81.生き残った者たち
丘に登って食事の準備を始めた頃、やっと音羽が目を覚ました。
「あ、痛っ! ごめん、ちょっとミスっちゃった……って、ここどこ?」
「闘技場を出たと思ったらここに来てた。それより怪我は大丈夫?」
「ありがとう。打ち身になっちゃってるのか、まだ痛みはかなり残ってるみたい」
音羽がストレッチャーから降りて体を曲げ伸ばししながら答えた。万能包帯のお陰もあって、普通に歩き回るぐらいならそこそこ大丈夫のようだ。もちろん戦闘力はかなり落ちていると思ったほうがいい。
食事を取りながら、あの後の戦いがどうなったのか、なぜこんな草原にいるのかを簡単に説明しておく。
「それにしても強かったよね、あのゴブリンたち」
「体も大きかったし、技量もかなり高かった気がする」
「ボクもまだまだ修行が足りなかったよ」
正直な所、もしもあの巨大ゴブリンに炎耐性があったとしたら、新たちは無事ではいられなかっただろう。
「私も炎の魔法だけじゃなくて、槍をもう少し鍛えないといけませんね」
それは新だって同じだ。今の戦法は気合を入れてガムシャラに殴るだけ。そんなものはただの喧嘩戦法にすぎないし、敵が上位になればなるほど通用しなくなっていくはず。
和やかな食事の時間が終わる。いつの間にかテーブルは二つに増えていて、八人分の椅子まで追加されているけれど、まあ……そういうものなんだろう。
これ、新の魔法の鎧袋に入れて持ち帰る事になるんだろうけど、そのままずっと預かり続けるんだろうか。
「この後はどうします?」
「レベル上げ……は、もう充分かな」
「それより素材をあるだけ取りたいよね!」
「ちょっとちょっと! それは一年生のみんなに失礼でしょ!」
「あ、そうだった! ごめんね、ちょっと調子に乗っちゃって」
最初の話では三年生のクラフター組と一緒にレベル上げする話だったからね。ちゃんとそれを覚えていてくれたみたいだ。
別に嫌な感じではなかったから、謝罪を素直に受け入れる。中には寄生するのが当然みたいな態度を取る人たちがいるし、そういうのはゴメンこうむりたいのは確かだけど。
「ここから東に行くと強敵がいるみたい。西なら弱めの奴がたくさん」
新は聖者の瞳で得られた情報をみんなに共有する。
「音羽が本調子じゃありませんから、できれば強敵は避けたいですね」
「そうね、そうしてくれると助かるわ。弱めの敵を倒しながら、素材を探すのがいいんじゃない?」
「それじゃ、西に移動するってことでいいかな」
「「「賛成!」」」
テーブルや椅子、それに音羽を乗せてきたストレッチャーを魔法の鎧袋の中に片づけて、新たちは草原を西に向かって歩き始めた。
しばらく進むと草原は終わり、大量に切り株が広がった場所に出た。
「ここって……あの森?」
「みたいだね。ということは東の草原だったってことかな」
だとすると、東の強敵っていうのは、もしかしたら三年生の暴漢組のことだったんじゃないのか?
今いる場所が森だと分かったので、聖者の瞳の地図も無事につながった。
「あれ? ここがあの遺跡の場所のはずなんだけど……」
まだ切り株になっていない場所を目指して移動し、地図上ではあの廃墟、祭壇があったあたりに到着した。
そのはずだったのに、そこには木々が生い茂っていて、あの祭壇なんてどこにも見当たらない。
「地図が間違ってたかな?」
それとも魔巌洞の謎にぶつかったか、そのどちらかだ。聖者の瞳の地図は間違っていることが良くあるし、その間違いの裏には魔巌洞の謎というか悪意があることが大半だ。
つまりどっちも同じって意味になる。
隠れ潜んでいる妖獣たちを倒しながら森を伐採して確認してみたけれど、やっぱり祭壇はどこにもない。これだから魔巌洞ってヤツは質が悪い。
まあ、祭壇の中は調べ終わってるし、あの闘技場にだって二度と行きたいとは思わないから、無くなってても誰も困らないんだけど。
~~~~~
新たち八人が草原から森に戻って狩りを続けている頃、東拠点では暴漢十人による女子生徒たちの虐待が再開されていた。
人数が半分になったことで、女子生徒たちの過酷さの具合はかなり減ってはいる。それだけでなく、女子生徒たちの体調がまだ完全には戻っていなかったため、ある程度の配慮がなされていた。
配慮と言っても、彼女たちのことを慮ってのことだと思ったら、とんでもない間違いだ。女子が疲れすぎていると反応が薄すぎて楽しくない。だから休ませているに過ぎない。
本当に女子生徒の体調を配慮しているなら、そもそも虐待なんかするはずがないのだ。
「結局あいつら、戻ってこないな」
「何かにやられたのかねえ」
「女を見つけてどこかに連れ込んでるのかもよ?」
「ははは、あり得そうだぜ」
昨日の午後に探索に出た十人はまだ誰一人として戻ってきていない。生きているのか、死んでいるのか、それさえも分からない状態だけれど、ここにいる者は誰も心配なんかしていなかった。ただ競争相手が減ってラッキー程度にしか思っていない。
別の女を見つけている可能性も考えられたけれど、誰も後を追いかけようとしない。少し嫉妬しないわけでもないけれど、だからと言って今から追いかけたとしても、どうせその女たちだってもう抱きつぶされているに決まっているのだ。
それならここにずっといて、復活してくる女たちとだましだまし遊んでいる方がまだマシだ。それに食べ物だって水だって、ここの方が豊富にある。今から苦労するなんて全く割に合わない。
――探求領域 地下闘技場 最終戦開始まであと二十四時間
彼らの学生証にそんな表示が現れて消えたことを、誰一人として気づくことはなかった。




