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『最弱の戦略家は復讐しない 〜俺を騙したパーティーを俺のクランで雇い直す。ざまぁより、そっちが"勝ち筋"だったので〜』  作者: めざし
盤面の外へ編

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第58話 焦りの刃(後編)

——ジーク視点

「ヴィントさん、何を!」

ジークは焦っていた。

処刑は妨害された。ソラの結界に、捕虜を守られて。手柄が逃げていく。処罰が迫ってくる。──なのにヴィントは、敵の少年を褒めている。

「もういい! 俺があの結界を崩す! そうすれば──」

「ジーク。やめておけ」

ヴィントが静かに言った。

「あの結界は、お前には崩せん。それに、この作戦はここで終わりだ。戦えぬ捕虜を餌にするなど、王国の騎士のやることではない」

「ふざけるな!」

ジークが剣を振り上げた。理性を失いかけていた。処罰の恐怖が、その目を曇らせていた。

「あんたがそんなだから! だから連邦に負けるんだ! 俺は手柄を──」

その言葉は、最後まで続かなかった。

ヴィントが動いた。

一瞬だった。ジークの剣を持つ腕を下から弾き上げ、その鳩尾に拳を叩き込む。

どっ。

「がっ……!?」

ジークが膝から崩れ落ちた。総合値三百の天才が、抵抗する間もなく。ヴィントの一撃で。

「……眠っていろ、ジーク」

ヴィントは、気を失ったジークを見下ろした。

「お前は悪い剣士じゃない。だが、焦りがお前の目を曇らせた。──目が覚めたら、頭を冷やせ」

そしてヴィントは、ソラの方へ向き直った。結界の中で捕虜を守る、弟弟子の方へ。

味方の若者を、自らの手で気絶させて。

——ソラ視点

「ソラ坊」

ヴィントが歩み出た。剣を下げたまま。

「まず、詫びさせてくれ。戦えぬ捕虜を餌にする。そんな無様な作戦をとった。同じ王国の騎士として、恥ずべきことだ。──すまなかった」

ソラは、結界の中からヴィントを見た。

「ヴィント……」

「ジークは焦っていた。処罰を恐れてな。だが、それは言い訳にならん。──騎士として、詫びる」

ヴィントは、深く頭を下げた。敵に。だが、その姿には確かな誇りがあった。

ソラはしばらく、その姿を見て。それから結界を解いた。捕虜たちの安全を、確かめてから。すでにヴァイスたちが、回収に動いている。もう、ここは大丈夫だ。

「顔を上げてくれ、ヴィント。──あんたは、悪くない」

ヴィントが顔を上げた。そして、剣を構えた。

「ソラ坊。この戦、もう無様な形では終わらせん。──俺と、一対一でやろう」

「一対一?」

「ああ。前は二人がかりで、お前を抑えた。作戦だった。だが今度は違う。騎士として。一人の剣士として。お前と正々堂々、やりたい」

ソラの目が揺れた。かつての兄弟子。稽古をつけてくれた人。

「……いいのか、ヴィント。俺と本気でやって」

「望むところだ」

ヴィントが笑った。

「お前がどこまで強くなったか。この目で確かめたい。──来い、ソラ坊」

ソラは、天空の聖剣を構えた。刃のない、白い剣を。

「わかった。──行くぞ、ヴィント!」

二人がぶつかった。

がぁん!

ヴィントの剣と、ソラの聖剣が噛み合う。前と同じ。力はソラが上。技はヴィントが上。だが。

「速い……! 一月前より、また鋭くなったか!」

ヴィントが押されていた。二人がかりの時とは違う。一対一では、ソラの圧倒的な力を、一人で受けきれない。

しかも、ソラは変わっていた。

以前のような力任せではなかった。ヴィントの動きを読み、受け、いなす。剣に芯が通っている。そして迷いがない。守るべきものを守るという、揺るぎない覚悟が。

「ヴィント! 俺はもう、迷わない!」

ソラの聖剣が、ヴィントの剣を弾き上げた。

——レイジ視点

ソラが単身で、捕虜のもとへ駆けていく。その隙に、俺は動いていた。

「ヴァイス、クレイ、リル! 第一部隊と、捕虜の回収だ! ソラが結界で守ってる間に、全員連れ出せ!」

「おう!」

ヴァイスが、魔族の若者たちを率いて駆け出した。クレイとリルが続く。第一部隊が、その後を追う。ソラの作った道を通って。

「フィオナ。本隊を抑えるぞ。──七千を、こっちに引きつける」

「ええ」

俺は聖剣を抜いた。祝福込みの四百十二。そしてフィオナが隣に立つ。魔力百七十。

七千の王国軍が動き出す。処刑を妨害され、指揮官のジークも倒れ、混乱している。その隙を突く。

「フィオナ。派手に頼む」

「わかりました」

フィオナが両手を掲げた。虹色の光が渦を巻く。魔力百七十。魔王をも超える器。その全力。

「【天嵐(てんらん)】」

刹那。

戦場の、王国軍の前面に。巨大な風の渦が生まれた。ごぉぉぉっ、と天を衝き、大地を薙ぐ。極大の魔法だった。

「なっ……なんだ、あれは!?」

王国兵が恐慌をきたした。

天嵐は、王国軍の前列を丸ごと巻き上げた。だが──殺してはいなかった。荒れ狂う風は、兵を吹き飛ばし、武器を巻き上げる。だが、致命傷は与えない。フィオナが、そう加減していた。

「……フィオナ。相変わらず、化け物だな」

俺は思わず呟いた。

七千の軍勢の勢いが、その一撃で止まった。前列が風に巻かれて、後列が進めなくなる。数百の兵が、戦意を失って後ずさる。

殺さず、しかし圧倒する。フィオナの魔力は、もはや一つの戦線を単独で制圧できるほどになっていた。

「これで王国軍は、当分動けない。──今のうちだ」

俺はニックに合図した。

「ヴァイスたちの捕虜回収を援護しろ! セシリアは負傷者の手当てを! 一人も死なせるな!」

連邦の盤面が回り始めた。七千をフィオナが抑え、俺が指揮する。その隙に捕虜を回収し、味方を守る。

——ソラ視点

ソラとヴィントの決闘は、続いていた。

がぎん、がぁん、と剣戟が響く。だが、その均衡は確実に、ソラへと傾いていた。

「くっ……!」

ヴィントの剣を持つ手が痺れていた。ソラの一撃、一撃が重い。受けるたびに、腕が悲鳴を上げる。

「ヴィント! これで最後だ!」

ソラが天空の聖剣に力を込めた。剣が白く輝く。

「精霊解放──!」

聖剣の周りに、風が渦巻いた。守護の力を、攻めに転じた一撃。ソラが、それを振り下ろす。

ヴィントが、渾身の力で受け止めた。

がぁぁぁん!!

ヴィントの剣が。

甲高い音を立てて、宙に舞った。

弾き飛ばされて。ヴィントの手から離れて。地面に突き刺さる。

「……参った」

ヴィントは両手を上げた。武器を失って。ソラの聖剣が、その喉元に突きつけられている。刃のない、白い剣が。

「俺の負けだ。ソラ坊」

決闘は、ソラの完勝だった。

ソラは聖剣を下ろした。ヴィントを斬らなかった。もとより、斬れない剣だ。誰も殺さない、守るための剣。

「ヴィント。──俺、勝ったよ」

「ああ。見事だ」

ヴィントが笑った。悔しさより、どこか晴れやかな笑みだった。

ヴィントは、戦場を見渡した。

処刑は止められた。捕虜は連邦が回収している。フィオナの天嵐が、七千の本隊を抑え込んでいる。ジークは倒れ、指揮系統は乱れていた。

もう、この戦は王国の負けだった。

「……全軍!」

ヴィントが声を張り上げた。

「撤退する! これ以上の戦闘は無用だ! 負傷者を収容し、隊列を保って退け!」

将軍の判断だった。無様な作戦で始まった、この戦。もう、ここで退くのが最善だと。ヴィントは冷静に見極めていた。

倒れたジークも、王国兵が担ぎ上げた。王国軍が退き始める。フィオナの天嵐に、道を阻まれながら。それでも整然と。

——レイジ視点

「ヴィントが、撤退の号令をかけたか」

俺は、その動きを腕輪の視界で捉えた。

「追うか、レイジ」

ニックが聞いた。

「いや。追わない」

俺は首を振った。

「捕虜は取り戻した。ハルベルも、じきにこちらのものだ。──これ以上、血を流す必要はない。退く者は、退かせる」

王国軍が、平野の向こうへ消えていく。ソラを抑えていたヴィントも。最後に一度、ソラの方を振り返って。それから去っていった。

戦場に、静けさが戻った。

そして。

ハルベルの街にはためいていた、王国の旗が。──引きずり下ろされた。

——ソラ視点

ハルベルは、取り戻された。

一月前に失った街。モーリスが命をかけて守ろうとした街。その街に再び、連邦の旗が掲げられた。

ソラは、街の中心に立っていた。

焼け跡が残っていた。あの日、燃えた街の傷跡。盤上の灯のクランハウスも、もうそこにはなかった。原点の建物は、灰になっていた。

「……ただいま、ハルベル」

ソラは天空の聖剣を握りしめた。

守れなかった街に、帰ってきた。今度こそ。もう二度と、失わないために。

その隣に、レイジが来た。ヴァイスも、クレイも、リルも。フィオナも、セシリアも、ニックも。救い出された魔族の捕虜たちも。みんな、無事だった。

「モーリスさん」

ソラは、焼け跡のクランハウスの方を見た。

「取り戻したよ。ハルベルを。──あんたが守ろうとした街を」

風が吹いた。焼け跡を撫でて。

クランハウスは、もうない。だが、ここから始まったものは、消えていなかった。人と魔族が共に生きる。その灯は今も、みんなの中で燃えている。

「クランハウスは、また建て直すぜ」

ソラが言った。

「もっと、でっかいのを。人も魔族も、一緒に。──あんたが託してくれた未来を、ここに作る」

レイジが隣で頷いた。

「ああ。──ここから、また始めよう」

ハルベルに、灯が戻った。失って、取り返した、その灯は。前より少しだけ強く、輝いて見えた。

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