86.日本刀vs両手剣
新、そして都久詩の二人は苦戦していた。細かいことを言えば違いがあるけれど、無理やりまとめれば理由は同じ。相手のレベルが高すぎて、つけいる隙が見つからないのだ。
新の相手は巨大棍棒、同じような武器の持ち主だ。違いはレベルが大きく離れている事、そして相手は鎧なしということ、この二つだけ。
巨大棍棒を相手にする時は、全身鎧はそれほど役に立たない。圧倒的なパワーで叩きつけられる棍棒のダメージを鎧は分散してくれる。それは確かだけれど、ノーダメージで済むという話ではないのだ。
だから絶対に棍棒を食らってはいけない。食らえば不利になり、不利になれば押され、そして倒されてしまう。この戦いはそういう戦いだった。
都久詩の戦いもそれに似ていた。ただし違うのは都久詩の日本刀に対して相手は両手剣。それだけではなく都久詩の方が相手よりも技量が高い事だ。
日本刀が鋭さで切り裂く剣なのに対して、両手剣はパワーで押し切る剣。真正面から何も考えずに剣と剣をぶつけ合ったとすれば、まちがいなく両手剣が勝つ。
だからこそ都久詩はひたすら機を窺う。その時、その瞬間に全力が出せるように準備する。
ここまでに何度か、切っ先を引っかけることには成功している。相手は体の数カ所から血を流しているけれど、まだダメージを与えたとは言い難い。
「くそが、ちょこまかと動きやがって!」
暴漢の両手剣がブンブンうなりを上げながら都久詩に迫る。一歩、そしてもう一歩、大きく飛び込むように前に出ながら振り回してくるその大剣は、はっきり言ってかなりの脅威だ。
しかし都久詩には当たらない。大剣はホワッッと揺れたポニーテールをかすめただけで、ただ空を切り続けるだけ。
「この、クソがっ!」
今の飛び込みは暴漢の切り札の一つだった。それまでの踏み込みよりもはるかに遠い間合いから、飛び込んでの斬撃。都久詩のような間合いを巧みに操る者に対しては、突然変化する間合いは非常に効果がある。
だからこそここまで見せずに隠してきたというのに、簡単に見切られてしまうとは。
都久詩からすれば、『必ずある』と確信していた、ただそれだけのこと。切り札を切るなら、もっといろいろ工夫しないと当たらない。本当にそれだけのことだ。
もちろん都久詩も何枚か切り札を隠し持っている。ただそれを使って力押しできるだけのパワーがない。力技では相手の方がはるかに上なのだ。
彼女だってただ遊んでいるわけじゃない。今のままではなかなか相手を崩しきれない、そういうことだ。
どうするか。ここで切り札を一枚切ってしまおうか。
戦場全体を俯瞰してみる。
都久詩は膠着状態。どちらが上とは言い切れない。どちらも決め手にかけている。
木綿花の魔法戦はハッキリと木綿花が有利。巨大弩からの援護もある。
新はかなり不利かな。ただ新の場合はあまり全力を出したがらないきらいがある。見たところ全力じゃないし、まだまだ余裕がありそうだ。
これなら無理をして勝負を急がなくてもいいかな。都久詩はそんなことを考えている。それだけ余裕があった。
都久詩の相手、暴漢はどんどん心の余裕を失っていた。たかが女一人、そう思っていたのに、全く自分の剣は当たらない。切り札を一枚切ったというのに、相手は澄まし顔のまま。
今まで見た覚えがない制服姿の女子生徒。三年生のわけがない、とすれば一年生ということだ。一年生の、それも成績不良の落ちこぼれが、なんでこんなにも強いのか。
ありえない、ありえない、ありえない!
それでもこの暴漢は成績上位者だけのことはあった。混乱したまま戦いを続けることはせず、少し後ろに下がって間合いを外す。息を整えて広く全体を見る。
すると視界の端に槍を持った少女の姿が引っかかった。そのぎこちない構えは、間違いなく初心者だ。この日本刀の少女を助けに来たんだろうけど、自分の実力が分かってない、そんな少女だ。
暴漢は意識の半分を槍の少女に向ける。こいつを先に斬れば、おそらく日本刀の少女は動揺して崩れるだろう。そこを討ち取るのだ。
槍少女は間合いが分かってないと見えて、あっさりと両手剣の範囲に入ってくる。
よし、ここだ!
大きく横に飛ぶようにして槍の少女に迫ると、必殺の横薙ぎを振るった。
真っ二つにした、そう思ったのも束の間、槍の少女はヒラっと軽く後ろに飛び下がる。
「な、なんだと!」
暴漢は声を上げようとしたが、それは声にならなかった。なぜならその時、すでにその首は都久詩に斬り落とされていたのだから。
都久詩から目を離してはいけない。
それが戦場の摂理であり法則なのだ。
「ありがとう、音羽! たすかっちゃった!」
「一人でもやれたでしょうけど、新がグズグズしてるからね」
槍の少女の正体は木綿花ではなくて音羽だ。
まだ全力戦闘は難しいとみて、木綿花から槍を借りてきていたのだった。槍なら遠い間合いからでも攻撃できる、そう思ってのことだ。
いきなり斬撃が飛んできたけれど、いつも近間で戦っている音羽にとってみれば、あれだけ距離が離れていれば逃げることぐらい容易いものである。
音羽は別に騙そうとしたわけではなかったけれど、暴漢は勝手に騙されてしまった、ということらしい。




