09.ボス戦再開
午後は予定通りグループに分かれてのダンジョン実習になった。制限時間は一時間以上、第一階層のみ。これを二回以上行う必要がある。
入学早々、新入生に二桁人数の行方不明者が出たこともあって、どうやら教職員の間では、今年の新入生は危険だということになったらしい。
おかげで今日の実習では、第一階層を越えて第二階層に入るのは禁止されてしまった。新入生が悪いというより、第零階層には敵は出ないなんてガセネタを流した教師が悪いと思うんだけど、特に指摘はしてない。面倒くさいから。
武士の根回しはしっかりしていたらしく、男子三人、女子十人の一年辰組は、すんなりと三つのグループに分かれた。男子一人に女子三人か四人。武士の所だけ女子四人。なるほど、ちゃっかりしているね。
新にしてみれば、ボッチじゃなければ別にどうでも良かったんだけど、面倒な根回しをしてくれた武士には、しっかりお礼を言っておくことにしよう。
新と同じグループを組むのは、女子三人だ。昨日と同じ音羽と木綿花、そしてもう一人の女子。
「ボクは不知火都久詩、みんなよろしくね! まだ戦ったことは無いけど頑張るよ」
背丈は二人よりちょっとだけ低いぐらい。スレンダーな体系で髪をポニーテールにまとめている溌剌としたボクッ子だ。
――不知火都久詩 初心者一
装備: 簡易防具、棍棒
聖者の瞳さんも、彼女の言葉に嘘は無いと判定してくれている。
「ボク、昔から剣道というか剣術を習ってて。だから日本刀が欲しいんだけど、購買だとあんまり高くて驚いちゃった」
「日本刀は特別に高い感じだよな。安物は置いてないし」
「そうそう、そうなんだよ。安物でいいから置いてくれないかなぁ」
「それだとすぐ折れて使い物にならないんじゃないかな」
「うーん、それ困るかも。あーあ、どっかに大富豪の息子とか落ちてないかな」
「そんなの見つけたら、私が先に拾うわ!」
ガチャガチャ騒ぎながら、新と音羽、木綿花の三人に都久詩を加えた四人は、魔巌洞の門にたどり着く。
制限時間一時間。魔巌洞に入ると第零階層のボス部屋の前。
都久詩にとっては初めての体験。しっかり説明する。
「え? え? ボス? なんで?」
本来だとこの階層には敵はいないはず。それなのにボス前。かなり混乱している。それだけでなく緊張しているようだ。
「ボス戦の前に一通り回って体をほぐさない?」
都久詩はまだ一度も戦ったことが無いって話だったし、たしかにこのままでは危なそうな模様。音羽の提案に全員が賛成して、まずはゴブリン狩りから始めることになった。
「ほら、天井を見て。緑の丸いのがいっぱいあるでしょ? あそこからゴブリンが出てくるから上に気を付けて」
卵が割れて上から降ってくるゴブリンたちを音羽と木綿花がガシガシ殴って倒していく。新は都久詩の護衛に控える形だ。
後ろから見ていると音羽はかなり戦えるようになったと感じる。木綿花の方はまだまだ危なっかしい。それでも敵が後ろまで回ってくることはなく、どんどん処理が進んでいく。そして都久詩のレベルもどんどん上がっていく。
「何だか授業で聞いてたのと違う感じがするよ」
「そうなのよね、授業って」
「嘘というわけでもないんでしょうけど、あまり過信すると危ないですよね」
とりあえず端まで行ってから、もう一度戻ってくる。行きは見学だけだったけれど、帰り道には都久詩にも戦いに参加して貰って慣れてもらう形だ。
ある程度体が温まったところで再度ボス部屋の前に集結する。
「大切なのは先走らない事、ぐらいかな」
部屋の中には鎧を着た大型ゴブリン。宝箱に座っているのは今まで通り。違うのは右手に日本刀を握っている、ただそれだけ。
「刀……なんだか都合が良すぎない?」
「どこかの誰かさんが裏で色々やってると言われたら信じちゃいそうです」
音羽と木綿花が二人してジトーっと新に意味ありげな視線を送ってくる。
「え? 僕のせいなの? 何もしてないってば」
はっきりとは分からないけど、多分関係ないと思う。
こちらが遊んでいるのが気に入らないのか、ゴブリンのボスはその醜く厳めしい顔でこちらを睨みつけてくる。ただ残念なことに、頬がヒクヒク引きつっている模様。
「大丈夫? かなり強そうだよ?」
「うん、あいつは強いよ。でも僕たちの方がもっと強い」
ちょっと格好つけたように聞こえたかも知れない。でも本当のことだ。昨日、特に二回目の戦いでは、相手が何もできないうちに倒しちゃったし。
ゴブリンのボスは余裕が無いのか、新たちが部屋に入る前に立ち上がって刀を構える。隙がほとんど感じられない立派な構えだ。
でも良く見ると膝がぷるぷる震えている。これは勝ったな。
よし、いざ、突入だ。
「行くぞ! その刀、よこせぇぇぇえっ!」
ゴブリンのボスは泡を吹きながら逃げ出した。
え? 逃げ出すの早すぎない?




