83.驚きのルール
光の粒が消えた時、新たち八人は暗くて丸い部屋の中にいた。
あの祭壇からハシゴで降りてきた部屋と似ているけれど、ハシゴは見当たらない。その代わりに足元には暗く光る魔法陣があった。
「ここ、どこだろう?」
「この魔法陣って、あの時の壁にあったのと似てない?」
陽菜が写真で撮ってあった魔法陣と見比べ始める。
「うん、やっぱりそうだ。あの石の祭壇のところにあった魔法陣と同じだよ!」
「もしかしたら、あの時に起動させちゃったってこと?」
地下に潜る前、壁の魔法陣は特に光っていなかったはず。でも全員が中に入ることで起動するようになっていたのかもしれない。どっちにしても、今となっては何が正解なのかは誰にも分からない。
「通路があるわね」
「やっぱり似てますね」
学生証に現れた表示には『地下闘技場』と書いてあったし、ここはやっぱりあの闘技場への通路のように感じられる。
「進んでみる?」
今回は時間切れを狙う手だってある。進まずにここで二時間ずっと待つという手がないわけではない。
〈ここに居り続けるのは、いささか危ない気がするのう〉
え? どういうこと?
〈この領域に囚われるやも知れぬ〉
心の声さんにしては珍しいことに、かなりあいまいな話だ。
細かいことは判別できないけれど、どうやらこの魔法陣の発動には細かいルール付けがしてあって、そのルールにはかなり厳しい制限が掛けられているらしい。
発動のルールというのは、例えばピッタリ八人、そのうち四人はクラフターのグループが、一人づつハシゴを降りる、とかそういう感じのものだ。
この種の魔法陣では、発動ルールの制限が厳しければ厳しいほど、その力が上がる法則があるという。この魔法陣にどんな発動制限が掛けられていたのかを解析できないため、その力がどれほどのモノなのか判別できない、そういうことのようだ。
試しに聖者の瞳で見てみたけれど、もう発動した後だからか、それとも硬いプロテクトのせいなのか、特に危険性は感じられなかった。
「いや、良く分からないけど、ここに留まるのは危険っぽい」
「やっぱり進むしかないのね……」
前回とは違い、グループの女の子は全員ビキニアーマーを着用、それも重ね着している。怪我をすることはあっても即死することはない、そう信じたい。
ゆっくり慎重に通路を進むと、予想通り円形の闘技場に出た。ただ前回とは違って最初から明かりがついている。
「ちょっと待っててね!」
由樹が何かしていると思ったら、出入り口のところに太い丸太を立てていた。
「これで止めておけば、危なくなった時に通路に逃げ込めるでしょ」
「ちゃっかりしてるわね」
八人全員が中に入ると、前回と同じく鉄格子の扉が上から落ちてきた。もちろん丸太のお陰で止まる。
ガシャン!
……と思ったのは一瞬だった。
鉄格子は丸太を粉砕し、そんなものは無かったかのようにしっかりと閉じてしまった。
「うわぁ、びっくり!」
「ちょっと引くよね。閉じ込めることに命かけてる感じだよ」
なんとなくこうなることは予想していたけれど、前回と同じく闘技場の中に閉じ込められてしまった。
しばらくすると向かい側の鉄格子が開く。
「敵のお出ましね」
「どうせ巨大ゴブリンが五匹だよ」
敵が闘技場の中に進んでくる。人影が五つ。
「ほら、やっぱり……?」
人影は五つだけれど、ゴブリンじゃない、人間だ。それも若い女性?
それだけじゃない。五人とも服を着ていない? なんだ? 何が起こったんだ?
「ちょ、ちょっとどういうことよ!」
女子生徒だろうか、彼女たちは闘技場の中に入って来ると、力なくその場に座り込んでしまった。遠目なので分かりにくいけれど、全く戦う気が感じられない。
後ろに下がった新に代わって前に出た木綿花、そして都久詩が戸惑いながらもしっかりと武器を構え、五人の女子生徒たちにゆっくり近づく。
そんな二人の姿を見て、彼女たちはお互い抱き合って震えあがった。
「た、たすけて……」
「降参する! 降参するから!」
「お願い、もう許して!」
ブーーーーーッ!
その時、闘技場内にブザーの音が響いた。
「ショウブ、アリ!」
え? これで終わり?
彼女たちは徐々に光に包まれて消えていく。
どうやら新たちの勝利で終わったようだ。
「今の……、なんだったの?」
「さあ?」
この時、魔巌洞の退場門の付近では、衣服の乱れた女子生徒が突然五人も現れて大騒ぎになっていた。もちろん新たちは知る由もないけれど。
良く分からないうちに終わった戦いだったけれど、一つだけ分かったことがある。
「この戦いって降参アリなんだ……」
朗報ではある。だけど相手が認めるかどうかが関係あるかもしれないし、それに頼るわけにもいかない。
戦いは終わったけれど、まだ出入り口は閉じたままだ。最初に来た時は四回戦ったことを考えると、まだあと三回残ってる計算になる。
「音羽、どうです? 戦えそうですか?」
「戦えなくはないけど、まだ全力は無理ね」
となるとやっぱり新と都久詩が前衛、木綿花の炎魔法で殲滅、という手を取らざるを得ないか。
「私たちだって戦えるよ!」
「いくつか策戦を考えてあるからね」
クラフター組はかなりやる気の様子。ただし何やらいろいろ仕込みをしているし、正面から直接ぶつかるというわけでもないらしい。
かなり時間がたってから、やっと正面の鉄格子が開いた。予想通り、中から人影が出てくる。ゴブリンじゃなくて人間が六人……じゃないな、もっと多いぞ。
出てきたのは人間の男、それも十人もいる。
それだけじゃない。なぜかほとんどが裸、武器すら持ってないヤツがやたらと多い。
「そう言うことですか……」
「何がそう言うことなの?」
木綿花が思わせぶりなことを言ったけれど、新には今一つピンと来ない。
「さっきの彼女たちのことを思い出してください」
ああ、そういうことか。
彼らの学生証にも案内文が表示されていたんだろう。でも別のことに忙しすぎて、それを見ることは無かった。だから何も準備する暇もないまま、この闘技場に転送されてしまったってことだ。
何をそんなに忙しくしていたのか、パンツすら履いてない野蛮人共。
こんな奴らに遠慮することはないよね?




