98.続く探索
新たち四人と、栽培師の穂を合わせた五人組は、時間切れで魔巌洞を出たすぐにもう一度、入り直すことにした。
制限時間は同じく最短の三十分。もしもあんな妖獣のラッシュが一時間も続いたら、生き残れる気がしない。
「この制限時間が面倒なのよね」
「脱出アイテム、あの値段じゃちょっと手が出ません」
制限時間前に強制的に魔巌洞から脱出できるアイテム。
保険に持ってると助かるとは思う。でも簡単に買えるような値段じゃないのだ。
「あのアイテムって使い捨てですし、使える時と使えない時があるみたいですよ? だからあまり役に立たないって聞きました」
「えええ? 本当なの?」
穂によれば、特別講習のときのような探求領域では使えないとか、敵が周囲にいる時には使えないとか、色々制限がきついらしい。それだけじゃなく、使えない時に間違って使ってしまうと、効果がない上に消えてしまうらしい。
「それじゃあ、あんまり意味は無いのね」
「敵がいないなら、時間まで待ってたらいいだけだもんね!」
大怪我した時のために、魔法の薬を保険に持っておく。そっちの方がいいかもしれない。
「魔法の薬は魔法の薬で、たしか使用期限があるって話よね?」
「それは私も聞いたことがあります。買ったことはないので詳しくは分かりませんが」
脱出アイテムにしても魔法の薬にしても、あくまで緊急時の保険だ。そりゃお金なんて命に代えられるものじゃないけど、現実に買えないんだからしょうがない。
その上、定期的に買い直しになるなら、お守り用に無理してでも一個買っておく、みたいなこともできそうにない。
再突入した魔巌洞の中は、もちろん真っ暗のまま何も変わっていなかった。
当然その印象も変わってない。直径五メートルはありそうな超巨大ミミズが掘った穴、そのままだ。退出の時にスプレーで付けておいた印もそのまま。
「何も変わってないように見えるね」
「うん、特に変な所は見つからないよ!」
新の意見に都久詩たちも賛成の模様。
ただ穂だけが何の話か理解できないらしく、ポカンとした表情を浮かべている。
「あの……皆さん、何の話を……」
「魔巌洞ってループとか幻覚とか、いやらしい罠を仕込んでくるのよ。だから変な所がないかを確かめてるってわけ」
魔巌洞が罠を仕掛けてくる、その言葉だけだと通じていないらしい。今まで経験したことを簡単に説明して、どういう罠があるのかを共有しておく。
「なんだか魔巌洞が生きているみたいな話ですね」
「本当にそうなのかもなぁ」
新たちだって魔巌洞が本当に生きていて、騙そうと手ぐすね引いて待っているなんて考えていない。ただそのぐらい根性が悪いと思っているだけだ。
周囲の鑑定をしながら、入り口の方向に向かって進む。脇道があるかどうか、それが鍵だ。
「見つからないよ……」
「困ったわね」
「そんなことより、前から敵が来るよ!」
都久詩の声に合わせて、新も一緒に前に出る。今回の敵は妖獣ワニー三匹だ。
接敵と同時に巨大棍棒を思いっきり振り下ろす。妖獣も同じことを考えていたのか、それと同時に大きく跳び上がって頭の上から躍りかかって来た。新の棍棒の一振りが途中で妖獣の巨体に止められる。
妖獣ワニー。こいつは地べたをはいずり回るだけじゃなくて、走るのも速いし、ジャンプだって得意なのだ。
一対一なら危険な状況。でもこの状況は、先ほどの乱戦で何度も体験したやつ。最初は驚いたけれど、もう飛び掛かられたぐらいで驚きはしない。
妖獣ワニーのがら空きになった腹部に、後ろから木綿花の槍が襲い掛かる。
ワニーのうろこは堅く分厚い。特に背中側はまるで甲羅のような硬さを誇っている。だけどお腹はそれほどじゃない。硬いのは硬いけれど、木綿花の槍で楽々突破できる程度の硬度しかないのだ。
都久詩はどんな感じか、と彼女の方に振り向くと、すでに一匹目を切り倒して、二匹目に手を付けたところだった。
「跳んでくれたら楽なのにっ!」
彼女はしっかりと腰を落として、刀を横に構えている。そうして妖獣ワニーが前に出てきた時、その鼻っ面に横薙ぎを叩きこむ戦法だ。
グワッ!
ワニーが大口を開けて一気に前に出る。速いっ!
都久詩はその速度に負けずにしっかりと刀を振るい、そのまま体を左に逃がす。態勢は崩れているけれど、後退が苦手な妖獣ワニーにはそれを追撃する手立てがない。彼女は返す刀ですくい上げるように妖獣の首筋を切り裂く。
「上手いわね」
音羽が感心したように後ろから声をかけてくるが、新も同感だ。まるで危なげがないというか、流れに逆らわないというか、最初からそうなることが決まっているような動き。
倒した妖獣を魔法の鎧袋に仕舞い込むと、一行は入り口に向かって移動を開始した。どこかに分かれ道や隠し扉があるかもしれない。それを聖者の瞳で探しながら、元来た道を引き返すのだ。
「特に変な所は見当たらないよ」
「天井とか地面とかにも気を配ってくださいね?」
「そうだね、もちろんだ」
魔巌洞では、天井からゴブリンが降ってきたこともある。ここでは上下左右、どの方向も一切安心できないのだ。




