第38話 決めてやる
王都から、早馬が、来たのは、俺たちが、ハルベルに、戻った、三日後だった。
『勅命』
『勇者ソラ、ならびに随行のクラン盤上の灯へ』
『先の、魔族領侵攻において、成果なきことを、遺憾とする』
『よって、再度、命ずる』
『十日以内に、魔族領へ、進軍し、魔王を、討つこと』
『今回は、王国騎士団より、五十名を、増派する』
『勇者ソラは、これを、指揮し、必ず、魔王の首を、持ち帰ること』
『なお──』
俺は、その先を、読んで。
手が、止まった。
『随行クラン「盤上の灯」が、任務に、消極的である、との報告を受けた』
『次に、同様の報告があった場合。──クラン登録を、抹消し、代表以下を、王命違反として、処断する』
◇
「……来たか」
俺は、書状を、机に、置いた。
「なんて、書いてある」
ガルドが、聞いた。
「十日以内に、再侵攻。騎士団五十名を、増派。──そして」
俺は、その一行を、指した。
「次に、消極的な報告が、上がれば。──クランは、抹消。俺たちは、処断」
ガルドの、顔が、こわばった。
「……脅しか」
「脅しじゃない。宣告だ」
俺は、静かに、答えた。
「もう、王国は、隠す気も、ない。──『言うことを聞かなければ、殺す』と」
広間が、静まり返った。
そして、ニックが、掠れた声で、聞いた。
「……ソラは? あいつ、王都で、王様に、聞くって、言ってたよな」
「ああ」
俺は、頷いた。
「そして、答えを、聞いたはずだ。──だが」
俺は、書状を、見た。
『勇者ソラは、これを、指揮し、必ず、魔王の首を、持ち帰ること』
「王国は、まだ、あいつを、動かせると、思っている」
◇
ソラが、ハルベルに、戻ったのは、その、二日後だった。
だが──様子が、おかしかった。
「……ソラ」
俺は、クランハウスの、前で、彼を、迎えた。
「王都は、どうだった」
ソラは、答えなかった。
馬から、降りて。
俯いたまま、立ち尽くしていた。
「ソラ?」
「……兄貴」
彼が、掠れた声で、言った。
「王様に、聞いた」
「ああ」
「『なんで、魔族と、戦うんですか』って。『あの村の人たちが、何をしたんですか』って」
彼は、顔を、上げた。
その目が、真っ赤に、腫れていた。
「そしたら、王様」
彼の、声が、震えた。
「──笑ったんだ」
「笑った?」
「うん」
ソラは、頷いた。
「『勇者よ、お前は、優しいな』って。『だが、魔族は、獣だ。獣に、情けをかける必要は、ない』って」
彼は、拳を、握った。
「俺、言ったんだ。『でも、あの人たち、畑を、耕してました』って。『子供も、いました』って。──そしたら」
彼の、声が、掠れた。
「『獣も、巣を作る。子も、産む。それが、どうした』って」
俺は、答えなかった。
「俺、それでも、食い下がった。『あの人たちは、俺たちに、何も、してません』って。そしたら」
ソラは、両手で、顔を、覆った。
「『勇者よ。お前は、考えなくていい。──考えるのは、王の仕事だ』って」
◇
「……そうか」
俺は、静かに、言った。
「そんで、俺、部屋に、戻されて」
ソラの、声が、震えていた。
「先生が、来た」
「総騎士長か」
「うん」
彼は、俯いた。
「先生、心配して、来てくれたんだ。『どうした、ソラ』って。──だから、俺、話した。村のこと。あの子のこと。全部」
「……」
「そしたら、先生」
ソラの、肩が、震えた。
「──『よく、耐えた』って、言ったんだ」
俺は、その言葉に。
背筋が、冷たくなるのを、感じた。
「……よく、耐えた?」
「うん」
ソラは、頷いた。
「『辛かっただろう。だが、それが、勇者の、務めだ』って。『俺も、若い頃、同じことで、悩んだ』って」
彼の、目から、涙が、こぼれた。
「先生も、知ってたんだ。──魔族が、ただの、民だって」
「……」
「知ってて。それでも、『討て』って、教えてたんだ。俺に」
ソラは、その場に、崩れ落ちた。
「なんでだよ……なんで、教えてくれなかったんだよ……!」
俺は、その、震える背中を、見ていた。
そして、静かに、聞いた。
「……総騎士長は、なんと、言った」
「『これは、王家の、決めたことだ』って」
ソラが、掠れた声で、答えた。
「『俺は、王家に、仕える身だ。王家が、決めたことに、従う。それが、俺の、忠義だ』って」
彼は、顔を、上げた。
「そんなの、答えになってねえよ! なんで、間違ってると、分かってて、従うんだよ!」
「……」
「先生は、優しい人なんだ! 俺のこと、ずっと、気にかけてくれて! 飯も、多めに、盛ってくれて! なのに、なんで──」
彼は、また、俯いた。
「……分かんねえ。何も、分かんねえよ」
◇
その夜。
俺は、執務室で、盤面を、組んでいた。
十日以内に、再侵攻。騎士団五十名。──そして、消極的なら、クラン抹消。
盤面は、詰みかけている。
だが。
「レイジさん」
フィオナが、入ってきた。
「ソラさん、ずっと、部屋に、こもっています。……食事も、取っていません」
「そうか」
「様子を、見に行ってあげては?」
「……いや」
俺は、首を、振った。
「今は、そっとしておいた方がいい」
「なぜですか」
「あいつは、今、自分の中で、戦っている」
俺は、静かに、言った。
「三年間、信じてきたものが、崩れかけている。──それは、あいつが、自分で、乗り越えるしかない」
俺は、ペンを、置いた。
「俺が、口を出せば。それは、また、誰かの言葉で、あいつの盤面が、決まることになる」
フィオナは、少し、考えた。
そして、頷いた。
「……分かりました」
だが、彼女は、去り際に、こう言った。
「でも、レイジさん。──人は、一人では、耐えられないことも、あります」
その言葉が。
正しかったことを。
俺は、翌朝、知ることになる。
「──レイジ!!」
夜明け前。
ニックの、絶叫が、クランハウスに、響いた。
「ソラが、いない!!」
俺は、飛び起きた。
客間へ、走る。
扉が、開いていた。
寝台は、空。荷物も、ない。──だが、聖剣が、置いてあった。
その、上に。
一枚の、紙。
『兄貴へ』
『ごめん。俺、一人で、行く』
『魔王に、もう一回、聞いてくる』
『先生が、何を、知ってたのか。王様が、何を、隠してるのか。──全部、聞いてくる』
『兄貴たちを、巻き込みたくない』
『クラン、抹消されるって、書いてあったろ。俺のせいで、そんなことに、なるの、嫌だ』
『だから、一人で、行く』
『聖剣は、置いていく。あれ、俺のじゃないから』
『──ソラ』
◇
「……馬鹿が」
俺は、その紙を、握りしめた。
「レイジ、どうする!」ニックが、叫んだ。
「追う」
俺は、即答した。
「だが、あいつの脚は、速い。夜明け前に、出たなら──もう、山道に、入ってる」
「間に合うのか!?」
「間に合わせる」
俺は、腕輪に、魔力を、通した。
そして──気づいた。
魔力が、三十。剣霊の、加護。
以前なら、四つが、限界だった。だが、今なら。
腕輪。ミサンガ。護符。耳飾り。──そして、軍鼓の短剣。
五つ、同時に。
「……行ける」
俺は、立ち上がった。
「フィオナ、ニック、来い! ガルドさん、留守を、頼む!」
「おう!」
「セシリアさんは、待機! 怪我人が、出るかもしれない!」
「はい!」
◇
俺たちは、山道を、駆けた。
腕輪の視界。ミサンガの、聴覚。護符の、遠見。──五つの感覚が、同時に、生きている。
以前とは、まるで、違った。
十歩先しか、読めなかった俺が。今は、三十歩、五十歩、先まで、読める。
「──レイジ! 速いぞ、お前!」
ニックが、驚いていた。
「加護のおかげだ」
俺は、答えた。
身体能力も、上がっている。以前なら、この山道を、この速度で、走ることは、できなかった。
「フィオナ、ついてこれるか!」
「なんとか!」
彼女も、必死で、走っていた。
そして、四半日後。
俺たちは、魔族領を、見下ろす、稜線に、着いた。
そして──腕輪の視界が、それを、捉えた。
◇
谷の、底。
魔王の、街の、外れ。
ソラが、立っていた。
そして、その前に。
魔王が。
「……間に合ったか」
俺は、呟いた。
だが──様子が、おかしい。
ソラが、両膝を、ついている。
そして、魔王が、その頭に、手を、かざしていた。
「……何をしてる」
俺は、腕輪の視界を、絞った。
魔王の、手のひらから。
黒い、靄のようなものが、ソラの、頭に、流れ込んでいる。
「……!」
背筋が、凍った。
「──ソラ!!」
俺は、斜面を、駆け下りた。
無茶な、速度で。
腕輪と、ミサンガで、足場を、読みながら。転げ落ちるように。
そして、谷底に、着いた時。
「──やめろ!!」
俺の、叫びに。
魔王が、振り返った。
その顔に、何の、感情も、なかった。
ただ、静かに。
「……来たか」
「何を、してる!」
「見て、分かるだろう」
魔王は、答えた。
「支配だ」
俺は、その言葉に。
猛烈な速度で、盤面を、読んだ。
支配。──精神支配。
魔族に、そんな力が、あるとは、知らなかった。だが、あるのだろう。魔王という、種族の頂点なら。
だが、なぜ。
「……なぜだ」
俺は、聞いた。
「なぜ、今更。──あんたは、三度、俺たちを、見逃した。殺す気は、ないと、言った」
「そうだ」
「なのに、なぜ、ソラを──」
「殺していない」
魔王は、静かに、言った。
「支配しただけだ」
「同じことだろう!」
「違う」
魔王の、声が、低くなった。
「殺せば、王国は、次を、送ってくる。──だが、勇者を、奪えば」
彼は、ソラの、頭に、手を、置いたまま。
「王国は、最強の駒を失う」
◇
俺は、その言葉に、気づいた。
──そうか。
これが、魔王の、勝ち筋だ。
軍事力では、勝てない。四十五年、削られ続けて、もう、戦う力が、残っていない。
だから、敵の、最強戦力を、奪う。
「……ずっと、狙っていたのか」
「いや」
魔王は、首を、振った。
「三度、見逃した。──その気になれば、いつでも、できた。だが、しなかった」
「なぜ」
「支配は、心を、壊すからだ」
魔王の、声に、初めて、痛みが、混じった。
「あの少年は、まだ、子供だ。何も、知らずに、駒に、された。──俺は、それを、二度、するのは、忍びなかった」
彼は、ソラを、見下ろした。
「だが、今日。──あの少年は、一人で、来た。俺の、前に」
「そして、こう言った」
魔王は、静かに、語った。
「『教えてくれ』と。『先生が、何を、知ってたのか。王様が、何を、隠してるのか』と」
「……」
「俺は、答えた。全部だ。四十五年の、すべてを」
彼の、声が、掠れた。
「そして、あの少年は、こう言った。──『じゃあ、俺は、どうすればいいんだ』と」
俺の、心臓が、跳ねた。
「『人族を、守りたい。でも、魔族も、悪くない。──俺は、誰と、戦えばいいんだ』と」
魔王は、ソラの、頭に、置いた手を、見た。
「あの少年は、迷っていた。──ずっと。ぐるぐると。答えの出ない場所で」
彼は、目を、閉じた。
「そして、俺は、思った。──なら、俺が、決めてやろうと」
「──ふざけるな!!」
俺は、叫んだ。
自分でも、驚くほどの、声で。
「あいつは、今、自分で、考えてるんだ! 三年間、誰にも、考えさせてもらえなかった、あいつが!」
俺は、拳を、握った。
「初めて、自分の頭で、迷ってるんだ! それを、あんたが、勝手に──」
「迷いは、苦しい」
魔王は、静かに、言った。
「お前は、あの少年の、顔を、見たか。──三日前、俺の前で、崩れ落ちた、あの顔を」
「……」
「今日も、同じだった。もっと、酷かった。──眠れていない。食べていない。ずっと、一人で、答えの出ない問いを、抱えている」
魔王の、声が、震えた。
「あれは、救いだ」
「救い?」
「迷わなくて、済む」
彼は、ソラの、頭を、撫でた。
まるで、子を、慈しむように。
「俺が、命じれば。この子は、迷わない。ただ、従えばいい。──楽になる」
◇
「……それは」
俺は、絞り出すように、言った。
「王国が、こいつに、したことと、同じだ」
魔王の、動きが、止まった。
「王国も、そう言った。『考えなくていい』と。『考えるのは、王の仕事だ』と」
俺は、彼を、睨んだ。
「あんたの言ってることは、それと、何が、違う」
魔王は、答えなかった。
長い、沈黙が、あった。
そして、彼は、掠れた声で、言った。
「……違わないな」
「なら──」
「だが」
魔王は、俺を、見た。
その目に、深い、絶望が、あった。
「他に方法が、ないんだ」
◇
「……俺には、時間が、ない」
魔王は、静かに、言った。
「王国は、五十の騎士を、送ってくる。次は、百かもしれん。──俺の民は、もう、五千を、切った。四十五年前は、三万いた」
彼の、拳が、震えた。
「守れないんだ。──どれだけ、俺が、強くても。一人では、五千を、守りきれない」
彼は、ソラを、見た。
「だから、勇者の力が、要る」
「……」
「卑劣だと、罵るがいい。だが、俺にはこれしかない」
魔王は、目を、閉じた。
「五千の民と、一人の、少年の心。──俺は、民を、選ぶ」
◇
俺は、答えられなかった。
理解は、できた。
この男は、四十五年、削られ続けた。三万が、五千になった。守る手段が、もう、これしか、ない。
だが。
「……ソラ」
俺は、その、名を、呼んだ。
膝をついた、少年の。
「聞こえるか」
ソラは、答えなかった。
その目が、虚ろだった。黒い靄が、まだ、流れ込んでいる。
「ソラ!」
俺は、叫んだ。
「お前は、まだ、選んでない!」
その言葉に。
ソラの、指が、わずかに、動いた。
◇
「……無駄だ」
魔王が、言った。
「支配は、完了する。あと、少しで──」
「ソラ!!」
俺は、遮って、叫んだ。
「聞け! お前は、まだ、自分で、選んでない!」
「……」
「聖剣は、お前を、拒んだ! なぜだ! お前が、まだ、何も、選んでいなかったからだ!」
俺は、一歩、踏み出した。
「今、ここで、他人に、決められたら。──お前は、一生、選べないままだ!」
ソラの、身体が、震えた。
「王国に、決められて。次は、魔王に、決められて。──それで、お前は、いいのか!」
「……ぁ」
ソラの、口から、掠れた声が、漏れた。
「お前が、俺に、言ったろ!」
俺は、叫んだ。
「『兄貴の言葉も、鵜呑みにするな』って言ったら、お前は、笑ったよな! 『だから、あんたを、信じられる』って!」
「……ぁ、あ」
「なら、今も、そうしろ! 誰の言葉も、鵜呑みにするな! 王の言葉も、魔王の言葉も、俺の言葉も!」
俺は、拳を、握った。
「──自分で、選べ、ソラ!!」
◇
その、瞬間。
ソラの、目に。
光が、戻った。
「……に、い……き」
彼が、掠れた声で、言った。
「なに?」
魔王が、驚いた。
「馬鹿な。支配が──」
ソラの、手が、動いた。
震えながら。地面を、掴んで。
そして──立ち上がろうとした。
「……お、れ、は」
彼の、口が、動いた。
「まだ……えらんで、ない……」
その目が、俺を、捉えた。
真っ赤な、その目が。
「……に、いき」
そして、彼は。
一歩、前へ、踏み出した。
魔王の、手から、逃れるように。
◇
「……なんだと」
魔王が、目を、見開いた。
「支配を、振り切った、だと? 完了寸前で──」
だが、その、驚愕は。
長くは、続かなかった。
魔王の、手が、動いた。
再び、ソラの、頭に。
「──させるか!」
俺は、駆け出した。
だが、届かない。距離が、ある。俺の脚では。
そして──
「──『氷結の楔』!!」
フィオナの、声が響いた。
稜線から。
全力の詠唱。
氷の槍が。
魔王の、腕を狙って飛んだ。
◇
魔王は、それを避けなかった。
避ける必要がなかった。
氷の槍は、彼の、腕に、当たり──砕けた。
傷一つつけずに。
「……その程度か」
魔王は、静かに、言った。
だが──その一瞬。
彼の、注意が逸れた。
そして、その一瞬で。
俺は、間合いに入った。
「──ソラ!」
俺は、彼の、腕を、掴んだ。
そして、力の限り、引いた。
剣霊の、加護。腕力、十六から、三十六へ。──以前の、俺なら動かせなかった。
だが、今なら。
ソラの、身体が魔王の手から離れた。
◇
「ニック!!」
俺は、叫んだ。
「おうよ!!」
ニックが、韋駄天で、飛び込んできた。
そして、ソラを、担ぎ上げた。
「走れ! 全速で!」
「言われなくても!!」
ニックが、駆け出した。
俺も、続いた。
背後で、魔王が、動く気配が、した。
だが──追ってこなかった。
俺は、走りながら、振り返った。
魔王は、その場に、立っていた。
俺たちを、見送っていた。
その顔に。
なぜか──安堵の、ような、ものが。
浮かんでいた、気が、した。
◇
山道を、駆け上り。
稜線を、越えて。
俺たちは、ようやく、足を、止めた。
ソラは、意識を、失っていた。
だが、呼吸は、ある。
「……レイジ」
ニックが、荒い息で、言った。
「あいつ、大丈夫か」
「分からない」
俺は、答えた。
「支配は、振り切った。だが──完全に、消えたかは分からない」
俺は、ソラの、顔を、見た。
苦しそうに、眉を、寄せている。
うなされて、いた。
「……せんせい」
彼が、うわ言のように、呟いた。
「なんで……おしえて、くれなかった……」
「……ぁ、に、き」
「たすけて……」
俺は、その、額に、手を、当てた。
熱かった。
「……ハルベルへ、戻る」
俺は、言った。
「セシリアさんに、診てもらう。──急ぐぞ」
◇
だが。
俺の、頭の中では。
盤面が、最悪の形で、動いていた。
魔王は、ソラを、諦めていない。
そして、王国は、十日以内の、再侵攻を、命じている。
つまり。
十日後。
俺たちは、また、魔族領へ、行かなければ、ならない。
魔王の、いる、場所へ。
支配を、狙う、相手の、前へ。
「……詰みかけてるな」
俺は、呟いた。
だが。
その時ふと。
魔王の、最後の顔が頭をよぎった。
安堵の、ようなあの表情。
「……なぜだ」
なぜ、あの男は。
支配を、振り切られて。
安堵したような顔を、したんだ。
その問いの、答えを。
俺は、まだ、掴めずにいた。




