僧衣を纏った女だった。柔和な顔立ち。だが、その目は少しも笑っていない。


「申し訳ありませんが、私たちは依頼を受けただけなのです。あなたを王都までお連れする。それが仕事でしてね」



僧侶の女が、懐から何かを取り出した。


黒い金属の冠。禍々しい意匠。フィオナは、その形に見覚えがあった。かつてソラに嵌められた、あの──。


「支配の、冠……!?」


フィオナの背筋が凍った。


「あら。ご存じでしたか」


僧侶が微笑んだ。


「なら話は早い。これを付ければ、あなたは私たちの言うことを聞く、従順な兵になるそうです。連邦の主力魔術師が、王国側の戦力になる。──王への、いい土産だそうです♪」



「やめ……!」


フィオナは身をよじった。だが両側から屈強な男たちに押さえつけられる。


抗おうとした。魔力を、練ろうとした。だが、指先には何も集まらない。魔術封じの腕輪が、フィオナの力を、根こそぎ奪っている。


(魔力さえ、あれば……!)


魔王をも超えると言われた、その魔力。

それがあれば、こんな冠、弾き返せたかもしれない。だが今のフィオナは、ただの非力な娘だった。

抵抗する術が、何一つ、ない。



冠が、額に近づいてくる。


フィオナは、必死に、首を振った。逃れようとした。だが、押さえつけられた体は、指一本、思うように動かない。目の前に、黒い冠が迫る。その禍々しさに、意識が呑まれそうになる。


(いや……いや……!)


心が、悲鳴を上げる。だが、その悲鳴を、力に変える術がない。魔力を封じられた者に、支配の冠は、あまりにも無慈悲だった。


レジストなど、できない。ただ、受け入れるしか、ない。その、絶望。



冠が、額に触れた。


冷たい金属の感触。その瞬間、フィオナの意識に、黒い何かが、流れ込んできた。自分の考えが、塗り替えられていく。誰が敵で、誰が味方か。その線引きが、書き換えられる。


「あ……あ……」


自分が、自分でなくなっていく。抗えない。押し流されていく。フィオナは、その濁流の中で。


たった一人の顔を、思い浮かべた。



(レイジ、さん……)


いつも隣にいてくれた人。ぶっきらぼうで、ヘタレで。でも、誰よりもフィオナを必要としてくれた人。頼りにしてる、と言ってくれた人。


その顔を、最後に思い浮かべる。自分が、自分でいられる、最後の瞬間に。


(ごめん、なさい……レイジ、さん……)


視界が、黒く塗り潰された。フィオナの意識は、支配の冠の闇へと沈んでいった。



「……支配、完了です」


僧侶が、フィオナの虚ろな目を覗き込み、頷いた。


「もう、この娘は支配されました。──腕輪を、外して差し上げなさい。冠で操れる以上、魔力を封じておく必要はないでしょう。王都までの道のりで何かあった時に役に立ってもらいましょう。」


フィオナの手首から、魔術封じの腕輪が外された。封じられていた魔力が、戻ってくる。だが、その力は、もう、フィオナ自身のものではなかった。支配の冠に、操られるがままの、兵器の力だった。


——レイジ視点


「フィオナが、さらわれた」


ヴェルグ制圧の喧騒の中で、俺は仲間たちに告げた。精霊のつながりが、フィオナの気配が遠ざかっていくのを伝えている。北へ。一刻の猶予もない。


「ニック、ここは任せる。ヴェルグの制圧と、後始末を頼む。──俺とソラで、フィオナを追う」


「おう、任せろ! でも二人だけで大丈夫か!?」


「大人数じゃ、追いつけない。馬で、飛ばす」


セシリアの祝福は、ヴェルグを攻める前に受けたものが、まだ効いている。それだけが頼りだった。俺とソラは、馬に飛び乗った。



「ソラ、こっちだ。北へ」


「兄貴、なんで場所がわかるんだ?」


「精霊のつながりだ。フィオナの気配を、辿れる」


聖剣の精霊が、フィオナの居場所を、うっすらと示してくれる。告白してから、フィオナは聖剣の精霊と言葉を交わせるようになった。その縁が、今、二人を結んでいる。


俺たちは馬を駆った。街道を北へ。フィオナの気配を、手繰り寄せるように。



どれほど駆けただろうか。


前方に、一台の荷馬車が見えてきた。それを守るように、複数の人影。遠目にも、隙のない身のこなしだとわかる。相当な手練れの集団だ。


「あれだ! フィオナは、あの馬車にいる!」


俺たちが追いつくと、馬車を守る一団が、迎え撃つ構えを取った。剣を抜き、弓を番え、大楯を構える。統率の取れた動き。何者かは知らんが、ただの護衛ではない。



その時、馬車の幌が開いた。


中から一人の魔術師が、ふらりと降り立った。フィオナだった。


だが、様子がおかしい。額に黒い冠。目は虚ろで、光がない。俺を見ても、何の感情も浮かばない。


「フィオナ!」


叫んでも、答えない。フィオナは両手をこちらへ掲げた。魔力が渦を巻く。魔王をも超える、あの魔力が。


「──【爆炎】」


こちらへ向けて、炎の魔法が放たれた。



「くっ……!」


俺は聖剣で炎を斬り払った。威力が凄まじい。手加減の欠片もない、フィオナの全力だ。


「あれ、あの冠……! 俺が付けられてたやつだ!」


ソラが、フィオナの額を見て、目を見開いた。かつて操られた記憶。あの恐怖を、ソラは知っている。


「支配の冠だ。フィオナは操られてる」


俺は歯を食いしばった。


「あいつらに、俺たちを敵と、認識させられてるんだ」



「まずは、あいつらをなんとかしないと!」


俺は馬を降り、聖剣を構えた。ソラも天空の聖剣を抜く。


だが、敵の連携は洗練されていた。


「散開! 定石通りだ!」


先頭の剣士が指示を飛ばす。こいつがリーダーか。号令一つで、仲間が的確に動いた。大楯が前線を固め、その陰から双剣士が斬りかかる。二方向から矢が飛ぶ。数えれば、十人。全員が手練れだった。


そこへ、フィオナの極大魔法が加わる。


「ぐっ……!」



じり貧だった。


こちらは二人。相手は剣士の指揮で回る、十人の連携。そこにフィオナの、魔王超えの魔力。


「兄貴、多すぎる!」


ソラが双剣士の斬撃を弾きながら叫ぶ。俺たちはフルパワーだ。だが二人では、この連携を崩しきれない。しかもフィオナを傷つけずに助けたい。その条件が、俺たちの手を縛っていた。


フィオナの次の魔法が、練り上げられていく。極大の魔力。まともに撃たれたら、二人ともただでは済まない。



その時だった。


街道の向こうから、一騎の馬が駆けてきた。だが少し手前で止まる。騎手が、戦いの様子を遠くから窺っていた。


「今の衝撃音は、これか……」


ジークの声が、風に乗って届いた。撤退の途中、フィオナの極大魔法の轟音を聞きつけ、様子を見に来たのだろう。だが、目の前の光景を、掴みかねている。連邦の二人が、手練れの一団と、そして一人の魔術師の女と戦っている。



「なぜこんなところで、戦闘をしている。連邦の長よ」


そういいながら馬にまたがったまま双剣士に切りかかった


ジークが俺にたずねた。状況を測りかねている様子だった。あの一団が何者か。額に冠を付けた女が、なぜレイジたちを攻撃するのか。そもそもあの女は連邦の魔術師だったはずだ。

ジークには状況がつかめなかった。


俺は、それどころではなかった。フィオナが操られている。その一事で、頭がいっぱいだった。


「あいつが……冠で、操られて……取り返さないと……」


俺の口から出たのは、要領を得ない言葉だった。


「何を言っているレイジ。要領を得ないぞ......」



ソラがジークに叫んだ。


「ジーク! あいつは、俺たちの仲間なんだ! あの黒い冠で、無理やり操られてる! 助けたいんだよ!」


ソラの必死の説明に、ジークの目が、魔術師の女の額の冠を捉えた。


その瞬間、ジークの表情が変わった。


「……人を操って、戦わせているのか」


ジークの声に、静かな怒りが滲んだ。


「戦う意思もない者に冠を被せ、道具のように使う。──外道な所業だ。この俺も過去に過ちを犯した。だから捨て置けん」



ジークが剣を抜いた。


「レイジ。手をかそう」


「……なぜだ」


「借りがある。負傷兵を見逃してくれたお前にな。それに、あのやり方が気に入らん。理由は、それで十分だろう。」


ジークが地を蹴った。将軍格の武が、戦いに加わる。その一撃が大楯を崩しにかかった。剣士の指揮する連携に、綻びが生まれる。


「ソラ! 今のうちだ!」


「おう!」



ソラがジークの近くで剣を振るった。


かつて剣を交えた二人が、今、同じ方を向いて戦っている。ソラ、素の四百に、祝福で五百二十。あの一戦の時よりも、さらに強い。


「地力が違いすぎる……!」


手練れの一人が呻いた。ソラの一撃が大楯を粉砕し、ジークの剣が双剣士を退ける。二人の武が、十人の連携を削っていった。戦況がこちら側に傾いていた。


だが、俺は。

俺は、フィオナしか見えていなかった。



操られたフィオナ。虚ろな目。俺を敵として攻撃してくる、その姿が、俺の頭から冷静さを奪っていた。


「フィオナ! 俺だ! わかるだろ!」


叫んでも届かない。フィオナの魔法が俺を襲う。避けながら近づこうとする。盤面も戦術も、頭から吹き飛んでいた。ただ、フィオナを取り戻したい。その一心で。


炎が俺の肩を掠めた。焼ける痛み。だが、どうでもよかった。俺はボロボロになりながら、フィオナへ突き進んだ。



「兄貴が、あんななりふり構わず……!」


ソラが驚いた。理詰めで盤面を組み立てる、あの俺はどこにもいない。ただ感情のまま、フィオナの名を呼び、炎の中を進む。そんな俺を、ソラは見たことがなかったのだろう。


フィオナの魔法が、また俺を捉えた。避けきれない。俺の体は吹き飛ばされ、地面を転がった。


「ぐっ...」


「レイジ、さん……」


フィオナの口が動いた。虚ろな顔。その頬に、一筋の涙が伝っていた。心のどこかで、フィオナは、俺を攻撃することに苦しんでいる。



だが、冠の力が、それを押さえつける。


フィオナの手が、俺へとどめの魔法を向けた。その手が震えている。


俺は立ち上がれない。肩を焼かれ、満身創痍で。それでも、フィオナから目を逸らさなかった。


その時。


「フィオナ! このぺちゃぱい!」


ソラの声が響いた。



「は……!?」


フィオナの動きが止まった。虚ろな目に、ぴくり、と何かが走る。


「嫉妬深い、独占女! ストーカー! 兄貴のこと、そんな好きかよ、この重い女ぁ!」


ソラが、ありったけの憎まれ口を叩いていた。その顔は笑っていない。それでも、あえて最低の言葉を選んで、フィオナを煽り続ける。



「……誰、が」


フィオナの声が、低く響いた。


支配の冠を突き破って、フィオナの素の感情が噴き出す。俺への独占欲。プライド。そのフィオナらしさが、冠の支配を揺さぶった。


「誰が、ぺちゃぱいですって……!?」


フィオナの魔法の照準が、俺からソラへ逸れた。怒りに任せて、ソラへ極大の魔力を向ける。


「ソラさん……あなただけは、許しません!」



「ありがとう、ソラ!」


俺は叫んだ。ソラが身を挺して、フィオナの注意を逸らしてくれた。あいつが、自分を囮にして。フィオナが我を取り戻すきっかけを、作ってくれた。


その一瞬の隙に、俺は地を蹴った。満身創痍の体で、フィオナへまっすぐ。魔法がソラへ向いた、その隙を突いて。フィオナの懐へ飛び込んだ。



俺はフィオナを抱きしめた。強く。その細い体を。逃がさないように、魔法を撃たせないように。両腕でしっかりと包み込む。


「な……!? 放し……!」


フィオナがもがく。だが俺は放さなかった。


「フィオナ! 俺だ! レイジだ! ──目を覚ませ!」


腕の中のフィオナに叫んだ。心臓が痛いくらいに脈打っていた。



「俺のフィオナが、そんな支配なんかに負けるな!」


俺の声が震える。フィオナの体が、腕の中でびくりと跳ねた。虚ろな目に、涙があふれていく。


「れ……いじ、さん……」


フィオナの唇が震えながら動いた。


「だめ……です……私じゃ..この冠の支配からは.........逃げられ……ない……お願い……これ以上...あ...なたを傷つ..け...るまえに...早く...私を....殺して……」


支配の冠が黒い光を放つ。フィオナの意思を、また塗り潰そうと。フィオナが腕の中で、苦しげにあえいだ。



「黙れ」


俺は言った。


「お前を殺すわけ、ないだろ。俺のフィオナは、そんな弱い人じゃない。──お前の居場所は」


俺はフィオナの、涙に濡れた顔を両手で包んだ。


「俺の隣だろぉぉぉっ!」


そして俺は、フィオナに口づけた。


「んっ」



支配の冠が砕ける音を、俺は聞いた。


ぱりぃん、と。


フィオナの額から、黒い冠が罅割れ、砕け散った。かつてソラが自らの意思で砕いたように。今、フィオナが、俺の想いを受けて、自らの力で支配を打ち破ったのだ。


唇を離すと、フィオナの目に光が戻っていた。虚ろではない。いつもの、まっすぐな強い光が。


「……レイジ、さん」


フィオナが俺を見つめた。涙をいっぱいに溜めて。




「くっ……支配が解けただと!?」


指揮していた剣士が歯噛みした。切り札を失い、ソラとジークに他の連中も倒されていく。もう勝ち目はない。


「フィオナ、力を貸してくれ」


「……当たり前ですっ!私の居場所はあなたの隣なんでしょう?」


俺はフィオナと並んだ。フィオナの魔力が、今度こそフィオナ自身のものとして戻っている。


「精霊合わせ──氷風撃!」


俺の風を纏った聖剣に、フィオナの氷が乗る。二人の力が一つになった暴風の刃。


ごぉぉぉっ!


それが、残った手練れたちをまとめて薙ぎ払った。殺しはしない。だが、戦う力は奪う。十人が、次々と地に伏していった。



戦いは終わった。だが、俺には、まだわからないことがあった。


こいつらは何者で、誰の指図で、フィオナをさらったのか。


「──さて。誰の依頼か、聞かせてもらいましょうか♪」


そう言って前に出たのは、フィオナだった。倒れた連中の中から、あの僧侶の女を選んで、見下ろしている。かつて自分に冠を被せた、その女を。


フィオナは、にっこりと微笑んでいた。だが、その目は、少しも笑っていなかった。



「私、たちは……依頼を、受けた、だけ……」


僧侶が、口を割ろうとしない。プロの矜持か。雇い主の名は、吐かない。


「あら。そうですか」


フィオナが、指を、軽く振った。


「では...あなたにもピッタリの冠をつけてあげます♪」


水の球体が生まれ、僧侶の頭を、すっぽりと覆う。僧侶の顔が、水中に沈んだ。ごぼり、と気泡が上がる。もがく僧侶。数秒後、フィオナが水を解いた。


「げほっ、ごほっ……!」


「さあ、もう一度、聞きます。誰の依頼ですか?」


「い、言え、ない……!」


再び、水の球体。僧侶の頭を覆う。



それを、何度、繰り返しただろうか。


フィオナは、終始、微笑んでいた。淡々と。水で覆い、溺れさせ、解く。また覆う。僧侶の目が、だんだん虚ろになっていく。かつて、フィオナがそうされたように。


「ひっ……!? フィオナ、こえぇ……!」


ソラが、後ずさった。青い顔で。


ジークに至っては、言葉も出ない様子で、その光景をドン引きした顔で見ていた。


だが、俺はというと。ただ、ニコニコと、フィオナを見守っていた。まあ、こいつをさらって、こんな目に遭わせたんだ。これくらいは、当然の報いだろう。



「わ……わかった、言う! 言います!」


ついに、僧侶が、口を割った。


「王都ギルド、本部の……強制依頼、だ! 断れなかった! 連邦の主力魔術師を、支配して、王都へ、献上しろと……! ギルド本部の、命令だったの!!」


水浸しの僧侶が、涙と、それから何か別の液体でも濡れながら、白状した。びしょ濡れで、もう、何が何やら、わからなかったが。


「王都ギルド本部、か」


俺は、静かに、その名を、頭に刻んだ。



「ご苦労様でした」


フィオナが、にっこりと、水責めを解いた。


「最初から、素直に、話してくれれば、よかったのに。ねえ?」


「ひ、ひぃ……」


僧侶が、震え上がった。もう、抵抗する気力も、残っていないようだった。


これで、黒幕がわかった。王都ギルド本部。軍事で連邦に押され、保身のために、フィオナを兵器にしようとした。──許せる話では、ない。だが、決着は、王都で、つけることになる。



「この者たちは、俺が、王都へ連れて行こう」


ジークが、ようやく口を開いた。まだ、少し引いた顔のまま。


「人を冠で操り、道具にする。こんな外道な真似、王国の恥だ。相応の場所へ突き出し、裁きを受けさせる」


「いいのか。お前も王国側だろう」


「王国の騎士だからこそ、だ」


ジークは、倒れた連中を、馬に括りつけた。


「これで、借りは返したぞ。──ではな、レイジ殿」



ジークが、去っていく。


その背に、ソラが声をかけた。


「ジーク! ありがとな! お前、いいやつだな!」


ジークは振り返らなかった。ただ片手を軽く上げて応え、王都へと去っていった。敵として。だが、どこか通じ合う何かを残して。


こうして、フィオナは取り戻され、黒幕の名も知れた。すべて、片がついた。



「レイジさん」


戦いの後。フィオナが俺の前に立った。もう、あの怖い笑顔ではない。いつもの、フィオナだった。


助かった、よかった。俺がそう言おうとした、その時。


フィオナが頬を赤らめ、上目遣いに俺を見て、こう言った。


「さっきのは……ノーカウント、です」


「……は?」


「さっきの、その……く、口づけ。あんな、みんなが見ている、戦いの最中なんて。数に入れません。──だから」



フィオナが、俺の袖をきゅっと掴んだ。


「もう一度、ちゃんと、してください。今度は、ちゃんと心の準備をしてから……」


顔を真っ赤にして。だが、その目は真剣だった。俺は。


「……っ」


かあっと、顔が熱くなった。


「い、いや、それは、その……」


言葉が出てこない。あれだけ必死だったくせに。いざ改めて言われると、俺の口は、情けなくパクパクと動くだけだった。



「ま、また今度な……」


俺は目を逸らして、そう言うのが精一杯だった。


「もう! レイジさんの、ヘタレ!」


フィオナが頬を膨らませる。だが、その顔はどこか嬉しそうだった。


そして、その一部始終を、ソラがにやにやと見ていた。



「兄貴さぁ」


ソラが、呆れたように笑った。もう、さっきの泣きそうな顔も、水責めにビビった顔も、どこにもない。いつもの明るい笑顔だった。


「あんなカッコよく『お前の居場所は俺の隣だろぉぉ』とか叫んで、キスまでしといて。今更ヘタレとか、ダサすぎだろ」


「うるさい! ソラ、お前は黙ってろ!」


「ぶはは! 顔真っ赤! 兄貴、真っ赤だぞ!」


ソラが腹を抱えて笑う。フィオナも、つられて笑った。



ヴェルグを落とし、フィオナを取り戻し、フィオナを拉致した黒幕の名も掴んだ。


長い戦いの一日が終わる。俺は真っ赤な顔を片手で覆いながら、笑うソラとフィオナを見ていた。


まったく、締まらない。あんな大見得を切ったのに。


だが、これでいい。フィオナが笑っている。ソラが笑っている。それが、俺の守りたかった景色だ。


次の戦いは、王都。ギルド本部。そして、あの王が待つ。だが、今日だけは。この笑い声の中に、いさせてくれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。