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底なしダンジョン学園にようこそ! なんて言われても困るんだけど(仮)  作者: 大沙かんな


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93.そのボスは栽培師

 翌日の日曜日には魑魅(ちみ)領域の第三階層に挑戦することにした。


 クラフター組も誘ってみたけれど、来てくれたのは栽培師の(みのり)だけ。他の三人にはお断りされてしまった。


 クラブの準備とか色々な手続きで忙しいらしい。というのは建前で、素材がいっぱい取れたので、何かを作るのに忙しいんだと思う。残念だけどまた次の機会だ。


 第三階層程度だとレベルも上がらないだろうし、別に無理して参加してもらうほどのものじゃないからね。


 しばらくぶりに真っ暗な坑道へと足を踏み入れる。やっぱりここの坑道はとても狭くて戦いにくい。それでもレベルが上がったことで面白いようにスルスル進んでいく。丁字路で挟まれるなんて、そんなことはもう起こらないのだ。


「ここで暗い場所の練習をしてたんだね」


 (みのり)がしみじみとそんな話をする。


「レベルが上がって戦い自体は楽になったけど、見通しが悪いのはどうしようもないよね」


「あら、そう? なんとなく感じ取れるようになった気がするけど」

「うん、敵の気配とか、ちょっと分かるよね!」


 (あらた)には感じられないけれど、音羽(おとは)都久詩(つくし)には、なんとなく敵の気配とか、この先の地形とかが感じ取れるそうだ。純粋戦闘職だとそういうスキルがあるのかもしれない。


 通路が狭いこの階層では一対一の戦いが起こりやすい。その上、ゴブリンの技量が高いので、レベルではなく戦い自体の技量や腕前を鍛えやすい気がする。


 つまりここでしっかり鍛えれば、自分より高いレベルの相手を手玉に取ることができるようになる……かもしれない。


 今は技量もくそもなく、ただパワーに任せてガリガリと進めているだけだ。なかなかね、そういう意識高い系の行動って取れるものじゃないよね。



 そうやって進めていると大きめの部屋のようなものに出くわした。中には少しだけ大きめのゴブリンが一匹。とんでもなく大きいわけではない。ただなんというか、ちょっと今まで見たことがないような武器を持っていた。


 それは薙刀(なぎなた)のような長柄の武器。槍のような長い棒の先に、刀のようなものがついた武器だ。


「あれってやっぱりボスでしょうか?」


――クワー 種族:ゴブリン 職業:栽培師


 おそらくだけど、その通り。鑑定したら名前があるし、職業だってある。


「あのゴブリン、栽培師らしい」

「強いのか弱いのか、どんな技を使ってくるのか、ちょっと不気味ですね」


 栽培師という言葉に(みのり)が反応した。


「それなら私が戦ってみたいです」


 その気持ちは分からなくもない。


「構わないけど、危なくなりそうなら介入するよ?」

「うん、ありがとう!」


 今はクラフター組も全員ビキニアーマー装備だから、よっぽどのことがない限り大丈夫だろう。


 でも魔巌洞(ダンジョン)には絶対はない。無理せず慎重にいったほうがいい。なにしろこの部屋の地面は、岩ではなく土なのだ。何を仕掛けてくるか分かったものじゃない。



(たがや)し! (うね)づくり!」


 先に仕掛けたのは(みのり)だ。まずはスキルで足元を乱して戦いにくくする作戦。


 しかし相手は、畑化して凸凹(でこぼこ)になった地面をヒョイヒョイと何事もないように進んでくる。そう、相手も栽培師、田んぼや畑の中を飛び回ることなど基本中の基本なのだ。


「ううう、忘れてた……」


 ちょっと大丈夫だろうか。思わず飛び出しそうになったところを木綿花(ゆうか)に止められた。


「大丈夫ですよ、もう少し見ていましょう」


 仕方なしに元の位置に戻る。


 (みのり)の武器は細長い棍棒、リーチはかなり長めだ。それに対するボスゴブリンは薙刀。背丈ならば(みのり)の方が上だけど、武器の長さはゴブリンが上、リーチの上ではどちらが上なのか分かりにくい。


 恐らくは刃がついている分だけゴブリンが遠間、棍棒の(みのり)が近間だと言えそうだ。つまりどこまで(みのり)が踏み込んで行けるか、それがこの勝負のカギになる。



 ゴブリンは薙刀をヒュンヒュンと振り回し、(みのり)の両足を狙ってくる。それを(みのり)は後ろに飛んで避ける。なかなか踏み込んでいく隙がなさそうだ。


「おかしいわね……」

音羽(おとは)、何がおかしいの?」


「ゴブリンのやつ、峰打ちを狙ってない?」


 刃がついてない方で攻撃してるって? 言われてみれば確かに、ゴブリンは薙刀の()った側というか、刃が(へこ)んでる側で攻撃しているように見える。


「違うよ。あれ、逆刃(さかば)だよ?」

「つまり普通だと峰になる方に刃がついているってことですか?」


「うん、ボクにはそう見えるかな」


 薙刀ってだけでも珍しいのに、その上に逆刃(さかば)とは。これはかなりやっかいな敵に違いない。



 後ろで見ている方はハラハラしていたけれど、戦っている(みのり)本人はそんなに緊張していなかった。というか、始まる前はかなり緊張していたんだけど、スキル誤爆のお陰で一気に緊張が解けてしまったのだ。


 この逆刃(さかば)の薙刀もどきも、実際に見るのも対戦するのも初めてだけど、知らない物ではなかった。だからどういう軌道を描くかも、おおよそ把握できていた。


 うん、そうなるよね。だからここでこう!


 薙刀が振られたのに合わせて大きく飛び込み、ゴブリンを棍棒でポカポカと叩く。こうなってしまってはゴブリンには何もできない。なんといってもレベル差がありすぎるのだ。


 こうして栽培師同士の戦いは、あっけなく(みのり)の勝利で幕を閉じた。



(みのり)、あんな変則武器が相手だったのに、やるじゃないの」


 かなりの難敵を軽く倒した(みのり)を、音羽(おとは)が手放しで褒める。


「変則? 確かに変則でしたね。まさかゴブリンが大草刈り(ガマ)を持ち出してくるとは思いませんでした」


 地面を見るとボスの体は既に消えていて、そこにはあの逆刃の薙刀とビー玉が落ちているだけだった。


(カマ)って? これ薙刀じゃ……」

「いいえ、これは(カマ)ですよ、大(ガマ)です」


 ヨーロッパでは大きな(カマ)を使うらしい。普通の(カマ)は直角に曲がっているんだけど、中には角度の浅いものもある。それが目の前に落ちている変則武器の正体だったらしい。


(カマ)なら職業がら良く分かりますから、何でも無かったですよ?」


 あっさりと答えているようでいて、(みのり)の頬は得意気に赤く火照(ほて)っていた。



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