96.いきなり乱戦
もう一度、気合を入れなおして魔巌洞の入場門から第四階層へと侵入する。
入った途端、周囲の空気が大きく動いた。
「目の前に妖獣がいるっ!」
新はしっかりと目標を定める前に、巨大棍棒を思いっきり振り下ろす。手ごたえアリ、でも仕留めた感触はない。
目の前にはまるでツバメのヒナのように、大口を開けて飛び掛かってくるワニ型の妖獣の群れ。それがまるで低い壁のように積み重なっていた。
いちいち狙いを定めているような時間の余裕がない。こうなったらただガムシャラに、手当たり次第に巨大棍棒でぶん殴り続けるだけだ。
すぐ左横でギラギラ輝く刃物が踊り狂っている。もちろんその正体は都久詩だ。彼女もしっかり狙いを定めている様子はない。目の前の妖獣の肉を切り飛ばす、そのために刀をまるで風車のように振り回している。
新の体を妖獣ワニーの巨大な爪が掠める。それだけじゃない、何匹かのアゴが完全に食らいついてきた。
「うぐっ!」
ここで引き倒されたら間違いなく終わり。しっかりと腰を落としながら、自分の体に齧りついている妖獣の頭に、巨大棍棒を叩きつける。
心の声さん……の声は聞こえない。ならばこのまま暴れ回るのみ!
もちろんのことだけど、自分の体にも棍棒ダメージがズシンズシン伝わってくる。完全な自爆攻撃だ。たぶんだけど、都久詩の刀もチョコチョコ当たってるような気がしないでもない。
転送直後で仲間同士が犇めきあっている状態だから、お互いの距離がうまく取れない、厳しい。
でもそれは妖獣にとっても同じこと。新に噛みついた妖獣ワニーがデス・ロールしようとしているけれど、他のワニーが邪魔になって上手くいかない模様。
本当に大丈夫なの? 噛みつかれてめちゃくちゃ痛いんだけど。
音羽が右から回り込みたそうにしているのが、なんとなく伝わってくる。だけど同士討ちを恐れてか、踏み込めないでいる感じ。代わりに木綿花が遠間から槍でチクチク突っついているっぽい。
周囲を見渡す余裕がないので、本当の所は分からない。ただ槍の穂先にヘッドランプの明かりが当たって、それがキラキラきらめいているのが視界の端にチラチラしているだけだ。
半ばヤケクソになって棍棒を振り回しているうちに、気づいたら敵の数が減っていた。倒したのもいれば、逃げていったのもいるっぽい。ただしっかり数えていたわけではないしハッキリ言いきれない。
敵が減ったといっても全滅させたわけじゃない。敵が多すぎて狭苦しかったのが動きやすくなった感じ。その分だけ噛みつかれる回数が増えた気がする。でもあまりハッキリとはしない。少し頭がぼーっとしてきたかもしれない。
「あと六匹です!」
この声は穂か。足回りの自由が利くようになってきたのは、倒すそばから彼女が魔法の鎧袋で回収してくれているおかげだ。ここまで減ると敵の様子を観察する余裕も出てくる。
それと同時に戦い方も体に刻まれていく。妖獣ワニーは突進力は強いけれど、左右に避ければ躱しやすい。それに後ろに飛び退るのは苦手。つまり突進を避けることができれば、こちらの攻撃はまず間違いなく当たるというわけ。
ただし周囲が片付いたおかげで、敵も同じように体に自由が利くようになっている。それだけ突進に鋭さが増していて、避けるのが難しくなっているのだ。
一匹の突進を右に躱して、体をひねりながら妖獣の頭に気合を込めて棍棒を振り下ろす。
ガシュッ!
かなり良い手ごたえが両手に伝わってくる。
ガバッ!
それと同時に別の一匹の突進をまともに受けて、脇腹に食いつかれてしまった。新の体を食いちぎろうと、妖獣ワニーは噛みついたまま体を回転させる。その強烈な圧力に、たまらず新は前のめりになって片膝をついてしまった。
これはヤバいっ!
敵は真横、棍棒で殴りつけても威力が乗らない。それだけじゃなく、新自身の体が邪魔をして、後方からの木綿花の槍の援護を受けられない。
食らいついた妖獣ワニーを都久詩が斬り捨ててくれるまでに、脇腹に大きな傷を負わされてしまった。全身鎧のお陰で致命傷にはなっていないものの、かなりの痛手だ。
あと三匹。
腰につけたポーチから万能包帯を取り出して体に当てる。ここまでくれば楽に戦える、かと思いきや、これまでの怪我の蓄積で足が思うように動かない。止まることを知らない敵の噛みつき攻撃に、どうしても押され気味になる。
敵の突撃で何度も危険な状態に陥りそうになる。それでも味方の助けを借りながら、一匹、そしてもう一匹と、妖獣の数を減らしていく。
なんとか最後の一匹を倒した時、新は疲労困憊のあまり倒れ込みそうになってしまった。
「ふう~……」
魔巌洞に入るなりいきなり戦闘、それもかなりの激戦だった。戦っている時は良く分からなかったけれど、脇腹なんかもう鎧が千切れかけている。これでよく生き残れたものだ。
「動き回るのはやめて、時間を待ちましょうか」
「賛成、連戦になると危ないわ」
魔巌洞から外に出さえすれば、怪我なんてたちどころに治ってしまう。言い換えれば、死ななきゃ何とでもなるということだ。
今の戦いで全員が一つレベルを上げている。というか栽培師の穂なんか、二つも上がってる。こうして生き残る事だけを考えて、チマチマでもなんでもいいので強くなっていけば、最終的にはこの階層も乗り越えることができる気がする。
でも行き止まりをどうするかっていう問題が残ってるんだよなぁ。
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若草新 中級見習い十八→十九
装備: 全身鎧、巨大棍棒、聖者の瞳
鳴神音羽 拳闘士十七→十八
装備: 簡易防具、頑丈な篭手、頑丈な脛当、棍棒、ビキニアーマー(黄)
坂江木綿花 巫子十八→十九
装備: 簡易防具、無骨な槍、ビキニアーマー(白)、炎の杖(魔力向上小、炎魔法連射)、魔法のドレス(魔力向上小、炎耐性中)
不知火都久詩 剣豪十八→十九
装備: 簡易防具、無骨な刀、ビキニアーマー(水色)
朝顔穂 栽培師十五→十七
装備: 簡易防具、大草刈りガマ、ビキニアーマー(緑)




