表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/9

第4話 灯屋の仕事

「これは……?」


 金属製道具の線が単なる模様でなく、何かの文字に見えた。

 気づいた時には、口にしていた。

 二人は俺のほうに振り返る。


「どうかしたの?」


 エリゼが、俺が何かに気づいたと思ったのか、問いかけてきた。


「いえ……文字が」


「文字? あなた、この文字も読めるの?」


 エリゼが、少し驚いたような、呆れたような声を出す。


「はい。でも書いてることは製作者とか製作日、製品名とかですね」


 製作日については俺の知っている暦に置き換わるわけではない。

 けれど、そこに刻まれている意味だけは、自然と頭に入ってくる。


「……そう」


 エリゼは短く答えた。

 何か思うところがあったのだろうか。

 ほんの少しだけ、その表情が曇ったように見えた。


「続きをしましょうか」


「ええ、そうですね」


 エリゼとクラリスは、再び作業に戻る。


 金属製の道具についても、先ほど同様にエリゼが魔法を掛けていった。


「これで最後でしたよね」


「はい。ありがとうございます」


 作業が終わり、再び商談室へと戻る。


「いつも、ありがとうございます」


 クラリスは、丁寧な仕草で頭を下げた。


「こちらこそ。こうして定期的に持ってきてもらえると、助かります」


 エリゼが穏やかに答える。


「ソウイチロウさんも、ありがとうございました」


 クラリスはそういって笑った。


「では、代金はいつも通りで」


「確認しました」


 以前、リュシアが連絡に使っていた板のような道具を二人が重ね合わせると小さく光った。

 電子決済のようなものだろうか。

 

 クラリスがちらりと俺を見る。


「不思議な方ですね」


「俺ですか?」


「はい。古い文字を読める方は、それだけでも珍しいですから」


 そう言われても、いまいち俺には実感がない。

 読めるというよりは、読めてしまう。


 俺自身の知識で読めるわけではないから、褒められても少し落ち着かなかった。


「彼は少し特殊なの」


 エリゼが、静かにそう言った。

 

 その声はいつも通り穏やかだったが、どこか会話をそこで切るような響きがあった。

 クラリスはそれを察したのか、それ以上は踏み込んでは来なかった。


「では、私はこれで失礼します」


「また、何かあればよろしくお願いします」


「はい。本日もありがとうございました」


 クラリスはもう一度頭を下げ、書類をまとめ商談室を出ていった。


 扉が閉まる。

 その音が消えた後、部屋の中に少し沈黙が残った。


「帰る前にひとつ聞いてもいいかしら」


「はい」


 エリゼが俺のほうを見る。

 その表情は、クラリスに向けていた表情とは少し違った。


「さっきの文字は、読もうとして読んだように見えなかったけど……」


「はい。模様かなと思ってみていたんですけど、見ていたら意味が頭の中に入ってきたというか、読めたというか」


 自分で言っていても、うまく説明できている気がしなかった。

 ただ、実際に起きたことはそれに近い。

 見た瞬間に、模様が、線が、意味が伝わってきた。


 いや、読めた。


「なるほどね」


 エリゼは、少し考えるように目を伏せる。

 何かを感じ取っているようにも見えた。


「なにか、まずいんですかね?」


「今すぐ、というほどの話ではないわ」


 エリゼはそう前置きしてから、少しだけ声を落とした。


「範囲が少し広すぎる」


「範囲……?」


「古い本に書かれた言葉。精霊にまつわる文字。まだ、そこまでは説明できるかもしれない。でも、道具に刻まれた工房の刻印のようなものまで読めるとなると、単なる言語に関する魔力性質とは違う気がするわ」


 魔力性質。


 そういわれても、いまだに実感がない。

 実は、夜寝る前にステータスとかいくつかそれらしい言葉をためしたが、それらしいものは出てくることはなかった。


「それに、あなたからはあまり魔力を感じないもの。確かに言語系補助の魔力性質の人は魔法という魔法をほとんど使わないらしいけど。魔力消費がないわけじゃない」


 エリゼは責めるような声ではなかった。

 どちらかというと、心配をしているような声色だった。


「あなたのような常に発動している性質の人も中にはいるでしょうね。あなたの場合は、そもそもの魔力が少ない」


「魔力が少ないのに、ずっと発動しているかもしれないってことですか」


「ええ。だから、少し気になるの」


 エリゼは静かに目を伏せた。


「リュシアが帰ったら、一度話しましょう」


「リュシアにですか?」


「ええ。あの子にも聞いておきたいことがある。それに……もう少し詳しく調べたほうがいいかもしれない」


「調べるって俺をですか?」


「そう」


 エリゼは、申し訳なさそうに微笑んだ。


「怖がらせたいわけじゃないの。ただ、あなた自身が知らないままでいるには、少し危うい気がするの」


 俺はすぐには返事をしなかった。

 読める。

 ただ、それだけのことだと思っていた。


 だが、エリゼの表情を見ていると、それだけで済む話ではなさそうな気がした。


「わかりました」


 そう答えると、エリゼは小さく頷いた。


「ありがとう。リュシアが帰ったら、三人で話しましょう」


「はい」


「ああ、それと、費用は私が持つからそこは、安心していいわ」


 エリゼは再び、にこりとほほ笑んだ。


「さてと、そろそろ帰りましょうか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ