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『最弱の戦略家は復讐しない 〜俺を騙したパーティーを俺のクランで雇い直す。ざまぁより、そっちが"勝ち筋"だったので〜』  作者: めざし
盤上の勇者編

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第39話鎖を引きちぎる

十日後。

俺たちは、再び、魔族領へ、向かっていた。

前回と、違うのは──五十人の、王国騎士団が、同行していることだった。

銀の鎧が、隊列を、成して、山道を、進む。その中央に、ソラがいた。

「……兄貴」

ソラが、俺の、隣に、並んだ。

その顔は、まだ、青白かった。

三日前、支配を、振り切ってから。彼は、ずっと、うなされていた。眠るたびに、悪夢を、見ているらしい。

「大丈夫か」

「……なんとか」

彼は、掠れた声で、笑った。

「たまに、頭の中で、声が、するんだ。『こっちに来い』って。──魔王の、声だと思う」

「……」

「でも、負けねえよ」

彼は、拳を、握った。

「俺、まだ、選んでねえから。──選ぶまでは、誰にも、決めさせねえ」

俺は、その、横顔を、見た。

三日前より、ずっと、しっかりした、目をしていた。


だが、その一方で。

俺の頭の中では、盤面が、最悪の形で、動いていた。

騎士団、五十人。

前回は、五人だった。それが、十倍になった。

「魔王討伐のため」という、名目。──だが、本当に、それだけか。

「レイジさん」

隣で、フィオナが、囁いた。

「騎士たち、こちらを、見ています。──ずっと」

「ああ」

俺も、気づいていた。

腕輪の視界と、ミサンガの、聴覚。五つの、付与品が、周囲の、すべてを、拾っている。

騎士たちの、視線。囁き。足の、運び。

──魔王ではなく、俺たちを、警戒している。

「……妙だな」

俺は、呟いた。

「何がですか」

「あいつら、隊列の、組み方が、おかしい」

俺は、静かに、言った。

「魔族領へ、進軍するなら、前方を、厚くする。だが、あいつらは──俺たちを、囲むように、展開している」

フィオナの、顔が、こわばった。


「……罠、ですか」

「まだ、分からない」

俺は、答えた。

「だが、備えておく」

俺は、隊列を、見渡した。

盤上の灯からは、俺、フィオナ、ニック、そして選抜の、十人。

ガルドと、セシリアは、いない。

二人は、バッセさんと共に、王都に、行っている。──ガルドの、記録提出。そして、バッセさんの、「調べもの」

「……ニック」

俺は、斥候を、呼んだ。

「なんだ」

「いつでも、逃げられるように、退路を、確認しておけ。──騎士団に、気づかれないように」

ニックの、顔が、引き締まった。

「……そんなに、ヤバいのか」

「保険だ」

俺は、答えた。

「使わずに、済めば、それでいい」


魔族領に、着いたのは、五日目の、夕方だった。

谷が、見下ろせる、稜線。

そこで、騎士団の、隊長が、宣言した。

「本日は、ここで、野営とする! 明朝、進軍を、開始する!」

騎士たちが、天幕を、張り始めた。

だが──その、配置が。

「……レイジ」

ニックが、青ざめた顔で、寄ってきた。

「あいつら、俺たちの天幕を、囲むように、張ってる。──退路、全部、塞がれてる」

「……そうか」

俺は、静かに、頷いた。

「レイジ、これ──」

「動くな」

俺は、遮った。

「今、動けば、向こうに、口実を、与える。──『逃亡を、企てた』と」

俺は、天幕の、方を、見た。

「……向こうから、来るはずだ。じきに」


そして、その夜。

騎士団の、隊長が、俺たちの、天幕に、来た。

十人の、騎士を、連れて。

「盤上の灯、代表代理」

隊長が、俺を、見下ろした。

「王都本部より、通達が、届いた」

「……何でしょう」

「貴クランに、重大な、嫌疑が、かかっている」

隊長は、書状を、掲げた。

「先の、魔族領侵攻において。──貴殿は、魔王と、密談を、行った」

俺は、答えなかった。

「随行の騎士より、報告があった。『魔王と、記録の、やり取りを、約束した』と。──これは、明白な、内通である」

隊長の、目が、鋭くなった。

「よって、王命により。──盤上の灯、全員を、拘束する」

「……拘束、ですか」

俺は、静かに、聞いた。

「そうだ。抵抗すれば、その場で、討ち取る」

「一つ、確認を」

俺は、続けた。

「その通達には、『拘束後、王都で、審理を行う』と、書いてありますか」

隊長の、動きが、止まった。

「……なに?」

「内通の、嫌疑なら、審理が、要る。証拠を、調べ、弁明を、聞き、判断を、下す。──それが、王国の、法です」

俺は、彼を、見た。

「その手順が、書かれているか、聞いています」

隊長は、答えなかった。

代わりに、書状を、畳んだ。

「……賢しいな、貴様」

「答えは、『いいえ』ですね」

俺は、静かに、言った。

「つまり、審理は、ない。──最初から、俺たちを、殺すつもりだ」


「──ソラ様!」

その時、天幕の、外から、ソラの声が、した。

「なんだよ、これ! なんで、兄貴たちが、拘束されるんだ!」

「勇者様は、お下がりください」

騎士が、彼を、止めていた。

「これは、王命です」

「王命!? 兄貴たちは、何もしてねえだろ!」

「魔王と、内通しました」

「してねえよ! あれは、記録の話で──」

「勇者様」

隊長が、天幕から、出た。

そして、冷たく、言い放った。

「あなたも、その場に、いましたね」

ソラの、動きが、止まった。

「……え?」

「あなたも、魔王と、言葉を、交わした。──あなたも、内通の、嫌疑が、かかっています」

隊長は、剣の柄に、手を、かけた。

「勇者様。──あなたが、王国に、忠誠を、示すには、一つの、方法しか、ありません」

彼は、俺を、指した。

「その男を、討ってください」


天幕の、周囲が、静まり返った。

ソラは、動かなかった。

その、顔が、蒼白だった。

「……何、言ってんだ」

「勇者様」

「兄貴を、討て、だって?」

「そうです」

隊長は、頷いた。

「それで、あなたの、嫌疑は、晴れます。──簡単なことです」

ソラの、身体が、震えた。

そして──彼は、笑った。

乾いた、笑いだった。

「……ああ、そうか」

彼は、掠れた声で、言った。

「そういうことか。──最初から、そのつもりだったんだな」

「勇者様?」

「俺に、兄貴を、殺させる」

ソラは、隊長を、睨んだ。

「そんで、俺は、また、王国の、犬に、戻る。──そういう、筋書きか」

隊長の、表情が、変わった。

「……口が、過ぎますな」

「うるせえ」

ソラは、聖剣に──いや。

その腰に、聖剣は、なかった。ハルベルに、置いてきたままだ。

彼は、代わりに、拳を、握った。

「俺は、討たねえ」

「勇者様」

「兄貴は、俺に、初めて、『考えろ』って、言ってくれた人だ」

彼の、声が、震えていた。

「王様も、先生も、みんな、『考えるな』って、言った。『命令に、従え』って。──でも、兄貴だけは、違った」

彼は、俺を、見た。

「『自分で、選べ』って、言ってくれた」

そして、隊長に、向き直った。

「だから、俺は、討たねえ。──これが、俺の、選択だ」

隊長は、しばらく、黙っていた。

そして、静かに、剣を、抜いた。

「……残念です、勇者様」

その、瞬間。

騎士団の、五十人が、一斉に、剣を、抜いた。

「王国への、反逆と、みなす」

隊長が、告げた。

「盤上の灯、および、勇者ソラ。──全員、討ち取れ」

「──っ!」

俺は、叫んだ。

「散開!! 稜線の、東へ!」

盤上の灯の、面々が、動いた。

だが──遅い。

騎士団は、既に、囲みを、完成させていた。

五十人。対して、こちらは、十三人。

「フィオナ!」

「はい!」

「東の、斜面! 氷で、道を、作れ! 全員、そこから、下る!」

「分かりました!」

フィオナが、杖を、掲げた。

「『氷結の(アイス・ロード)』!」

斜面に、氷の、滑り道が、伸びた。

「選抜組、下れ! ニック、誘導!」

「おうよ!」

十人が、氷の道を、滑り降りていく。

ニックが、殿を、務めた。

「レイジ! お前も!」

「後だ!」

俺は、叫んだ。

「ソラを、連れて行け! こいつが、一番、狙われる!」

「兄貴!?」

ソラが、俺を、見た。

「行け!」

俺は、彼の、背を、押した。

「お前が、生きてれば、まだ、盤面は、続く! ──お前が、死んだら、終わりだ!」

だが…

その、判断は。

半分、間違っていた。

「──逃がすな!」

隊長の、声が、飛んだ。

「勇者は、生かせ! 他は、全員、殺せ!」

騎士たちが、殺到した。

俺と、フィオナに。

「……っ!」

俺は、短剣を、抜いた。

剣霊の、加護。腕力、三十六。敏捷、四十四。

そして──

「【自己強化】」

身体の、芯に、熱が、灯った。

十パーセントの、底上げ。剣霊の、加護の、上に。打ち消し合わずに、重なる。

そして、五つの、付与品も、乗ったまま。

腕輪の視界。ミサンガの聴覚。護符の遠見。耳飾りの、気配遮断。軍鼓の、短剣。

全部、生きている。

「──来い」

俺は、構えた。


騎士が、斬りかかってきた。

俺は、その、軌道を、読んだ。

腕輪の、視界。──剣先が、どこを、通るか、見える。

軍鼓の、短剣で、受け流す。

「なっ!?」

騎士が、体勢を、崩した。

その、隙に、俺は、横へ、跳んだ。

「フィオナ! 下がれ!」

「はい!」

「三人、右から回り込んでる! 氷で、足元を!」

「『氷結の地』!」

地面が、凍った。

三人の、騎士が、滑って、転んだ。

俺は、盤面を、読み続けた。

五十人。だが、山道だ。全員が、一度に、かかってこられない。──通れるのは、一度に、三人か、四人。

「フィオナ、隘路に、下がれ! そこなら、二人ずつしか、来られない!」

「分かりました!」

俺たちは、後退した。

岩壁を、背にして。

──だが。

それは、時間稼ぎでしか、なかった。


四半刻。

俺たちは、耐えていた。

だが、限界が、近い。

フィオナの、魔力が、尽きかけている。俺の、身体も、限界だ。

剣霊の、加護で、強くなった。だが──戦闘力、二百十七。それでも、騎士一人ひとりが、百五十から、百八十。

一対一なら、勝てる。だが、五十人だ。

「……レイジさん」

フィオナが、荒い息で、言った。

「もう、私、魔力が」

「分かってる」

俺は、答えた。

「隙を、見て、逃げる。──俺が、囮になる」

「駄目です!」

「聞け」

俺は、彼女を、見た。

「お前は、生きろ。──記録が、ある。バッセさんが、王都から、持ち帰る。それを、世に、出せるのは、お前たちだ」

「そんな──!」

「フィオナ」

俺は、静かに、言った。

「頼む」

彼女の、目に、涙が、浮かんだ。

「……嫌です」

「フィオナ──」

「嫌です!!」

彼女は、叫んだ。

「あなたが、いなくなったら、私は──!」


その、瞬間。

「──うおおおおおおお!!」

咆哮が、響いた。

稜線の、上から。

騎士たちが、一斉に、振り返った。

そして、そこに。

大盾を、構えた、男が、立っていた。

「……ガルド、さん」

俺は、呆然と、呟いた。

その、隣に。

杖を、握りしめた、セシリアが。

そして──背に、一本の、剣を、背負って。

聖剣を。


「──レイジィィィィ!!」

ガルドが、叫んだ。

「無事か!!」

「なぜ、ここに!」

「王都から、戻ったら、お前らが、いねえ!」

彼は、斜面を、駆け下りてきた。

「バッセの、爺さんが、言ったんだ! 『嫌な、予感がする』って! だから、走ってきた!」

「監督下は、どうした!」

「知るか!!」

ガルドが、吠えた。

「三年の、監督下だ! 動けば、王命違反だ! ──だから、なんだ!」

彼は、大盾を、構えた。

「仲間が、殺されようとしてる時に。──俺は、鎖に、繋がれて、待ってろってのか!」

彼の、目が、燃えていた。

「そんな、鎖なら──引きちぎる!!」


ガルドが、突っ込んだ。

大盾で、騎士を、三人、まとめて、吹き飛ばした。

「ぐわっ!?」

「セシリア! 祝福を!」

「はい!」

セシリアが、杖を、掲げた。

「──『聖光の祝福』!」

温かい、光が、俺たちを、包んだ。

身体が、軽くなる。

「……ありがたい」

俺は、呟いた。

「レイジさん! ご無事で!」

「ええ。──なぜ、来たんですか」

「私が、来ないと、思いましたか?」

セシリアは、微笑んだ。

だが、その目には、涙が、光っていた。

「私は、六年間。──守れなかったんです。仲間を」

彼女は、杖を、握りしめた。

「もう、二度と。──遅れたくは、ありません」


戦況が、変わった。

ガルドの、大盾が、前線を、押し返す。セシリアの、祝福が、俺たちを、支える。

だが──それでも、五十人だ。

「くそっ、多すぎる!」

ガルドが、呻いた。

「レイジ! どうする!」

「東へ、退く!」

俺は、叫んだ。

「ニックたちが、下で、待ってる! 全員、氷の道を──」

その、瞬間。

腕輪の、視界が、それを、捉えた。

隊長。

彼が、隊列の、後方から、駆けてくる。

俺を、狙って。

その、剣が。

俺の、死角から。

「──っ!」

俺は、避けようとした。

だが、遅い。

軍鼓の、短剣を、構えたが──受けきれない。隊長の、膂力は、他の騎士とは、違う。

当たる。

そう、思った、瞬間。

「──レイジぃぃぃ!!」

巨大な、影が、割り込んだ。

がぁん、と。

金属が、砕ける音。

ガルドの、大盾が。

隊長の、剣を。

受け止めていた。


「ガルド!!」

「……無事か、レイジ」

ガルドが、掠れた声で、言った。

だが──その、大盾が。

割れていた。

そして、その、割れ目から、突き抜けた、剣先が。

ガルドの、腹に。

深く、刺さっていた。

「……が、っ」

血が、口から、溢れた。

「ガルドさん!!」

「レイジ、さん!」

セシリアが、絶叫した。

「ガルドさん!!」

隊長が、剣を、引き抜いた。

ガルドの、身体が、傾いた。

だが──倒れなかった。


「……まだ、だ」

彼は、大盾を、地面に、突き立てた。

そして、それに、寄りかかるように。

立ち続けた。

「ガルドさん、下がって!」

「駄目だ」

彼は、荒い息で、言った。

「俺が、下がったら。──お前らが、死ぬ」

「でも、その傷は──!」

「レイジ」

ガルドが、俺を、見た。

その顔は、蒼白だった。だが、目だけが、燃えていた。

「俺は、六年、間違えた」

「……」

「臨時を、使い潰した。お前を、囮にした。──全部、俺が、やった」

彼は、血を、吐きながら、笑った。

「だから、決めたんだ。あの日、お前が、俺を、潰さなかった、あの日に」

彼は、大盾を、握りしめた。

「──今度は、俺が、盾になる、って」


その、瞬間。

地面が、震えた。

「……!?」

騎士たちが、体勢を、崩した。

そして──ガルドの、足元から。

淡い、褐色の光が。

立ち昇った。

「な、なんだ!?」

「地が……光ってる!」

俺は、その光を、見て、思い出した。

剣霊の、言葉を。

『地の、精霊が、興味を、持った者が、いる。──"不動"の、器を、持つ、男だ』

『いずれ、その男にも、力を、貸すことが、あるだろう。──地は、動かぬ者を、好む』

「……地の……精霊」

俺は、呟いた。

褐色の光が。

ガルドの身体を、包んだ。

そして──割れていた、大盾が。

地面から、盛り上がった、岩に、覆われて。

再生した。

「……なんだ、これ」

ガルドが、呆然と、呟いた。

だが、その、身体は。

明らかに、変わっていた。

血は止まっていない。

傷も塞がっていない。

だが──動きが、止まらない。

「……力が、湧いてくる」

彼は、大盾を、構え直した。

「地面から。──足の裏から」

そして彼は吠えた。

「──まだ、立てる!!」


ガルドが、突っ込んだ。

岩の大盾で。

騎士たちを、まとめて、吹き飛ばした。

五人。

十人。

「な、なんだ、あの男は!」

「化け物か!?」

騎士たちが、動揺した。

「レイジ!!」

ガルドが、叫んだ。

「今のうちに、退け! 東へ!」

「ガルドさん!」

「行け!!」

彼は、振り返らずに、叫んだ。

「──代表命令だ!!」


だが。

その、力は。

長くは、続かなかった。

「……ぐ、っ」

ガルドの、動きが、鈍った。

血が、足元に、溜まっている。

「ガルドさん!!」

「……はは」

彼は、笑った。

「駄目だな。──腹が、痛え」

そして。

膝から、崩れ落ちた。

「ガルド!!」

俺は駆け寄った。

彼の、身体を、支えた。

「……レイジ」

「喋るな! セシリアさん!」

「……いいんだ」

ガルドは、俺の腕を、掴んだ。

「これで、いい。──俺は、六年分の、借りを、返した」

「馬鹿なことを──!」

「レイジ」

彼は、微笑んだ。

血に、まみれた顔で。

「盤上の灯を、頼む。──あの百人を、正しく、測ってやってくれ」

そして。

その手が。

だらりと、落ちた。


「──ガルド!!」

俺は、叫んだ。

「セシリアさん! 早く!」

だが。

セシリアは。

動かなかった。

ガルドの、傍らに、膝をついて。

震える手で、彼の、顔に、触れて。

そして──

「…………ぁ」

小さな、声が、漏れた。

「……ぁ、あ」

「セシリアさん?」

「……いや」

彼女の、声が、震えた。

「いや……いやです……」

彼女は、ガルドの、身体を、抱きしめた。

「六年、待ったんです」

その声が、掠れた。

「六年、あなたが、戻ってくるのを、待ったんです。……やっと、戻ってきたのに」

彼女の、目から、涙が、溢れた。

「やっと、笑うように、なったのに……!」


そして。

彼女は、顔を、上げた。

その目に。

光が、宿っていた。

「……もう」

彼女の、声が、変わった。

静かで。

そして──強かった。

「──もう、誰も、死なせない」

その、瞬間。

白い、光が、爆ぜた。


戦場が、光に、包まれた。

温かく。

まばゆく。

そして──すべてを、包み込むように。

「な、なんだ!?」

「目が……!」

騎士たちが、腕で、顔を、覆った。

俺は、その、光の、中心を、見た。

セシリアが、立っていた。

その、身体から。

純白の、光が、立ち昇っている。

そして、その、背後に。

巨大な、光の、翼のようなものが。

浮かんでいた。

「……セシリアさん」

俺は、呟いた。

彼女の、水晶の、記録が。

頭の中で、蘇った。

『ギフト:【聖光の加護】』

『 ※本来の位階は、まだ眠っている』

「──目覚めた、のか」


そして。

セシリアの身体を、包む白い光の中から。

もう一つの、光が、現れた。

七色の、聖剣の、光と。

同じ、質の光。

聖の精霊。

「……ああ」

俺は、悟った。

剣霊は、地の精霊のことは、教えてくれた。「不動の器を持つ男に、興味を持った」と。

だが──聖の精霊のことは、何も、言わなかった。

なぜなら。

あの窪地に、セシリアは、いなかったからだ。

精霊たちは、彼女を、見ていなかった。

だが、今。

その光が。

彼女を、見つけた。


「──『聖光の、大祝福』」

セシリアの、声が、響いた。

静かに。だが、戦場の、隅々まで。

そして。

白い光が。

俺たち全員を、包んだ。

身体の、奥から。

力が、湧き上がる。

「……なんだ、これ」

俺は、自分の、身体を、見た。

祝福。──だが、以前とは、桁が、違う。

三割。

祝福による、上昇率が。

三十パーセント。

俺の、二百十七が。

二百八十を、超えた。

「フィオナ、身体は!」

「……信じられません」

彼女が、呆然と、呟いた。

「魔力が……戻っています。それに、身体も、軽い」

彼女の、二百二十が。

二百八十六に。

そして。

セシリアが、ガルドの、傷に、手を、当てた。

白い、光が、注がれる。

「……止まって、ください」

彼女が、囁いた。

「まだ、逝かせません。──私が、許しません」

血が。

止まった。

ガルドの、呼吸が。

かすかに、戻った。

「……セシ、リア」

「喋らないで」

彼女は、涙を、流しながら、微笑んだ。

「六年、待ちました。──もう、少しくらい、待たせても、いいでしょう?」

そして、彼女は、立ち上がった。

白い光を、纏って。

騎士たちを、見据えて。

「──これ以上、誰も、傷つけさせません」

その、声に。

騎士たちが、後ずさった。

「な、なんだ、あの女……!」

「聖女か……!?」

俺は、その、背中を、見ていた。

六年間、罪悪感に、縛られていた女が。

今、初めて。

自分の力を、解き放っていた。


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