92.ノルマ達成
午後に入って、新たちは午前中の続き、魔巌洞の管理領域に突入した。
「うわぁ、なんだか臭いねえ」
「内蔵捨てるとこうなっちゃうんだね」
これはかなり酷い。
午前中の最後に妖獣オオヤマネコーを解体した時に捨てた内蔵が、かなり強い腐敗臭を出しているのだ。ダンジョン内なら腐ったりしないのかというと、まったくそんなことはなかった。
「どうする、これ?」
「どうすると言われても……」
かなり迷惑かもしれないけど、魔巌洞の中を綺麗に使おう、なんて話は聞いたことがない。放っておいても数日で消えるという話だし、放置でいいんじゃないかな。
第八階層から第九階層に入っても、風景は大きく変わらなかった。
広めの通路、明かりを灯した高い天井。分かれ道は直角で、どこまでも人工的な感じの洞窟が続く。
この階層の推奨レベルは二次職十二から十七。ここと次、その二つの階層をクリアすることが三年生のノルマだ。陽菜たちクラフター組はレベル十五なので、一応は適正レベルだと言える。ただし戦闘力が低めなので、ちょっと厳しいのは仕方ないところだ。
「うわわっ、ちょっとこれ、無理むり!」
「これは厳しすぎるね……」
全力の攻撃が良い感じに決まっても、敵がケロッとしているのだからどうしようもない。ここからは新たち四人が前に出て、クラフター組は後ろで援護ということになった。
「よいしょ! 確かに敵が硬いねっ!」
「毛皮のせいかも」
都久詩、そして音羽が軽い感じで敵を殲滅していく。
敵は人型だけど、どう見てもこれまでのようにゴブリンじゃない。二メートルを超えるような長身で、ハイエナのような顔に全身を覆う毛皮、その上から鎧をまとっている。
――ハイエナール 職業:戦士
聖者の瞳で鑑定してみたら名前が分かった。まあ名前なんか正直どっちでもいい。倒しやすいか倒しにくいか、それが問題だ。
ハイエナールは上背が高くて懐が深いので、小さかったゴブリンよりも間合いが取りにくい。
相手の方がリーチが長い分、どうしても踏み込み不足になってしまう感じ。勇気を持ってしっかり踏み込まないと、攻撃が当たらなかったり、中途半端になったりと、全然決まってくれないのだ。
倒せないわけじゃないけど、都久詩や音羽みたいに、そんなに簡単に対応してポンポン倒していけるような敵じゃない。
そこまで強いわけでもないけどね。間合いに慣れさえすればクラフター組でも楽に倒せるんじゃないかな。
第九階層はそこそこ広かったので時間がかかったけれど、それでも問題なく踏破して第十階層に入った。やっぱりボスはいなかった。残念なことだ。
「この階層もハイエナールだね」
「同時に出てくる数が増えたぐらいかしら?」
なんとなくだけど、一匹ごとの強さも少し上がってる感じがする。この階層の推奨レベルは二次職十六から二十一。レベル十七から十八の新たちにとっては最適な場所、クラフター組のレベル十五だと少し厳しい計算だ。
「ちょっと気合を入れないと、一撃じゃ倒せないかな」
「ええ、頑強になっていますね。槍が通らないほどじゃありませんが」
敵の強さは上がってる。でも根本的に敵が少ない。全体を見たわけじゃないけれど、管理領域はどの階層も敵が少ないような気がする。
楽にレベル上げするなら弱い敵を狩りまくるのがいいと思うんだけど、いくらそうしたくても狩りまくるだけの敵がいないわけだ。それが嫌なら無理をして上の階層に行くしかないんだけれど、そんな危険な冒険は簡単には選べない。
つまり安全にレベルを上げる方法がない、だからおんぶに抱っこの寄生を望む生徒が増えるってことなのかもしれない。ほんと、面倒くさい話だねえ。
その後も敵を倒しながら進み、階層ボスの部屋を越えて第十一階層、次の階層へと突入した。これで第十階層はクリア、三年生前期のノルマを達成したことになる。これでクラフター組も成績不良と呼ばれることは無くなったわけだ。
「ホント助かったよ、ありがとう!」
「これで補講はないもんね」
クラフター組のみんなにはかなり喜んで貰えている。役に立てたなら何よりだ。
制限時間までまだちょっと余裕があったので、少し戻って軽く狩りを行う。レベルが上がればいいんだけどな、と思ったけれど、さすがにそんな都合よくはいかなかった。
その後はクラフター組とは分かれて、一年生組だけで管理領域の第零階層へと向かう。
今のままだと記録の上では、三年生と一緒に第六階層に行ったことになっているはずだ。このままだと第二階層をクリアしていないとか、強い三年生に連れて行って貰っただけとか、学校側から難癖をつけられる可能性が残っている。
というか、絶対にそうなると思えるぐらい、この学校への信頼度は高い。
なので新たち一年生だけで、第零階層から第六階層までを一気に踏破することにしたのだ。ちゃっちゃと走り抜けるだけだし、そんなに時間をかけるつもりは無いけどね。
実際やってみると各階層はそこそこ広かったので、夕飯の時間までには終わらずに、かなり時間をオーバーしてしまった。
それでもちゃんと第六階層まで辿り着いたので、まあこれで良しとしておこう。




