運が解決してくれた危機
ユウとわかれて、家に帰る途中、俺は急に意識が遠くなり、倒れる。
そこまでは感覚があった。
しばらくして、起きると、そこは、窓とドアのない工房だった。
机とベッドがあり、台所にトイレとシャワー室まである。
手足には長い鎖がつけられ、インゴットが積み上げられていた。
机の上には、手紙が置かれていた。
その手紙には、家族の命が惜しければ、武器を作れ。
そう書いてあった。
最近、ユウと楽しく暮らせていたから気が緩んでいたのかもしれない。
どこかに、監視するものもあるのだろうか?
人権無視も甚だしい環境に、落ち込みつつ、インゴットを眺める。
魔銀、ミスリル、マナメタル、隕鉄。
それぞれ20ずつ。
それに、モンスターの素材系もたくさんある。
家族の命か。
仕方ない。
とりあえず、何か作ろう。
鍛冶は、不思議なもので、作る方向性が決まらないとぐちゃぐちゃになる。
普通は、何を作るとか、誰に作るかとか、作る目的とかそういうのが必要になってくるのだ。
そして、俺がやけくそで、作ったのが、とりあえず、隕鉄と強そうな爪で作った西洋槍。
完成品は、どういう原理か、すぐに消えてしまった。
『鍛冶LV126→LV157に上がりました。』
『何かのスキルか魔法で作った空間に閉じ込められているみたいですね。』
スキルや魔法でここまで、出来るのか?
『憶測でしかないです。残念ながら、私たちにこれを理解出来る知識はありません。』
この中で、異空間牧場に逃げ込んだりしたらどうなる?
『わかりませんよ。それを予測出来る知識はありません。ですが、やばいと思ったらそれでいったん逃げましょう。』
あ、異空間牧場で思い出したけど、トレントたちにオーブあげないと干上がっちゃうかも。
『それはそうですね。オーブがないと、すねそうです。』
ネオン広がる街の地下、魔道具工場の最奥の部屋。
真っ白い小箱が、規則的にずらりと並ぶ部屋。
スーツ姿の男は、そんな部屋の中をゆっくりと歩き、箱の中で武器や、道具が出来ているのを確認して、自身の異空間へと収納していく。
「私も一生ここで暮らすんでしょうかね…。」
つぶやきに答える者はいない。
「さて、新入り君の作品を見てみましょうか。」
男は、今日届いた男子学生くらいの少年が作った隕鉄の西洋槍の性能を確認する。
「これって…。」
隕鉄槍
ランクE+
能力:全能力完全回復 1/1
「…なんでこんなものができてしまうんだ?」
疑問に包まれるスーツ男は、その疑問をすぐにしまい込む。
そして、出来たばかりの隕鉄槍を装備して、使った。
スーツ男の体に以前の生命力、体力、魔力、精神力が戻る。
単純な力で、自身を蝕んでいた滅び属性が付与された首輪を破壊する。
隷属契約魔法を膨大な魔力で破る。
最後に、自身の魂と肉体に刻まれた呪いを解呪スキルでまとめて、消し去る。
男を縛り付けるものはもう何もない。
男は、久方ぶりの自由に動く体に歓喜し、そして、自分に自由を与えるきっかけを作った少年の元に向かう。
別に少年は置いていっても良かった。
ただ、やることもないし、ついでに、礼の1つでもしておこうと思ったのはこの男の単なる気まぐれと言えよう。
かくして、俺の運命は、一生監禁されて武器を作ることになるところからギリギリで逃げることができたのだ。




