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底なしダンジョン学園にようこそ! なんて言われても困るんだけど(仮)  作者: 大沙かんな


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91.あとしまつ

 場所は変わって八強クラブのうちの一つ、隠密研究部の部室棟。その奥にある一室。


「いったいどういう事ですの。他のクラブに取られぬようにと申し付けていました。そのはずですよ?」

「それがしに言われても、どうにもならない話でござって……」


 特侵科の一年生、秋風(あきかぜ)山吹(やまぶき)は、三郎坊を相手に激怒していた。


 若草(わかくさ)(あらた)は隠密研究部に迎え入れることに決まっていたのだ。それなのに新しいクラブを自分たちで立ち上げるとは、まったくあり得ない話だ。


「あの者は例の特別講習に参加していたという話でしたね。ならば三郎坊、あなたはその時、何をしていたのかしら? 監視するようにと言いおいたように思いますが」

「申し訳ござらぬ、それがしの不徳の致すところでござった」



 三郎坊は、そもそも一年生の(あらた)になど、何の関心も持っていなかった。ただ山吹(やまぶき)が粘着しているがゆえに、片手間どころか小指間ぐらいで手抜き監視していたに過ぎない。


 成績不良で特別講習を受けることになったので猶更(なおさら)だ。そんな者はどうでもいいと思ってしまったのも不自然な話ではなかった。


 三郎坊は特別講習なんて受ける必要はない、そこまでして監視する必要はない、そう勝手に判断した。


 その結果どうなったか。


 特別講習は三十人を超える行方不明者が出るような大事件になったのだ。それなのに(あらた)を含む一年生の四人は、そんな危険な特別講習から無傷で帰還しているのだ。


 同じ三年生ということで、三郎坊は行方不明になった三年生たちのほとんどを知っている。その中の数人は三郎坊も認めるかなりの強者だった。


 そんな彼らが行方不明になるような特別講習を乗り越えた一年生たち。つまり目の前の特侵科の少女、山吹(やまぶき)の眼がそれだけ確かだったということ。


「その新設クラブとやらと提携を結びなさい。三郎坊、あなた自身がそのクラブに移籍しても構いませんよ? なんとしても繋ぎを作りなさいな」

「はい、必ずや!」


 そう返事をしてみたものの、三郎坊の表情は暗い。


 若草(わかくさ)(あらた)、彼が新設するクラブは男子が二名、残りは全部女子という典型的なハーレム型クラブだ。男子である三郎坊が潜入するのは極めて難しい。


 いっそのこと、山吹(やまぶき)本人が動いた方が確実……もちろんそんなことは口に出すことはできなかった。


 いくらそれが最適な手であったとしても。



 ~~~~~



 さらに場所は変わって教職員棟の一角、職員会議室。


 校長と教頭、そして三年生の担任を中心に、二年生と一年生の担任の一部が話し合いを重ねていた。議題はもちろん特別講習についてである。


 二十八人もの行方不明者を出した三年生の担任は、特に厳しい顔を浮かべている。


「まだ時期は早いですから、クラス改変すべきかと」

「二クラス減らすことになりますね」

「それしか無いでしょう」


 一クラス二十名の学校だ。そんなに多数の生徒が年度途中に減ってしまえば、学級を再編成する必要が出てくるのだ。今回は二クラス減、つまり担任教師二人がお役御免になるということ。


 彼らの厳しい顔はそれが原因だ。つまり自分が席を失うかどうか、彼らが興味を持っているのはただそれだけ。


 行方不明者のことなんて既に見捨てているし、人命を尊重した改善であるとか、そんなことはまったく考えていない。彼らだけでなく、もちろん校長や教頭といった学校側もそれは同じだ。


 六人を失った二年生はクラス編成なしで耐えられそうだということで、担任教師たちもかなり柔らかい表情を見せている。


 一年生の担任でこの会議に参加しているのは、一年辰組の野島(のじま)夏草(なつくさ)先生ただ一人だけだ。(あらた)たち四人は無事に戻ってきているので、全く何の関係もないという顔をしていた。


「それでは……お二人には担任を外れていただきましょう」


 校長の一声、そして喜びの声を上げる者と落胆する者。


 ちなみに、喜んでいるのは二人、担任を外された教師だ。これでしばらくの間、仕事が暇になる。三年生から四年生、五年生と持ち上がるわけだから、うまくすれば三年間も楽に暮らせる。これが嬉しくないはずがない。


 彼らも夏草(なつくさ)先生と同じ。やる気なんてとっくの昔に失っている。


 それにこの真神原塾社では、魔巌洞(ダンジョン)で起こったことは全て自己責任。つまり生徒が何人行方不明になったとしても、教師にはなんの責任もないのだ。



「しかし困りましたね。あの地下闘技場は補講に便利だったんですがねえ」

「やはり閉鎖されていましたか」


「はい。閉鎖というか、削除というか、完全に跡形すら残っていませんでした」

「ならばやはり、補講には別の領域をあてないといけませんね」


 地下闘技場の領域は、入場したものの強さに合わせて敵の強さが決まるという、ちょっと特殊な場所だった。強さ調整が不要だった上に入場した場所の近くに安全地帯があったため、講習を行うのに最適な場所だった。


 困ったことに、それがどうやらクリアされてしまったようなのだ。次の時期までに、どこで講習を行うのか、新しい探求(クエスト)領域を決めておかなければならない。


 面倒な話ではあるけれど、それほど難しい話というわけではなかった。探求(クエスト)領域はたくさんあるし、そのうちのいくつかを適当に振り分けるだけ。


 この学校では、教師たちはできる限りのことをする。


 魔巌洞(ダンジョン)の中のことには手をつけられないし、管理なんて絶対に不可能だ。つまりそれは『できない』こと、『できる』限りの範囲外ということ。


 ここ真神原塾社では、それこそが正しい考え方なのだ。



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