89.クラフター組の戦い方
今日は朝から魔巌洞の管理領域へやって来ている。第八階層まで進んだというのに、まだ敵を一匹も見ていない。
「敵がいないのは楽でいいけど、どのくらい戦えるようになったか確認したいよね」
そんなことを言っていたのがフラグになったのか、前から敵がやって来た。ゴブリンが二匹と、どうやら犬を連れているみたいだ。
「行けるところまでは、私たちにやらせて欲しいかな」
「厳しい時はヘルプが欲しいけどね」
こころよく了承して、ゴブリンとの戦闘をクラフター組に任せ、後ろから観察する。
彼女たちの戦いは悪いものではなかった。いたって普通で、戦闘下手という感じは全く受けない。ちょこちょこ敵の攻撃を受けているけれど、しっかり確実に反撃できているし。
特別講習では、森の妖獣狩りで一緒に何度も戦ったけれど、あの時は敵のレベルが高すぎて噛み合っていない感じだったのだ。それに彼女たちは戦いよりも素材採集に命をかけてたし。
今こうして見ていると、かなり手堅くまとまっているように見受けられる。転職までは普通に戦っていた、というのは間違いない。
「悪くないわよね」
「何というか、攻撃力が足りてない感じですね」
うん、多分そこだと思う。
つまりそれが戦闘職ではない、戦闘が苦手、という言葉の意味なんだろうけど、なんだか少し違和感がある。
「武器の違いかなぁ」
考えてみると新たちの武器は、素手の音羽を除けば、全部ボスドロップなどの特別品だ。それに対して彼女たちの武器は、特別講習で拾ったものも含めて、どれも購買で売っているもののように見える。
彼女たちだって良い武器を手に入れることができたなら、戦闘職並とは言わなくても、もうちょっと戦えるようになるんじゃなかろうか。
「これがゲームなら、魔物を手なづけて戦わせたりとか、ゴーレムを召喚したりとか、いろいろ手があるんでしょうけれど」
「無いものは仕方ないわよ」
何かどっかが引っかかってるんだけど、それが何か言葉にできない所がもどかしい。
「ふう~、何とか倒せましたね」
「怪我しなくなったから、戦いやすかったね!」
時間はかかったものの、それなりに危なげなく戦いは終わった。
レベルが上がったことが決め手になっているのは確かだ。それに加えてインナーにビキニアーマーを着こんだおかげもあって、以前に比べてかなり強くなっている模様。装備って偉大だ。
それからも聖者の瞳の地図に従って第八階層を進んでいく。特に細部まで探索するつもりはなくて、できる限り遠回りをせずに次の階層に進む方針。
敵は犬を連れたゴブリン、または豹のような模様をした妖獣。鑑定してみると、オオヤマネコーという名前らしい。毛皮が綺麗なので、倒したらすぐに魔法の鎧袋に収納だ。
いつの間にかクラフター組は鎧袋の扱いに慣れまくっていた。いや、特別講習の時から気づいてたけどね。特に由樹なんか、材木を入れるのも出すのも自由自在にやってたし。
鎧袋の口紐には、土偶のキーホルダーがぶら下がっている。ぶら~んぶら~んと揺れて、なんだかとても楽しそうだ。やっぱりあの土偶、時々親指を立てているように見えるんだよね。土偶の手のどこに親指があるのか分からないけど。
何度も戦いを繰り返しているうちに、彼女たちの戦い方も少しづつ洗練されていく。なんというか、技量が上がっているイメージ。
「妖獣オオヤマネコーが二匹来たよ!」
「右は私が貰おうかな。左は由樹がお願いね」
「了解だ! 穂、手伝ってくれ」
「はい、わかりました」
思い出してみれば、彼女たちは出会った時から連携は得意だった。今も声を掛け合っているけれど、敵が二匹だと見るなりスムーズに二対一になるように、声を掛け合う前から動き出しているようだ。
オオヤマネコーという妖獣はかなり大きいんだけれど、体の大きさの割には動きが機敏だ。フットワークが軽いというかなんというか、こちらの攻撃を左右に避け、時には後ろに飛び下がり、距離を開けたかと思えば飛び掛かってくる。
さらには大きく跳び上がってみたり、壁に追い詰めても三角跳びで逃げ出したり、時には逃げずに上から襲い掛かってみたり、多彩な動きで翻弄してくる。
「むうっ! 当たらないっ!」
「このっ! ほんとにもう、このっ、このっ!」
陽菜と亜紗、二人掛かりでオオヤマネコーを追いかけるけれど、どうにもマトを絞り切れない様子。
ムキになればなるほど、攻撃が大振りになってしまう。そして敵の術中にハマっていくのだ。
「な~んてねっ!」
オオヤマネコーが逃げた先には、しっかり由樹が待ち構えていた。大きめの棍棒がその頭を直撃する。陽菜も亜紗も、最初から二対一で戦うつもりなんてどこにもない。由樹のいる所へオオヤマネコーを誘導していたのだ。
当たらなければどうってことはない。でも裏を返せば、当たってしまえばどうにもならない。オオヤマネコーは砂になって崩れる前に、しっかり魔法の袋の中に確保されることになった。
「やったね!」
「あと一匹、囲んじゃおうかな」
四対一となっては、いくらオオヤマネコーの機動力が高くても、逃げ切る事なんてできない。あっという間に追い詰められて、狩られることになってしまった。
「二対一に分かれたと見せかけて、実は三対一でしたか」
「連携が半端ないわね」
もしかしたらだけど、彼女たちは強い武器なんかなくても、このままでもいいのかもしれない。




