第12話 聞き取り調査
魔導四輪と呼ばれる車のような乗り物で夜の王都を数分ほど走り、警備隊の詰所へ到着した。
「ありがとうございます」
俺は運転してくれた警備隊員に礼を言い、詰所の中へ入った。
中では、先に到着していた二人が待っていた。
「怪我は悪化していないでしょうね」
詰所へ入るなり、エリゼが鋭い視線を向けてくる。
「大丈夫ですよ。それより、今の状況はどうなっているんですか?」
詰所の奥では、《灯屋》へ逃げ込んできた女性が、隊長らしき警備隊員から話を聞かれていた。
事情聴取の最中らしい。
「ついさっき始まったところよ。と言っても、彼女はほとんど何も知らないみたいだけどね。たまたま見つかって、追いかけられた。それくらいしか分からないそうよ」
エリゼは俺の脇腹へ視線を落とし、小さくため息をついた。
「あなたの方が、知っていることは多いかもしれないわね」
そう言って、エリゼは一度窓の外へ目を向けた。
それから、警備隊に拘束され、今は大人しくしている異形へ視線を移す。
その異形を、リュシアがじっと見つめていた。
「あの子が間に合って、本当に良かった。ほら、あなたも知っていることを話せるよう、少し整理しておきなさい」
促されるまま、エリゼが引いてくれた椅子に腰を下ろした。
「副隊長さんよ」
エリゼの声に振り向くと、警備隊員のひとりがこちらへ近づいてきていた。
俺が立ち上がろうとすると、彼は片手を上げて制した。
「座ったままで構いません。ひどい怪我ですからね。無事と言うには少し語弊がありますが、生きて戻られて何よりです。いくつか質問に答えていただけると、捜査の助けになります」
副隊長は人当たりの良さそうな笑みを浮かべ、俺の前まで歩いてきた。
「まず、アレについて何かご存じですか?」
「いえ。ただ、器というものを探しているようでした。あるいは、すでに見つけていたのかもしれません」
「見つけていた?」
「見つけてはいるものの、具体的な場所までは把握できていない。そんなふうにも感じました」
「なるほど」
副隊長は俺の答えを紙へ書き留めていく。
「失礼ですが、それはアレが実際に口にした、という認識でよろしいですか?」
副隊長はペン先を異形へ向け、確認する。
「はい。『うつわ』『みつけた』という言葉を発していました。ただ、見つけたと言うわりには、行動に一貫性がありませんでした。詳しい位置までは分かっていなかった可能性もあると思います」
「なるほど、なるほど」
副隊長は小さくうなずきながら、続けて書き留めていく。
「ほかに、何か言葉を発してはいませんでしたか?」
「俺が聞き取れたのは、その二つだけです」
「分かりました。今日の聞き取りは、この辺りにしておきましょう。怪我もされていますし、早く戻って休まれた方がいい。ご協力ありがとうございました」
副隊長は深々と頭を下げた。
「いえ。ほかにも協力できることがあれば、可能な範囲でお手伝いします」
俺も椅子に座ったまま頭を下げた。
「エリゼさん?」
聞き取りが終わったことを伝えようと、近くにいたエリゼへ声をかけた。
彼女はリュシアのそばにいた。
異形から目を離さないリュシアとは対照的に、エリゼは窓の外を見つめている。
返事はなかった。
もう一度呼びかけようか迷いながら、その横顔を見つめる。
やがてエリゼの瞳がわずかに動き、こちらへ向けられた。
「終わったの?」
一拍遅れて、いつもの落ち着いた声が返ってきた。
「はい。今日の聞き取りは、これで終わりだそうです」
「そう。なら、ここに座っていなさい」
エリゼは自分の近くにあった椅子を引き、座面を軽く叩いた。
促されるまま、彼女のそばの椅子に腰を下ろす。
「今、隊長さんと話している彼女の聞き取りが終わったら、帰りましょうか」
「分かりました」
近くにいるリュシアへ目を向けた。
彼女は先ほどからずっと、拘束された異形を見つめ続けている。
何か気になることでもあるのだろうか。
「何か気になるところでもあるのか?」
声をかけると、リュシアは異形から目を離すことなく答えた。
「……はい。何となく、目を離しちゃいけない気がして」
「目を離してはいけない……?」
「はい。それに、エリゼさんからも目を離さないように言われていますので」
リュシアの返事を聞き、目線だけをエリゼへ向けた。
彼女は俺たちの会話を聞いていたのか、窓の外を見つめたまま口を開いた。
「リュシア。そのまま、しばらくお願い」
「分かりました」
リュシアは短く答え、改めて異形を見据えた。
二人とも、何か気になることがあるのだろうか。
正直なところ、俺には人の形をした何かにしか見えない。
怪我を負わされたとはいえ、あの異様な肉体も、単純に俺たちとは構造が違うのだろうとしか思えなかった。
エリゼは会話を終えると、再び窓の外へ意識を戻した。
俺も隊長たちの方へ視線を向ける。
どうやら、あちらの聞き取りも終わりが近いらしい。
俺とは違い、女性は何時ごろ、どこで何をしていたのか、一つずつ順を追って確認されていた。
副隊長は、俺を運んでくれた警備隊員と何かを話している。
詰所の中は、ひどく静かだった。
小声で交わされる情報共有と、紙の上を走るペンの音。
それ以外には、ほとんど何も聞こえない。
だからこそ、その音は妙にはっきりと耳に届いた。
ぺた。
ぺた。




