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『最弱の戦略家は復讐しない 〜俺を騙したパーティーを俺のクランで雇い直す。ざまぁより、そっちが"勝ち筋"だったので〜』  作者: めざし
紅の盾攻略編

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第13話 飛竜二つと盤上の最弱

討伐の朝は、よく晴れていた。

ワイバーンの縄張りは、ハルベルの北西、切り立った岩山の連なる一帯だった。上昇気流が生まれやすく、飛竜が好んで巣を作る地形。俺が三日かけて調べ上げた、あらゆる情報が頭の中にある。


「作戦を、最終確認します」


岩陰に身を寄せた四人に、俺は地面へ描いた図を示した。

この五ヶ月、俺の役割は先行索敵だった。

だが今日だけは、ガルドが指揮を俺に一部委ねている。理由は単純で、ワイバーンの資料を読み込んだのが俺だけだからだ。背に腹は代えられない、というやつだろう。


「ワイバーンは空にいる限り、俺たちの誰も届きません。狙うのは、旋回の内側。急旋回の瞬間、片翼が失速して、動きが一瞬止まる。そこに、フィオナさんの氷嵐槍を通します」

「一瞬、というのは」フィオナが問う。

「二を数えるほどです。詠唱を、俺の合図に合わせてください。合図は──」

俺は、腰の軍鼓の短剣に触れた。

「この短剣を、岩に打ちつけます。硬質な音が響く。その音で、詠唱の最終節に入ってください。俺が旋回を読んで、氷が完成する瞬間に、飛竜が失速点に来るよう誘導します」

「囮は、誰がやる」ガルドが聞いた。

分かりきったことを聞く、と思った。

「俺です」

ワイバーンを地上付近まで誘い込み、旋回させる。それができるのは、開けた場所で動き回れる俺しかいない。そして、それが最も死に近い役割であることも、全員が分かっていた。

「セシリアさん。祝福を」

「……はい」

セシリアが聖印を握る。柔らかな光が、四人を包んだ。

俺は、その光を浴びながら、誰にも聞こえない声で自分のギフトを重ねた。そして──腕輪も、ミサンガも、短剣も、既に発動している。祝福の上に、俺だけの積み重ねが、静かに乗っていく。

視界は鮮明。音は明瞭。足は軽い。

盤面の駒は、すべて揃った。

「──行きます」

俺は、岩山の開けた斜面へと、走り出した。


ワイバーンは、思ったより早く姿を見せた。

岩山の頂から、巨大な影が滑空してくる。翼開長、十歩。資料の通りだ。獲物──つまり俺──を認めて、旋回しながら高度を下げてくる。


「【自己強化】、維持」


俺は斜面を駆けながら、飛竜の影の動きを読む。

風向き、上昇気流の筋、飛竜の旋回の癖。三日間、頭の中で何百回とやったシミュレーションが、現実の空と重なっていく。

ワイバーンが、最初の急降下に入った。鉤爪が、俺の背を狙う。

躱す。半歩の余裕。祝福と重ねがけで底上げされた身体が、飛竜の初撃を、紙一重で逃す。


「──浅い!」


俺は斜面を折れて、飛竜を旋回に誘い込む。奴が俺を追って、大きく弧を描く。その弧の内側が、失速点だ。

来る。旋回。片翼の失速。

俺は短剣を、岩に打ちつけた。

かん、と硬質な音が、岩山にこだました。

背後で、フィオナの詠唱が最終節に入る。


「『氷嵐槍』!!」


空気が、凍りついた。

旋回の内側、失速したワイバーンの翼へ、氷の槍衾が突き刺さる。飛竜の右翼が、根本から凍りつき、砕けた。

咆哮。

バランスを失った巨体が、錐揉みしながら斜面に叩きつけられる。

「今だ!! 地上に落ちたぞ!!」

ガルドの大盾が、起き上がろうとする飛竜の頭を殴りつける。ニックの短剣が、翼の付け根の腱を裂く。フィオナの二射目が、飛竜の脚を凍らせる。

──決まった。

俺は、斜面の上から、その光景を見ていた。

完璧だった。三日間の計算が、寸分の狂いもなく現実になった。飛竜は地に落ち、パーティーは連携し、あとは仕留めるだけ。

勝った。そう、思った。

その時だった。

耳飾りが、風の異変を捉えた。

北の空。上昇気流の筋に乗って、もう一つの影。

狼のミサンガが、その羽音を拾う。

そして梟の腕輪で強化された視界が、それを、はっきりと捉えてしまった。

二体目。

繁殖期の、(つがい)

「──っ、来る!! 北から、二体目!!」

俺の叫びに、全員が空を仰いだ。

パートナーを傷つけられた飛竜が、憤怒の咆哮を上げて、急降下してくる。

七分の一を、引いた。


一体目とは、明らかに違った。

二体目は、傷ついた番を守るように、パーティーの中心へ突っ込んでくる。狙いは、地上の飛竜に止めを刺そうとしている、ガルドとニック。

「散れ!!」

ガルドが叫んで、大盾を掲げる。

二体目の風の刃が、ガルドの盾を直撃した。金属の焼ける音。ガルドの巨体が、後方へ吹き飛ばされる。

「ガルドさん!!」

「くそっ、盾がやられた……! フィオナ、こいつも氷で──」

「詠唱が、間に合いません!」

フィオナの声に、初めて焦りが滲んだ。

「氷嵐槍は詠唱が長い! 二体目が近すぎて、完成する前に潰されます!」

盤面が、崩れていく。

俺は、斜面の上で、恐ろしい速度で状況を再計算していた。

一体目は地上で瀕死。だが完全には死んでいない。二体目は健在で、しかも激昂している。ガルドの盾は破損。フィオナは長詠唱を潰される位置。ニックは二体の飛竜に挟まれ、動けない。セシリアは──後方で、祝福を掛け直そうとしている。

そして、時間。

俺は、頭の中で走らせ続けていた六つの砂時計を確認した。

祝福の残り時間。あと、四半刻。

それを過ぎれば、全員の身体から底上げが消える。ガルドの膂力も、ニックの敏捷も、フィオナの耐久も、すべてが素に戻る。二体のワイバーンを相手に、素の身体で。


詰みだ。


このまま長引けば、確実に、詰む。

「レイジ!!」

ガルドが、破損した盾を捨てて立ち上がりながら、俺を見上げた。

その目に、俺は、見覚えのある光を見た。

五ヶ月前、猟具屋の親父が言っていた。ガルドは、危険な役割を臨時に回すのだと。そして今、この最悪の盤面で、ガルドの頭が弾き出す最も合理的な一手は──決まっている。


「レイジ! お前が、二体目を引きつけろ!!」


来た。

「囮になれ! 一体目を仕留める時間を作る! お前が二体目を引きつけてる間に、俺たちで──」

それは、殿(しんがり)の命令だった。

そして今回のそれは、いつもの囮とは、意味が違う。

二体目は健在で、激昂している。その飛竜を、たった一人で、開けた場所で引きつけ続ける。躱し続ける。地上の飛竜が仕留められるまで。

祝福が切れるまで、あと四半刻。

切れれば、俺の底上げも消える。素のステータス、この世界の最低値。飛竜の風の刃を、躱せる道理がない。


つまり、これは。

はっきりと、死ね、という意味の采配だった。

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