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『最弱の戦略家は復讐しない 〜俺を騙したパーティーを俺のクランで雇い直す。ざまぁより、そっちが"勝ち筋"だったので〜』  作者: めざし
盤上の勇者編

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第45話 測る者、測られる者

連邦が形になって、一年が過ぎた。

街は五千の民で賑わい、霧の回廊を通って、隊商が定期的に出入りするようになっていた。

回廊のことは、少し説明が要る。俺は聖剣で霧を張れるが、同時に、霧に一本の道を通すこともできた。連邦が認めた者だけが、精霊銀の通行証を持って、その道を歩ける。証は霧の中で淡く光り、進むべき方向を示す。証を持たない者は、方向を見失い、霧に呑まれて引き返すしかない。霧そのものが、街の関所であり、国境だった。

その街も、いよいよ自衛団を、正式に編成することになった。

誰を、どの隊に置くか。それを決めるには、まず戦力を、正しく把握しなければならない。俺は、ハルベルから運んできた測定用の水晶を、訓練場の中央に据えた。

「一人ずつ、手をかざしてくれ」

俺が言うと、若い連中が、わらわらと集まってきた。

「俺からだ」

真っ先に名乗りを上げたのは、ヴァイスだった。

白銀の髪を掻き上げて、ずかずかと歩み出る。水晶に、手を置いた。

淡い光が、水晶の内側を駆け抜けた。そして、宙に、文字が浮かぶ。

『──【ヴァイス】 一九歳 魔族』

『腕力:64』

『耐久:52』

『敏捷:48』

『器用:32』

『魔力:44』

『総合戦闘力:240』

『ギフト:【剛角】』

『角に魔力を通し、身を強化する』

『スキル:大剣術(上級)/体術(中級)/咆哮(中級)』

「……二百四十。Aランク、か」

ヴァイスが、自分の数値を見て、ぼそりと呟いた。

「立派なもんだ」

ガルドが、腕を組んで頷いた。

「その歳でAに届く奴は、そういない。魔族の身体能力を差し引いても、鍛えてる証拠だ」

ヴァイスは、まんざらでもない顔をした。だが、器用の欄で、目を止めた。

「……器用が、低いな。三十二」

「そこが、お前の伸びしろだ」

俺は言った。

「力は、もう十分ある。あとは、それを、どう使うかだ。ソラに教わってるだろう」

「……ああ」

ヴァイスは、少し悔しそうに頷いた。

次々と、若手が測っていった。腕力自慢の魔族、素早い人族、いろんな数値が並ぶ。

そして、ソラの番になった。

「俺、こういうの、久しぶりだな」

ソラが、水晶に手を置いた。その瞬間、水晶の光が、ぶわりと膨れ上がった。

『──【ソラ】 一七歳 人族(勇者)』

『腕力:125』

『耐久:115』

『敏捷:90』

『器用:50』

『魔力:30』

『総合戦闘力:410』

「……よん、ひゃく!?」

ヴァイスの口が、開いたまま止まった。若手たちが、ざわめいた。自分たちの、倍近い数値。

だが、俺は、別のところに目を止めていた。

器用、五十。

以前のソラは、器用が三十だった。力任せの、考えない戦い。それが、五十まで伸びている。ヴァイスに稽古をつけ、「考えろ」と教える中で、自分自身も伸びていた。教えることは、学ぶことだ。ニックが、そうだったように。

(……こいつ、まだ上がるな)

腕力や耐久は、もう頭打ちだろう。だが、器用は違う。頭が、筋肉に追いついてくれば、ソラは、まだ強くなる。

「腕力、百二十五かよ……化け物だな」ヴァイスが、掠れた声で言った。

「でも、器用は五十だぜ」ソラが、頭を掻いて笑った。「兄貴に、いっつも言われるんだ。『お前は、頭が、筋肉に負けてる』って。──最近、やっと、ちょっとは、追いついてきたけどな」

「次、私ですね」

フィオナが、進み出た。水晶に、手を置く。光が、静かに、しかし深く、脈打った。

『──【フィオナ】 一七歳 人族』

『腕力:19』

『耐久:24』

『敏捷:30』

『器用:35』

『魔力:134』

『総合戦闘力:242』

『ギフト:【魔導の申し子】』

『属性:全属性(旧・氷特化)』

『スキル:全系統魔法(上級)/精霊感応(達人)』

「……魔力、百三十四!?」

ニックが、水晶を、二度見した。

「お前、前は、百四じゃなかったか!?」

「百四でした。少し前まで」

フィオナが、平然と答えた。広間が、ざわめいた。魔力百四でも、この街の歴代最高値だったのだ。それを、さらに三十も超えた。

「属性、全属性って……」ニックが、目を丸くした。「お前、氷しか使えなかっただろ!」

「ええ。でも、今は違います」

フィオナが、指先を、くるりと回した。その指先で、水の珠、風のそよぎ、火花、淡い光が、順に生まれては消えた。氷だけだった少女が、今は、すべての属性を、手のひらで踊らせている。

「精霊たちと、繋がったんです。おかげで、器が、目覚めました」

フィオナは、ちらりと、俺を見た。そして、少しだけ耳を赤くして続けた。

「……ある人と、繋がったのが、きっかけですけどね」

ニックが、にやりとした。

「旦那ァ……」

「言うな」

俺は、先回りして遮った。

ガルドが、水晶に手を置いた。

『──【ガルド】 三五歳 冒険者ランクB』

『腕力:44』

『耐久:47』

『敏捷:28』

『器用:34』

『魔力:22』

『総合戦闘力:175』

『ギフト:【不動】』

『バッドスキル:【古傷】』

『深手の後遺症。長時間の戦闘で急激に消耗する』

「……お、器用が、上がってるじゃねえか」

ガルドが、意外そうな顔をした。

「総隊長として、采配を覚えたからでしょう」

俺は言った。

「若い連中を、どこに置くか。どう動かすか。それは、剣を振るのとは、違う技術だ」

「なるほどな」ガルドは、苦笑した。だが、すぐに、その顔が曇った。「……で、こっちの、ろくでもねえのは、なんだ。【古傷】」

「腹の傷ですね」

俺は、静かに言った。

「あの傷は、消えない。長く戦えば、急に、力が抜ける。だから、あなたは、前で指揮を執る。斬り込むのは、若い連中の仕事だ」

「……はいはい」

ガルドは、溜め息をついた。だが、その目は、どこか安堵しているようにも見えた。もう、自分の身体で、全部を背負わなくていい。そういう場所に、来たのだ。

セシリアも、ニックも、測った。

セシリアの魔力は、相変わらず高かった。回復と祝福の資質。そして、あの一行――『本来の位階は、まだ眠っている』は、もう消えていた。あの覚醒で、位階は目覚めたのだ。

ニックの斥候スキルは、達人のまま。索敵も、情報収集も、一段上がっていた。

「さて。──最後は、俺だな」

俺は、水晶に、手を置いた。

その瞬間、俺は、心の中で、剣霊の加護を、ぐっと、抑え込んだ。全能力に乗っている+二十を、表に出さないように。剣霊が、心得たように、力を、静める気配がした。

光が、収束していく。そして、数値が、浮かんだ。

『──【レイジ】 一九歳 冒険者ランクF』

『腕力:26』

『耐久:28』

『敏捷:34』

『器用:39』

『魔力:20』

『総合戦闘力:147』

『ギフト:【自己強化(大)】』

『自己を強化する。発動中、能力が上昇』

「……百四十七?」

ヴァイスが、首を傾げた。

「Fランクにしちゃ、高えな。でも、まあ、そんなもんか」

俺は、内心で、少しだけ、息を吐いた。

本当の総合は、百九十七。剣霊の加護で、全能力に二十が乗っている。だが、それを抑えて、ギフト【自己強化】が働いた分だけ――百四十七に見せた。加護の存在は、水晶にも、出さない。

これでいい。剣霊の加護は、俺の切り札だ。聖剣を握れば、さらに跳ね上がる。──その底を、誰にも、見せる必要はない。たとえ、身内でも。手札は、伏せておくものだ。

「Fランクの登録のわりに、やるじゃねえか」

ヴァイスが、ふん、と鼻を鳴らした。

「この前の手合わせ、一撃も当てられなかったのが、ちょっとは、腑に落ちたぜ。……ちょっとだけな」

「そうか」

俺は、短く答えた。──ヴァイスは、百四十七で、納得している。真の値には、気づいていない。それでいい。

その様子を、フィオナが、じっと、見ていた。

測定が終わって、俺が水晶から手を離すと、フィオナが、静かに、隣に来た。

「……レイジさん」

「なんだ」

「今の、抑えましたね」

俺は、答えなかった。

「わかるんです。あなたの、魔力の流れが、一瞬、内側に、引っ込んだ。──何かを、隠した」

フィオナの目が、まっすぐ、俺を見ていた。

「私、ずっと、あなたを、測ろうとしてます。付与品の魔力の謎。強さの、カラクリ。──でも、まだ、解けない。今も、あなたは、数字を、伏せた」

「……鋭いな」

「当然です」

フィオナは、少しだけ、唇を尖らせた。

「歴代最高の、魔力の器ですから。あなたの、魔力の機微くらい、読めます。──でも、その先が、読めない。数字は、見えるのに、その数字が、どういう仕組みで、出来てるのか。それだけが、どうしても、わからない」

彼女は、悔しそうに、しかし、どこか楽しそうに、笑った。

「……一生、かかりそうです。あなたを、測り切るのは」

「なら」

俺は、言った。

「一生、測っててくれ」

フィオナの、頬が、ぽっと、染まった。

「……っ、それ、どういう意味ですか」

「言葉のとおりだ」

「……ずるいです」

フィオナは、俺の肩に、こつん、と頭を預けて、それ以上、何も言わなかった。

「──で。最後に残ってるのは、あんただけだな、魔王」

ガルドが、輪の外に立つ、黒い外套の男を見た。

魔王は、腕を組んで、測定を、静かに眺めていた。

「俺は、測るまでもない」

「そう言うなよ。参謀殿の実力、みんな、知りたがってる」

「……この水晶が、保たんぞ」

「大げさな」

「まあ、いい」魔王は、微かに笑った。「見せてやろう」

魔王が、歩み出た。ヴァイスたち魔族の若者が、さっと、道を空けた。かつての王への、自然な敬意だった。若い連中にとって、この男は、四十五年、盾になり続けた、生ける伝説なのだ。

魔王が、水晶に、手を置いた。

「まず、これが、地の値だ」

淡い光が、駆け抜ける。数値が、浮かんだ。

『──【魔王】』

『腕力:95』

『耐久:90』

『敏捷:85』

『器用:70』

『魔力:110』

『総合戦闘力:450』

「よん、ひゃく、ごじゅう……!?」

ヴァイスが、絶句した。ソラの四百十すら、超えている。しかも、これで──

「地の、値……? これで、素なのか……!」

「そうだ。何も、纏っていない、俺の値だ」

魔王は、静かに言った。

「だが、俺は、常に、これに、身体強化を、乗せている。眠っている時も。飯を食っている時も。──四十五年、一度も、解いたことがない」

「なんで、そんな……」

「いつ、襲われても、いいようにだ」

魔王の声が、低くなった。

「俺が倒れれば、民が死ぬ。だから、俺は、常に、臨戦だ。魔族の魔力は、それを、可能にする」

彼は、水晶に、手を置いたまま、目を閉じた。

「見せてやる。俺の、常の値を」

その瞬間。

水晶の光が、内側から、爆発的に膨れ上がった。数値が、駆け上がっていく。四百五十。五百。五百五十――

ぴしり、と、音がした。水晶の表面に、亀裂が、走った。

『測定範囲を、超えています』

そう浮かべて、水晶は、力尽きたように、沈黙した。ひびの入ったまま。

「……壊れちまった」

ニックが、呆然と呟いた。

「五百八十だ」

魔王が、手を離した。

「地の四百五十に、身体強化を、三割。それが、俺の、常の値だ。──人族の器では、到底、届かない領域だが」

彼は、少し、疲れた顔で、笑った。

「それでも、俺は、民を、守りきれなかった。三万が、五千になるまで。力があっても、一人では、限界がある。それを、四十五年かけて、思い知った」

その言葉に、訓練場が、静まり返った。五百八十という圧倒的な力。それを持ってしても、守りきれなかった民。──その重さが、全員に、伝わっていた。

そして、魔王は、ふと、フィオナに、目を向けた。

「──娘。お前の、魔力の値は、いくつだった」

「え? ……百三十四、ですが」

魔王の、眉が、上がった。

「百三十四、か」

彼は、少し、驚いたように、目を細めた。

「俺の、魔力は、百十だ。──器だけなら、お前は、俺を、超えているな」

フィオナが、目を見開いた。

「私が……魔王を?」

「魔力の、器だけの話だ。総合では、遠く及ばん」

魔王は、静かに言った。

「だが、器というのは、伸びしろだ。俺は、もう、これ以上は、伸びん。歳を取りすぎた。──だが、お前は、若い。しかも、精霊と繋がった。その器が、どこまで広がるか、俺には、見当もつかん」

彼は、フィオナを、じっと見た。

「大事に、使え。その器は、この世界で、誰も、持っていないものだ」

フィオナは、しばらく、自分の手を、見つめていた。

そして、静かに、頷いた。

「……はい」

その隣で、俺は、思っていた。

フィオナの器が、魔王を超えた。それは、単なる、数字の話じゃない。──こいつは、まだ、伸びる。俺の盤面の、一番大事な駒が、まだ、底を見せていない。

心強い、と、素直に、思った。

測定が、一段落した頃。

ケイルが、帳面を片手に、近づいてきた。

「レイジさん。ちょっと、ええか」

「なんだ」

「前から、気になっとったんやけどな」

ケイルは、狐目を、細めた。

「この街、いつまで、『連邦』『連邦』て、呼んどくんや」

「……名前か」

「そや。看板が、要るやろ。商売でもな、名前のないもんは、売れへん。よそと取引するにも、『どこそこの連邦』やと、締まらん」

彼は、帳面を、ぱらりとめくった。

「わし、考えたんやけどな。──ここは、精霊の地に、建った街や。霧に守られて、灯火が、灯っとる。精霊と、灯火。……『ミストリア』っちゅうのは、どや」

「ミストリア?」

「霧の、古い言い回しでな。『霧の中の、灯』っちゅう意味も、掛けとる」ケイルが、にやりと笑った。「霧に守られた、盤上の灯。──ミストリア連邦。呼びやすいし、覚えやすい。縁起も、ええ」

俺は、その響きを、口の中で、転がした。

ミストリア。

霧の中の、灯。──精霊の地の霧に守られ、人族と魔族が、共に灯す、無数の灯り。

悪くない。むしろ、この街に、ふさわしい。

「いいな」

俺は、頷いた。

「ミストリア連邦。──それで、いこう」

「決まりやな」

ケイルが、満足そうに、帳面に、何か書きつけた。

「さっそく、よその街に、広めとくわ。『霧の向こうに、ミストリアっちゅう、新しい国が出来た』てな。──こういう噂は、早い方が、ええ」

「噂か」

「名前が、広まれば、それだけで、力になる」

ケイルが、狐目を、光らせた。

「『反逆者の集まり』やない。『ミストリア連邦』や。──ちゃんとした、国の名前がある。それだけで、よその領主も、無視できんようになる」

商人らしい、と、俺は思った。名前一つで、盤面が、変わる。

その夜。

俺は、執務室で、まとめた記録を、見ていた。

ミストリア連邦の、戦力。魔王、五百八十。ソラ、四百十。フィオナ、二百四十二。ヴァイス、二百四十。ガルド、百七十五。セシリア、ニック。──そして、俺。表向きは、百四十七。

決して、弱くはない。頂点の武力なら、どんな国にも、引けを取らない。

だが、と俺は思う。数字は、盤面の一部でしかない。

王国には、まだ、底の知れない武力がある。噂に聞く、名だたる騎士たち。俺は、その実力を、まだ、直接は、見ていない。──見ていないものを、侮ってはいけない。正面から、ぶつかるのは、下策だ。

だから、盤面を組む。

「レイジさん」

フィオナが、入ってきた。もう、いつものように、当然の顔で。

「まだ、起きてるんですか」

「ああ。戦力を、並べてた」

「勝てそうですか」

「正面からは、無理かもしれない」

俺は、正直に答えた。

「相手の底が、まだ、見えないからな。──だが、正面から、ぶつかる気は、ない」

フィオナは、俺の隣に、椅子を寄せた。そして、記録を、覗き込んだ。

「あなたの数字。表向き、百四十七」

「ああ」

「本当は、もっと、あるくせに」

フィオナが、じとっと、俺を見た。

「……ずるいです。私にも、教えてくれないんですか」

「いつか、な」

「いつか、っていつですか」

「お前が、俺を、測り切った時だ」

フィオナは、むっと、頬を膨らませた。

「……絶対、測ってやります。一生かけて、でも」

その横顔を見ながら、俺は、少しだけ、笑った。

翌日。

霧の回廊の方から、鈴の音が聞こえた。ケイルの隊商が、戻ってきた合図だ。

荷馬車を連ねて、狐目の商人が、上機嫌で戻ってきた。

「毎度! ただいま戻りました。──それと、レイジさん。さっそく、面白いことになってきたで」

荷袋から、一枚の紙を取り出す。よその街で出回っている、噂の記録だという。

「例の噂な。もう、王国の南半分に、広まっとる。『魔物討伐は、実は村を焼いてたらしい』『回収品が農具やった』──商人は、口が軽いからな。撒いた種が、勝手に育っとるわ」

「王国の反応は」

「火消しに、走っとる。『そんな事実はない』『魔族の虚言だ』と、御触れを出してな。──でもレイジさん、否定すればするほど、みんな『なんでそんな必死なんや?』と思う。王国は、自分で、噂に、真実味を持たせとるんや」

「盤面通りだな」

俺は、呟いた。

「せやろ? で、ここからが本題や」

ケイルが、声を潜めた。

「ハルベルや。──ハルベル領主が、動きそうやで」

俺の目が、細くなった。

「詳しく」

「噂が、ハルベルにも届いた。領主は、王国の御触れも読んどる。『虚言だ』ってな。──でも、あの領主は、賢い。それに、あんたらを、近くで見てきた。ハルベルで、支部長の膿を出して、盤上の灯を作って、街を良くしていくのを」

ケイルが、俺を見た。

「領主は、知っとるんや。あんたらが、どういう連中か。──噂が、本当かもしれん、と思い始めとる。そして、もし本当なら、王国の側にいるのは、まずい、と」

俺は、しばらく、考えた。盤面が、動き始めている。

ケイルが撒いた噂は、土壌を作った。王国は、火消しに追われ、自ら噂に信憑性を与えている。そして、ハルベル領主が、揺れ始めた。

あの領主は、灯火を、近くで見てきた男だ。だからこそ、判断できる。俺たちが、口先だけの反逆者ではないと。

「ケイル。ハルベル領主と、繋ぎを、つけられるか」

ケイルの、狐目が、細くなった。

「……おいおい。いよいよか」

「ああ。噂で、土壌は、できた。次は、証拠だ。──だが、いきなり突きつけはしない。まず、領主本人に、会う。真実を、見せる。そして、選ばせる」

俺は、窓の外を見た。霧の向こう、王国の方角を。

「王国の側に、残るか。それとも、こちら、ミストリアに、来るか」

第一のドミノが、倒れかけている。ハルベル。俺たちが、最初に、灯を点した街。──そこから、王国の切り崩しが、始まる。

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