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『最弱の戦略家は復讐しない 〜俺を騙したパーティーを俺のクランで雇い直す。ざまぁより、そっちが"勝ち筋"だったので〜』  作者: めざし
盤上の勇者編

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第35話 王命

ソラが、王都へ、発ったのは、翌朝だった。

「じゃあな、兄貴!」

彼は、馬上から、手を、振った。

「報告して、すぐ、戻ってくるからな! 待っててくれよ!」

「……気をつけろ」

俺は、答えた。

「王都で、余計なことは、言うな。──『聖剣は、抜けた』。それだけでいい」

「分かってるって!」

ソラは、笑った。

そして、ちらりと、フィオナを、見た。

「あー、その、フィオナ! 行ってくる!」

「……お気をつけて」

フィオナは、軽く、頭を、下げた。

それだけだった。

だが、ソラは、それで、十分だったらしい。顔を、赤くして、馬を、走らせていった。

「……分かりやすい坊主だな」

ガルドが、呆れたように、呟いた。

「え? 何がです?」

俺の、問いに、ガルドと、ニックと、セシリアが、同時に、こちらを、見た。

そして、三人が、同時に、深い、溜め息を、ついた。

「……なんです?」

「いや」

ガルドが、頭を、振った。

「なんでもねえ」


ソラが、去って、六日。

その間、俺たちは、通常の、業務に、戻っていた。

依頼の、割り振り。新人の、教育。記録の、整理。

だが──俺の頭の中では、ずっと、盤面が、動いていた。

王国。ソラ。魔王。

三つの、力。

そのすべてが、敵に、なりうる。

そして、王国は、必ず、次の手を、打つ。聖剣が、揃った。切り札が、完成した。

──なら、次は。


「……レイジさん」


執務室に、フィオナが、入ってきた。

「難しい顔を、していますね」

「ああ」

「王国の、次の手、ですか」

「分かるか」

「あなたが、そんな顔をするのは、盤面が、詰みかけている時だけです」

フィオナは、俺の、向かいに、腰を、下ろした。

「教えてください。──私も、一緒に、考えます」

俺は、少し、驚いた。

そして、頷いた。

「……そうだな」

一人で、抱える必要は、ない。


「王国の、狙いは、三つあった」

俺は、記録を、広げた。

「一つ。俺たちが、どれだけ危険な組織か、内側から、見ること」

「はい」

「二つ。聖剣を、回収させること」

「それは、達成されましたね」

「ああ。──そして、三つ目」

俺は、フィオナを、見た。

「用が済んだら、俺たちを、潰すこと」

フィオナの、顔が、こわばった。

「……もう、用は、済んだ、ということですか」

「いや」

俺は、首を、振った。

「まだだ。──聖剣は、揃った。だが、王国の、最終目的は、聖剣じゃない」

「……魔王討伐」

「そうだ」

俺は、頷いた。

「聖剣は、そのための、道具でしかない。──だから、王国は、次に、魔王を、討ちに行く」

俺は、地図を、指した。

北西。霧の森の、向こう。

「そして、その時。──俺たちは、どうなると、思う」


フィオナは、しばらく、考えた。

そして、青ざめた。

「……まさか」

「そのまさかだ」

俺は、答えた。

「精霊の地の、道を、知っているのは、俺たちだけだ。ソラを、案内したのも、俺たちだ。──王国は、必ず、俺たちを、使う」

「魔王討伐に、同行させる、と?」

「ああ」

俺は、静かに、言った。

「そして、そこで──俺たちを、始末する」

フィオナが、息を、呑んだ。

「……どういう、ことですか」

「考えてみろ」

俺は、指を、折った。

「魔王領への、侵攻。当然、激戦になる。そこで、盤上の灯が、全滅しても──」

「……『魔王に、殺された』で、済む」

フィオナが、掠れた声で、言った。

「そうだ」

俺は、頷いた。

「王国は、手を、汚さずに、目障りなクランを、消せる。しかも、『魔王討伐に、殉じた英雄』として、体面まで、保てる」

俺は、地図を、見つめた。

「──完璧な、盤面だ。王国から、見れば」


フィオナは、しばらく、答えられずにいた。

そして、絞り出すように、聞いた。

「……断ることは、できないんですか」

「できない」

俺は、即答した。

「王命だ。断れば、それこそ、討伐の口実になる。──『王命に、背いた反逆者』として」

「では……行くしか、ないと」

「ああ」

「そんな」

フィオナの、声が、震えた。

「行けば、殺される。行かなければ、討たれる。──どちらも、詰みじゃ、ありませんか」

「そうだな」

俺は、静かに、答えた。

「まともに、考えれば」

そして、俺は、地図から、顔を、上げた。

「──だが、詰みの盤面ほど、俺の、領分だ」


「……何か、手が、あるんですか」

「一つだけ」

俺は、答えた。

「王国の、盤面には、大きな、穴が、一つ、ある」

「穴?」

「ソラだ」

俺は、地図を、指した。

「王国は、ソラを、使って、魔王を、討つつもりだ。だが──もし、ソラが、命令に、従わなかったら?」

フィオナの、目が、見開かれた。

「……ソラさんが、王国に、逆らう?」

「今は、無理だ」

俺は、正直に、言った。

「あいつは、まだ、王国の、駒だ。三年間、そう育てられた。──だが」

俺は、記録を、めくった。

「揺れている。聖剣に、拒まれ、魔王に、問われて。──『何と、戦っているのか』と、自分に、問い始めた」

「……」

「その問いが、深まれば。──あいつは、いつか、自分で、選ぶ」

俺は、フィオナを、見た。

「その時、王国の、最強の駒が、盤面から、外れる」


フィオナは、しばらく、俺を、見ていた。

そして、静かに、言った。

「……あなた、ソラさんに、賭けるんですか」

「賭けじゃない」

俺は、答えた。

「賭けは、運任せだ。──俺は、確率を、上げる」

「どうやって」

「あいつが、自分の目で、真実を、見るように、仕向ける」

俺は、地図を、指した。

北西。魔族領。

「魔王領への、侵攻。──それは、王国にとって、俺たちを、始末する、機会だ。だが、同時に」

俺は、静かに、言った。

「ソラが、真実を、見る、機会でもある」

フィオナの、目が、見開かれた。

「……魔族を、見せる、と?」

「ああ」

俺は、頷いた。

「王国は、『魔族は、悪だ』と、教えてきた。だが、あいつは、まだ、魔族を、見たことがない。──魔王以外は」

俺は、続けた。

「もし、魔族が、ただの、民だったら。角が、生えているだけの、普通の、人間だったら」

俺は、目を、細めた。

「あいつは、それを、見て、どうする」


フィオナは、しばらく、黙っていた。

そして、掠れた声で、言った。

「……危険な、賭けです」

「ああ」

「もし、ソラさんが、それを、見ても、何も、変わらなかったら。──『魔族は、悪だ』と、信じたまま、剣を、振るったら」

「その時は、詰みだ」

俺は、即答した。

「俺たちは、殺される。ソラの、剣か、王国の、手で」

「……」

「だが」

俺は、フィオナを、見た。

「他に、道が、ない」

その、時。

執務室の、扉が、乱暴に、叩かれた。

「──レイジ! いるか!」

ガルドの、声だった。

「どうした」

「王都から、早馬だ」

扉が、開いた。

ガルドの、顔が、蒼白だった。

「……勅命書だ」

彼は、封蝋の押された、書状を、差し出した。

王家の、紋章。

俺は、それを、受け取った。

そして、封を、切った。


『勅命』

『盤上の灯 代表ガルド、ならびに所属一同へ』

『勇者ソラの報告により、聖剣の回収が、完了したことを、確認した』

『よって、王国は、魔族討伐の、最終段階に、入る』

『貴クランは、精霊の地における、唯一の、経験を、有する。よって、勇者ソラの、魔族領侵攻に、随行し、道案内および、支援を、行うこと』

『出立は、勅命書到着より、十日後とする』

『なお、本件は、王国の、命運を、賭けた、聖戦である』

『随行を、拒む場合。──王命への、反逆と、みなす』


執務室が、静まり返った。

ガルドが、掠れた声で、言った。

「……レイジ」

「ああ」

「読んだか」

「読んだ」

俺は、書状を、机に、置いた。

「予想通りだ。──十日後、魔族領へ、侵攻する」

「拒めるのか」

「拒めば、反逆者だ」

俺は、答えた。

「盤上の灯は、解散。俺たちは、全員、お尋ね者になる。──百人が、路頭に迷う」

ガルドは、拳を、握りしめた。

「……行けば、どうなる」

「魔族領で、激戦になる」

俺は、静かに、言った。

「そして、王国は、混乱に、乗じて、俺たちを、始末する。──『魔王に殺された』という形で」

「……くそっ!」

ガルドが、壁を、殴った。

「どっちに、転んでも、詰みじゃねえか!」


「……いや」

俺は、書状を、もう一度、見た。

そして、ある一点に、目が、止まった。

『勇者ソラの、魔族領侵攻に、随行し』

「……随行、か」

「あ?」

「ガルドさん。この、書き方だ」

俺は、その一行を、指した。

「『侵攻し』じゃない。『随行し、道案内および、支援を、行うこと』──俺たちは、主力じゃない。あくまで、ソラの、随行だ」

「……それが、どうした」

「主力は、ソラだ」

俺は、静かに、言った。

「王国の、切り札。聖剣を、持った、勇者。──あいつが、この侵攻の、中心にいる」

俺は、書状を、握った。

「なら、盤面の、中心も、あいつだ」


ガルドが、俺を、見た。

「……お前、何を、考えてる」

「ソラを、変える」

俺は、答えた。

「この、侵攻の、途中で」

「変えるって、どうやって」

「真実を、見せる」

俺は、地図を、指した。

「魔族領には、村がある。人が、住んでいる。──角の、生えた、ただの、民が」

俺は、続けた。

「王国は、あいつに、『魔族は、悪だ』と、教えてきた。だが、あいつは、まだ、それを、自分の目で、確かめていない」

俺は、静かに、言った。

「見せれば、いい。──あいつの、目に」

ガルドの、顔が、こわばった。

「……お前、それ」

「危険だ。分かってる」

俺は、頷いた。

「だが、他に、道が、ない。──俺たちが、生き残るには、あいつを、王国から、外すしか、ない」


その夜。

広間に、幹部が、集まった。

ガルド。セシリア。ニック。フィオナ。バッセさん。そして、ケイル。

俺は、勅命書を、机に、置いた。

「十日後、魔族領へ、侵攻する。──王命だ。拒めない」

全員が、黙り込んだ。

「……で、レイジ」

ニックが、掠れた声で、聞いた。

「勝ち目は、あるのか」

「魔王には、勝てない」

俺は、即答した。

「あいつは、ソラより、強い。まともに、やり合えば、全滅だ」

「じゃあ、なんで──」

「勝つ必要は、ない」

俺は、静かに、言った。

「今回の、目的は、魔王討伐じゃない。──全員、生きて、帰ることだ」

広間が、静まり返った。

「そして、もう一つ」

俺は、続けた。

「ソラを、王国から、外す。──それが、俺たちが、この先、生き残るための、唯一の道だ」

「……レイジ」

バッセさんが、静かに、口を、開いた。

「一つ、聞いてもええかの」

「はい」

「お前さん。──魔族の、村を、見せる、と、言うたな」

「ええ」

老斥候は、丸眼鏡の、奥で、目を、細めた。

その顔が、なぜか、青ざめていた。

「……その村に、何が、あると、思うとる」

「分かりません」

俺は、正直に、答えた。

「ですが、魔王は、言いました。『四十五年、俺たちの土地に、村に、お前たちは来た』と。──なら、村は、ある」

「……そうか」

バッセさんは、深く、息を、吐いた。

そして、しばらく、黙り込んだ。

「バッセさん?」

「……いや」

彼は、首を、振った。

「なんでも、ないわい」

だが、その手が。

わずかに、震えているのを。

俺は、見た。


会議が、終わって。

俺は、バッセさんを、呼び止めた。

「バッセさん」

「……なんじゃ」

「何か、知っていますね」

老斥候の、動きが、止まった。

「……何を、じゃ」

「魔族の、村について」

俺は、静かに、言った。

「さっき、あなたの、顔色が、変わった。それに、手が、震えていた。──四十五年、という数字を、聞いた時に」

バッセさんは、答えなかった。

長い、沈黙が、あった。

そして、彼は、掠れた声で、言った。

「……レイジ」

「はい」

「お前さんは、まだ、若い」

その声は、深い、疲れを、帯びていた。

「支部長を、失脚させた。伯爵家の、依頼を、達成した。百人の、クランを、作った。──それだけでも、十分すぎるほど、背負っとる」

彼は、俺を、見た。

「これ以上は、いかん」

「……何が、です」

「事が、大きすぎる」

バッセさんは、静かに、言った。

「わしが、抱えとるものは。──お前さんが、背負うには、あまりに、重い」

そして、彼は、背を、向けた。

「わしは、資料室に、おる。──何かあれば、呼べ」

その、背中は。

四十年、記録の中に、腐っていた男の、背中だった。


俺は、その背中を、見送った。

そして、思った。

──何かを、隠している。

だが、今は、追わない。

あの人が、話す気になるまで。

俺には、他に、やることが、ある。

十日後。

魔族領へ。

盤面は、動き始めていた。

そして、その盤面の、中心には──まだ、何も、選んでいない、少年が、いる。

「……ソラ」

俺は、窓の外を、見た。

王都の、方角。


「お前が、自分で、選ぶ日は。──もう、すぐだ」

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