84.対人戦
さっきまでやる気だったクラフター組の四人が怯えている。
相手が人間というのも大きいし、それに襲ってくるのは命の危険だけじゃない。その生理的な嫌悪感はとても強いに違いない。
「あれは人間に化けてるけど、中身はゴブリンだ! 殲滅するぞ!」
「当然だよ!」
このままではまずいと新は声を出して気合を入れなおした。都久詩がすぐにそれに応える。
ゴブリンを狩りまくっているので、敵が人型だろうとなんだろうと、新たちには全く嫌悪感はない。落ちこぼれ組を殲滅した時も、人間を大量に殺したにも関わらず、何も思うところは無かった。
そもそも入学初日に、新はチンピラ共を平気で囮にしている。敵が人間だなんて今更の話なのだ。
自分でも壊れていると思うけれど、壊れなければこんな学校では生きていけない。
事前に打ち合わせをした通り、都久詩が左、新が右で前に出る。その後ろにはクラフター組、陽菜、亜紗、由樹、穂の四人が構えている。
一番後ろは木綿花。クラフター組に守られつつ、炎魔法の砲台になるのだ。まだ不調の音羽は遊撃、基本的には木綿花の護衛だ。
聖者の瞳によれば、相手の十人は成績優秀者の模様。全員がレベル二十以上、中には三十以上の物が二人もいる。その上悪いことに、レベル三十以上の二人はしっかり武器を握っている。
「おい、あいつら女だぞ!」
「こんなところに隠れていやがったのか」
「まだ遊ぶ時間は残ってるよな」
「ああ、捕まえちまえばこっちのもんだ」
かなりふざけた会話がこっちまで聞こえてくる。
「木綿花、やっちゃえ!」
音羽の掛け声と同時に、闘技場は真っ赤な炎に包まれた。
戦いが始まるとすぐに、新は聖者の瞳で敵を観察し始めた。火の玉の壁の向こうで敵が悶えているに違いない。その状況確認のためだ。
あれ、おかしいぞ。敵はダメージを受けているはずなのに、その様子があまり見られないのだ。
いや、ダメージ受けたヤツがすぐに回復している。
「回復魔法だ! 後ろに回復魔法を使ってるヤツがいる!」
このままだと火の玉の火力を上げたところで、相手を殲滅するのは難しい。回復魔法は距離制限があるみたいだけれど、いつかは炎の壁を突破されてしまうだろう。
新たちの旗色はいきなり悪くなり始めた。
「熱いぞ、この野郎! ぶちのめしてやる!」
数人の敵が怒りを込めて走ってくる。
「穂ちゃん! ここの地面って土だよ!」
「うん、分かってる! 『耕し』! 『畝づくり』!」
栽培師の穂が両手を地面につけて、畑づくりのスキルを使った。たちまち闘技場の土は耕されて凸凹になり、さらには高い畝と低い畦が生まれる。
これは地面が波打っているようなもの。こうなると、とてもじゃないけど全力で走る事なんてできない。
速度が遅くなった敵に火の玉魔法が集中する。こんなものはただの時間稼ぎだ。でもそれで充分だ。
先頭で突っ込んできたレベル三十以上の二人。そのうちの棍棒持ちを新が、両手剣持ちを都久詩がそれぞれ引き受ける。
あと二人、後衛に突っ込んでいくヤツがいるけれど、それはクラフター組と音羽に任せるしかない。
今は絶対に木綿花の魔法を止められちゃいけない。そうなれば炎に耐えられずに、後方で控えている敵が前に出てきてしまう。そうなればもう負け確定だ。
「由樹、準備できたよ!」
「サンキュー、亜紗!」
裁縫師の亜紗と木工師の由樹、二人の前に現れたのは人間よりもはるかに巨大な弩だった。
太くて頑丈な大木を何本も束ねた弓に、妖獣の毛皮を寄り合わせて作った鋼鉄よりも強いワイヤーで弦を張り、テコと滑車の力で引き絞る。そこにつがえられているのは、太い丸太の先を削って尖らせた極太の矢。
まったくとんでもない武器を仕込んでいたものだ。
しかし敵だって成績優秀者、魔巌洞を荒らしまわる猛者なのだ。肝がしっかりと据わっている。そんなもので怯んだりしない。
「そんなオモチャで止まるかよ!」
「その体で試してから言いな!」
しっかりと狙いをつけて由樹がゴツイ発射ボタンをハンマーで叩いた。
バゴンッ!
轟音を立てて丸太が飛び出す。
ちゃんと狙いをつけたはずのそれは、大きく的から外れて飛んで行った。
試射なんてしてないんだからそんなもんだ。
「急いで照準修正するわ」
「足止めは任せて!」
二人の作業時間を稼ぐべく、調理師の陽菜が決死の思いで前に出る。
突っ込んできたもう一人の敵と対峙したのは栽培師の穂だ。彼女の手にはまともな武器は何もない。敵も素手だとはいえ、持っているのは数本の木の枝だけ。
「ケッ! そんなものでどうしようってんだ? 素直に俺様に抱かれろよ。天国見せてやるぜ?」
「駄目、近寄らないで!」
穂は手にした枝を投げつけた。先が削ってあったのだろう、その枝はしっかりと刺さった。敵ではなくて、二人の間の地面に。
「ははは、笑わせるんじゃないぞ、当たりもしないとはな。まあ、当たったところでどうなるもんでもないが」
「嫌、来ないで!」
目の前の暴漢は好色に目を血走らせながら穂に迫ろうとする。ジリジリと後ろに下がる穂、それを捕まえようと前に出る暴漢。
「いいから、おとなしくしな。可愛がってやるから」
絶体絶命のピンチ!
しかし穂は諦めていない。その眼はまだ死んでいない。
その瞳に強い闘志を込めて、暴漢を睨み返した。




