90.クラブの名前
ボスのいないボス部屋を越えて第九階層に入ったところで、ちょうどいい時間になった。
「まだ少し時間があるから解体しちゃうね」
魔法の鎧袋からかなりの数のオオヤマネコーが転がり出てくる。陽菜
が調理スキルで皮を剥ぎ、亜紗が裁縫スキルでなめして毛皮にしていく。
「このお肉って、なんだかあんまり美味しそうじゃないのよね」
「でも食べるんだよね?」
「もちろんだよ!」
魔巌洞内の妖獣は倒すと崩れて消えてしまうので、食べてみた例はあんまり残っていないし、料理レシピなんてもちろんない。見た目がイマイチでも食べてみたら美味しいことだってあるだろうし、自分で挑戦して研究してみるしかないわけ。
「珍味系かな?」
「割とあっさりしてたりして」
「まあ、食べてからのお楽しみだよ!」
みんなの感想を聞きながら、陽菜がオオヤマネコーをサクサクと捌いて肉にしていく。どうやら内蔵などはその辺にポイ捨てする模様。
魔法の鎧袋に一度入れてしまうと、死体が砂になって消えることはない。その代わりと言ってはなんだけど、こうして解体した時に血や内臓などが消えずに残ってしまうのだ。
何日か放っておけば消えるらしいんだけどね。
特別講習の時は森だったし、穂が穴を掘って埋めていた。この階層だと地面が土じゃなくて岩なので、栽培師のスキルじゃ穴は掘れないみたい。
「捨てなくても肥料にできるんだけど、まだ畑がないから……」
肥料ばっかり溜まっても困ってしまう。どっかにいい空き地はないかな。
午前中はそこまでにして、お昼休憩を取ることにした。どこかの広場でバーベキューにしてもいいんだけど、今日のところは学生食堂だ。
「おお、新じゃないか、久しぶりだな!」
後ろから声をかけてきたのは、クラスメイトの武士だ。周りには彼のグループの女子たちも集まっている。
武士グループはなんだかんだ真面目に魔巌洞攻略を進めているので、こうして学生食堂で出会うことが多かったりする。
「特別講習は大変だったみたいだな。行方不明者がいっぱい出たって噂になってるぞ」
「ああ、かなりキツかったよ。ほんとに成績不良だったら、生きて帰るのは無理だったと思う」
当事者である新たちにはピンと来ない話だったけれど、実際、あの特別講習は大変な噂になっていた。
三十四名という大量の行方不明者。そのうち二十名が三年生の成績優秀者だった、それももちろん理由の一つだ。でもそんなことよりも、五人の女子生徒が一糸もまとわない姿で出てきたことが一番の原因だった。
それも通常のように時間切れで出てきたわけじゃない。探索していた領域が強制的に閉ざされて、無理やり排出されてきたのだ。そんなものが噂にならないわけがない。
「たぶん今頃、先生たちは職員会議やらなんやらで大忙しだろうな」
「教師たちだって、ちょっとぐらい苦労した方がいいと思うよ」
あんな酷い場所に無理やり送り込んでくれた夏草先生には、思うところが山ほどある。おかげでレベルは上がったし、こうしてクラフター組と知り合いになれた。
だけど、感謝なんか一ミリもしてない。教師たちは苦労でも何でも勝手にしてくれ、そんな気持ちだ。
「ホントのとこ、何があったんだ? 三年生が下手打って超級ボスが湧いた、って話だけど」
「その超級ボスだっけ? ボクらは見てないんだよね。こっちは所詮一年生だから相手にされてなかったというか、成績優秀組とは挨拶すらしてないよ」
なにも嘘は言ってない。
それにしても超級ボスって。どこからそんなデマが生まれたんだろう。もしかしたらその超級ボスの正体は新たちのような気がしないでもないけど。
「私たちも超級ボスなんて見なかったよ」
陽菜も横から加勢してくれたんだけど、それを聞いた武士がなぜか固まった。
「おーい、武士。どうかしたの?」
反応がない。
「大丈夫?」
やっぱり反応がない。
「保健室いく?」
「あ、あ……」
どうやら言葉にならない模様。
「あ、新! このお姉さんたちは一体なに! どうやって知り合ったの! ずるいぞ、ずるいぞ! 紹介しろぉっ!」
爆発するように早口で喋りだした武士に、彼のグループの女子たちが白い眼を向ける。
「何を言い出すのやら。さっきそこで自己紹介してたじゃないの」
「もしかして武士、聞いてなかった?」
「男子同士でコソコソ話してたからね……」
「浮気者だよねぇ」
小柄な陽菜がド真ん中のストライクだったのは分かるけど、ちょっとは押さえないと、ねえ。
その後は一緒に昼食を取りながら、情報交換というか、仲良く談笑することになった。
主に女子たちが。
というか、何だか女子会みたいなノリなので、入り込むスキが見つからない。
「武士のグループっていつもこんな感じなの?」
「どうみても、これって新の方だろ!」
たぶんどっちが、なんてものは誰にも判定できない。だってどっちもそうなんだから。
「こういう時は黙って聞き役になるしかないよ」
「地蔵になろう作戦だな、了解した」
仲良しになるのは何も悪い事じゃないからね。
「それじゃ、これでほぼ決まりかな」
「良いと思います」
「うん、それで行こう! よろしくね!」
新と武士、二人で地蔵になっていたら、いつの間にか何かが決まっていたらしい。
「おい、新。ちゃんと聞いてたか? 何が決まったんだ?」
「どうせ拒否権なんてないんだから、聞いてなくても大丈夫だよ」
武士はちょっとあたふたしている様子。まだまだ修行が足りないぞ?
そんな新だったけど、新たち四人とクラフター組四人で新クラブ『たかはし』を立ち上げることに決まったと聞かされて、腰を抜かして椅子から転がり落ちかけた。
武士たち四人組は新クラブの正規メンバーじゃなくて、オブザーバーという立ち位置らしい。
「クラブはいいけどさ、『たかはし部』って何なの! もっとクラブっぽい名前があるでしょ!」
「『たかはし部』じゃなくて、『たかはし』だよ!」
「迷宮への小舟っていうのも考えてたんだけどね。それだとインパクトが足りないっていうか……」
「クラブを作る時って、主要グループの名前をそのままクラブ名にするのが普通なんだよ」
迷宮への小舟っていい名前だと思うんだけどなぁ……。
「新、お前の言う通り、やっぱり拒否権なんてないんだな」
うん、武士。全くその通りだ。




