↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『最弱の戦略家は復讐しない 〜俺を騙したパーティーを俺のクランで雇い直す。ざまぁより、そっちが"勝ち筋"だったので〜』  作者: めざし
盤面の外へ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/77

第62話 天空砕き

ヴェルグから戻って三日。


俺はニックの斥候網を使い、要塞の周辺を徹底的に洗わせていた。あの日、王国の別動隊が、俺たちを囲むように回り込んだ。あれだけの兵が、短時間で。──どこかに抜け道があるはずだ。そう踏んでいた。


だが。


「レイジ。……ねえんだ」


戻ってきたニックの顔は、渋かった。



「抜け道なんて、どこにもねえ。隠し通路も、迂回路も。要塞の周りを隅から隅まで探った。──だが、何もねえんだ」


俺はその報告を聞いて、しばらく黙り込んだ。


抜け道がない。だとしたら、あの回り込みはどうやって。ソラとジークが斬り合う、あの短い間に。あれだけの部隊が、俺たちの死角へ。


答えは一つしかなかった。


「……用兵か」


背筋が冷たくなった。



ジークの指揮だ。


抜け道のような仕掛けじゃない。純粋な兵の動かし方。地形の読み。タイミングの計算。そのすべてを、ジークはあの一瞬でやってのけた。俺たちに気づかせずに。


「待て……」


俺は呟いた。


「それができるってことは。──あの要塞は、ほとんど詰みじゃないか」


正面の城門は、ソラの全力でも破れない。抜け道はない。そして指揮官のジークは、抜け道なしであの用兵をやってのける切れ者。攻める側のどんな手も、あの男に読まれる。



「ヴェルグがあるから、か」


俺は地図を睨んだ。


王国は、連邦が拡大しても、どこか余裕を見せていた。二方面の反攻を仕掛けてきた時も。ハルベルを奪い返された時も。まるで、最後の一線は揺るがないと確信しているかのように。


その理由が、わかった気がした。


ヴェルグだ。あの鉄壁の要塞。あそこが王都への道を塞いでいる限り、連邦がどれだけ暴れても、王都までは届かない。──だから王国は、余裕でいられたのだ。


「厄介な砦だな」


俺は奥歯を噛んだ。



その夜。連邦の仮設の館で、俺たちは頭を抱えていた。


「結局、どうやってあの門を抜けるんだ」


ニックが腕を組んだ。


「正面からは無理。抜け道はない。ジークは切れ者。──八方塞がりじゃねえか」


みんなが黙り込んだ。フィオナも、セシリアも、クレイも、リルも。攻略の糸口が見えなかった。


その時。


「なあ」


ソラがぽつりと口を開いた。天空の聖剣を膝に乗せて。


「俺も、精霊合わせ、使えないかなぁ」



みんなの視線がソラに集まった。


「兄貴とフィオナの、あの技。すげえ威力だったろ。俺もあれが使えたら、門くらいぶち抜けるんじゃないかって」


俺は少し考えた。ソラは天空の聖剣で、精霊解放が使える。属性を纏える。だとしたら、理屈の上では、精霊合わせも──。


その時。ソラの天空の聖剣が、淡く光った。


『使えるぞぉ』


天空の精霊の明るい声が響いた。



「マジか!?」


ソラが目を輝かせた。


『うん。ソラも精霊合わせ、できるよ。──ただし』


精霊の声が続けた。


『ソラが使えるのは、天空と、聖属性と、地属性だけだね』


「天空……無属性は、わかるけど」


ソラが首を傾げた。


「なんで、聖と地なんだ?」


『もともとの資質だぞー』


あっけらかんとした答えだった。



「資質、って」


ソラがきょとんとした。


『そういうもんだよ。ソラの中に、もともと、その二つと相性のいい力があるんだ。深く考えなくていいぞぉ』


天空の精霊は、それ以上説明する気はないようだった。


俺は内心で苦笑した。精霊の言うことは、いつもこんな調子だ。理屈はあるようで、ない。だが、使えるというなら、試す価値はある。


「よし。──試してみるか、ソラ」


「おう!」


ソラが勢いよく立ち上がった。



翌日。連邦の訓練場。


俺は精霊合わせの仕組みを説明した。ソラにも、みんなにも。


「この世界の魔法は、大抵、精霊から力を借りて撃つ。フィオナの魔法もそうだ。だから、契約した精霊の属性が、そのまま使える属性になる」


「はい」


フィオナが頷いた。


「精霊合わせは、それとは少し違う。聖剣に属性を纏わせて、フィオナの魔法と重ねる。二つの力を一つにする技だ。──ソラも、天空の聖剣で、それができるはずだ」


「なるほど! じゃあフィオナ、俺に魔法を撃ってくれ!」


ソラが天空の聖剣を構えた。



「では、いきます。聖属性の魔法を」


フィオナが指先に光を集めた。聖属性の魔力。


「【聖光】!」


淡い光の弾がソラへ飛んだ。


ソラが天空の聖剣で、それを受けようとする。合わせようとする。──だが。


ぱしゅん。


聖光がソラに当たって、はじけた。ただ当たっただけ。合わさる気配はなかった。


「あれ!?」


ソラが目を丸くした。



「もう一回、頼む!」


「ええ」


フィオナがまた聖光を撃つ。ぱしゅん。ソラに当たる。合わさらない。


「もう一回!」


ぱしゅん。


「もう一回!」


ぱしゅん、ぱしゅん。


ソラはただ、フィオナの魔法を食らい続けていた。合わせる感覚が、まるで掴めないらしい。聖光が当たるたびに、ソラの髪がちりちりと逆立った。



「……なあ、これ、俺、ただの的じゃねえか?」


ソラが情けない声を出した。


その様子を見て、フィオナが、ふふん、と胸を張った。


「言っておきますけど。精霊合わせは、そう簡単にはできないんですよ。──レイジさんは天才ですから。フフン」


みんなの前で、堂々とそう言った。


俺は思わず、顔が熱くなった。


「……フィオナ。それはいいから」


「あら。事実です」



「ぶはっ」


ニックが噴き出した。


「フィオナ、お前、レイジのこと褒めてんのか、自慢してんのか、どっちだよ!」


「両方です」


きっぱりとフィオナが答えた。ニックが腹を抱えて笑った。ソラが、聖光で髪を逆立てたまま苦笑いする。


「フィオナさん、ぶれねえなあ……」


クレイが感心したように頷いた。


「でも、仲がいいのはいいことだよ。うん」


その隣で、リルがクレイの袖を、きゅっと引いた。


「……クレイ。私がいるからね」


「え? あ、ああ、わかってるよ、リル」


念押しだった。クレイが慌てて頷いた。



和やかな空気の中。だが、ソラの特訓は難航していた。


フィオナの魔力が、そろそろ心もとなくなってきた。何十発と聖光を撃ち続けている。ソラはその全部を、ただ食らっただけ。合わせられた気配は、一度もなかった。


「あー……これ、無理かも」


ソラが頭を掻いた。


「感覚が全然、掴めねえ。フィオナの魔法、来た瞬間、どうしていいかわかんねえんだ」


俺は腕を組んで考えた。理屈の上では、できるはずなのに。何が足りない。



その時。


ソラがふと、顔を上げた。


「なあ、兄貴」


「ん?」


「これ、さ。──フィオナからじゃなくて。兄貴から、なら。合わせられるんじゃないか?」


俺はきょとんとした。


「なぜ、そう思う」


「なんとなく」


ソラがあっけらかんと笑った。


「理屈はわかんねえけど。兄貴となら、できる気がする。──ずっと兄貴の隣で戦ってきたからかな。兄貴の力なら、俺、合わせられる気がするんだ」


理屈じゃなかった。ただの直感。兄への信頼だった。



その言葉に。


フィオナが、ぴくり、と反応した。


「……ソラさん」


「ん?」


「兄貴、兄貴って。──レイジさんは、私のです」


ぷく、と頬を膨らませて。フィオナがソラを睨んだ。


「な、なんでそうなるんだよ!?」


「ソラさんが、レイジさんとできる気がする、なんて。──私より先に、なんて。認めません」


「いや、そういう意味じゃ……!」


ソラがあたふたと手を振った。俺はまた、顔が熱くなった。



「まあ、待て」


俺は咳払いをした。


「フィオナ。焼きもちは後だ。──ソラの勘は、案外、馬鹿にできない。試す価値はある」


「……むぅ」


フィオナが渋々引き下がった。


俺は聖剣を抜いた。ソラの直感。兄貴からなら、できる。理屈はわからない。だが、ソラの勘は、これまでも何度か常識を超えてきた。


「ソラ。俺がフィオナと精霊合わせを作る。それをお前に撃つ。──受けて、合わせてみろ」


「おう!」


「まあ……お前なら、直撃食らっても大丈夫だろ」


「おい、それどういう意味だよ!?」



俺はフィオナと頷き合った。


「フィオナ。地属性で頼む。俺は聖属性を纏う」


「わかりました」


フィオナが地属性の魔力を練る。俺は聖剣に、聖属性の精霊を纏わせた。精霊解放。二つの力が合わさっていく。


「精霊合わせ──」


聖と、地。二つの属性が渦を巻いた。それをソラへ向ける。


「行くぞ、ソラ! 受けろ!」


「来い、兄貴!」


俺はその一撃を、ソラへ放った。



ソラが天空の聖剣を掲げた。


飛んでくる精霊合わせの力。それがソラの聖剣に触れた瞬間。


かちり、と。


何かが噛み合う音がした。ソラの天空の聖剣が、俺の放った力を受け止め、そして──取り込んだ。聖と、地。二つの力が、ソラの天空の力と重なっていく。


「これ……! 合わせられる!」


ソラが叫んだ。


天空の聖剣が、まばゆく輝いた。聖と地と天空。三つの力が一つになって、凄まじい力が剣に集まっていく。



「うぉぉぉぉっ!」


ソラがその剣を、地面に叩きつけた。


「精霊合わせ改──天空砕きっ!」


どぱぁぁぁん!!


轟音が訓練場を揺るがした。


土煙が晴れると、そこには巨大な穴が空いていた。


ベッコリと。人が何人も飲み込まれそうな大穴が。訓練場の地面を、深く抉って。



「…………」


みんなが絶句した。


ニックがぽかんと口を開けて。クレイが後ずさり。リルがクレイの後ろに隠れた。フィオナですら、目を丸くしている。


「え……」


ソラ自身も、その大穴を見て呆然としていた。


「俺、これ、やったのか……?」


『やったねぇ』


天空の精霊の、のんきな声が響いた。



『いやあ、なんか、できたねぇ』


『……理がどうなっておるのか、わからんが』


剣霊の賢者めいた声も、困惑していた。


『まあ、できたなら、よしだな』


精霊たちですら、この現象を正確には理解していないようだった。天空の精霊も、剣霊も。ただ「なんかできた」と首を傾げている。


俺はその大穴を見つめながら考えた。



なぜソラは、フィオナ単独ではできなくて、俺からならできたんだ。


理屈で言えば、フィオナの魔法は精霊から力を借りて撃つ。だが俺の精霊合わせは違う。純粋に魔力をエネルギーにして、そこに精霊の力を乗せる。──だから属性を選ばない。


だが、それは俺の"なんでも積める"力があってこそ。本来、誰にも真似できないはずだ。


なのにソラは、俺から放たれた力を受け止め、合わせた。まるで最初から、そうできると決まっていたかのように。


神様からもらったチートが、噛み合ったのか。俺はふと思った。



いや。


俺は内心で首を振った。


俺もソラも、神様から規格外の力をもらっている。俺はなんでも積める力。ソラは望むだけ力を引き出せる体質。その二つのチートが、噛み合った? それもあるかもしれない。だが。


(……神様の、お願いか)


俺はあの、爺さんめいた神様の顔を思い出した。転生の時。神様は俺に頼み事をしていた。この世界を頼む、と。──ならば、これも神様の筋書きのうちなのかもしれない。


深くは考えないことにした。できたなら、それでいい。ソラと同じだ。



「よし。──ソラ、その技、使えるぞ」


俺が言うと、ソラがパッと顔を輝かせた。


「ほんとか! これで、あの門も──」


だが、その時。ソラが膝をつきそうになった。


「うっ……」


「ソラ!」


「大丈夫……ちょっと、くらっとしただけ」


ソラの顔は青ざめていた。額に汗が滲んでいる。天空砕き。あの一撃の反動だった。三つの力を一つに束ねる。その代償は、ソラの頑丈な体にも、重くのしかかっていた。



「……反動がでかいな」


俺はソラを支えながら言った。


「一撃撃つだけで、これか。連発はできないな」


「みたい、だな……」


ソラが苦笑いした。


それにもう一つ。俺はあの技の欠点に気づいていた。天空砕きは、剣に三つの力を束ねる時間が要る。溜めが長い。その間、ソラは完全に無防備になる。


「隙がでかすぎる」


俺は呟いた。


「あの溜めの間に、横から殴られたら終わりだ。──よほど条件が整わないと、実戦じゃ使えない」



だが。


俺はあの、要塞ヴェルグの城門を思い出していた。ソラの全力でもびくともしなかった、あの鉄の門。


その門を。もしこの天空砕きで叩けば。


「城門を抜く鍵は、これかもしれん」


俺は大穴を見下ろして言った。


「正面から破れないなら、門ごと、地面ごと砕く。──ただし、ソラがこの技を撃つには、誰かがソラを守って隙を埋める必要がある。溜めの間、無防備なソラを守り抜く盤面が要る」


課題はまだあった。だが、糸口は掴んだ。



「ソラ。よくやった」


俺は青い顔のソラの肩を叩いた。


「お前のその勘のよさ。それに、デタラメな頑丈さ。──今回ばかりは、それに救われた」


「へへ。……よくわかんねえけど。兄貴の役に立てたなら、よかった」


ソラが汗だくの顔で笑った。相変わらず理屈はわかっていない。だが、それでいい。できた。それがすべてだ。


フィオナがそのソラを見て、それから俺の袖を、つん、と引いた。


「……レイジさん。次の合わせは、私とですからね」


「ああ、わかってる」


俺は苦笑した。



訓練場に空いた大穴。


それは鉄壁の要塞ヴェルグを破る、一筋の光だった。正面突破は無理。抜け道はない。ジークは切れ者。──八方塞がりに見えた、あの要塞。


だが、連邦には規格外が揃っている。俺の盤面。ソラの天空砕き。フィオナの魔力。みんなの力。


「ヴェルグ攻略の絵図が、見えてきたな」


俺は大穴を背に、みんなを見た。


まだ詰めるべきことは多い。天空砕きをどう城門に届けるか。ソラの隙をどう守るか。ジークの用兵をどう出し抜くか。


だが、一歩前へ進んだ。連邦の攻勢は、次の段階へ動き出そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。