76.お替り
しばらく待っていると、再び向かいの鉄格子が開いて、中から二匹の巨大ゴブリンが現れた。一匹は盾に片手剣、もう一匹は両手に短剣を持っている。
先ほどのボスよりも少し強い感じがする。それが二匹。これはかなり手強い相手だ。短剣両手持ちはおそらく素早くて厄介な相手に違いない。できればこいつは先に倒して、盾持ちをじっくり攻めたいところだ。
今回は新だけでなく、音羽と都久詩もほぼ同時に前に飛び出す。
木綿花は槍を構えてクラフター組の前に立った。もちろん槍は魔法使いであることを隠すためのただの偽装だ。戦いになったら炎の玉をまき散らすことになるけれど、それを最初から見せておく必要なんてどこにもない。
同じようにクラフター組は腕を組んで余裕の表情を浮かべている。つまり舐めプしているように見せる作戦。相手に知性がありそうな感じがするので、少し煽って冷静さを失わせようって魂胆だ。
音羽が盾ゴブリンの足止めをしたのを横目にして、新が短剣ゴブリンに対峙する。
短剣ゴブリンは予想通り、ヒット・アンド・アウエイ戦法で、飛び込んできたかと思えばすぐに退き、後ろに下がったと思えば突っ込んできて、なかなか的を絞らせようとしない。
陽動や牽制など、フェイントも上手い。新の大振りな棍棒なんか、するすると簡単に躱してしまう。このゴブリン、まるで余裕のように見えるけど、見た目ほどに余裕はないことを新は見て取っていた。
なぜならこの短剣ゴブリンは新の全身鎧を切り裂くほどの攻撃力がないみたいなのだ。おそらくこいつが狙っているのは棍棒を握る手。そこはどうしても防御力が弱くなる。そしてそれを切り裂いてしまえば、棍棒を振るうことができなくなる。
誰だってそこを狙う。もちろん新だってそうするに違いない。だからこそ。
新は上段に巨大棍棒を振り上げた。両手を短剣の攻撃から守りつつ、最短時間でゴブリンの頭に棍棒を叩きつける構えだ。
胴体は大きくあいているし、体ごと突っ込んでくればダメージを受けるだろうけれど、そうすれば相手は逆に棍棒の餌食。まさにカウンター狙いの捨て身戦法、それが新の得意技なのだ。
……めちゃくちゃ痛いし嫌いだけど。
ジリッジリッと足を前後に送る。その動きだけで相手を牽制する。必殺の一撃を恐れているのか、短剣ゴブリンはあまり突っ込んで来なくなった。
こちらの隙を窺っているんだろうけど、それは足が止まっているということ。そして機動力で戦う者が足を止めるというのは悪手なんだ。
スパァンッ!
左から都久詩の一閃!
ほらね、だからこういうことになるんだよね。
頭を失った短剣ゴブリンから盾ゴブリンに視線を移す。仲間が負けたことに動揺したのか、動きのバランスがおかしくなった盾ゴブリンの軸足に音羽のローキックが炸裂した。
ズゴンッ!
鈍く大きな音を立てて、盾ゴブリンが地面に倒れた。こうなったらもうどうにもならない。這いつくばって逃げようとする盾ゴブリンに音羽のキックの連撃が襲い掛かる。
一応、新と都久詩も駆け寄りはしたけれど、もう手出しする必要はどこにもない。最期には盾ゴブリンは頭に音羽の蹴りを受けて、首をあらぬ方向に曲げて地面に突っ伏した。
全員のレベルがまた一つ上がる。ドロップアイテムとビー玉もしっかり残った。
しかしどこの扉も開かない。どうやらまだ戦いは続くようだ。
「一匹、二匹ときたから、次は三匹かな?」
「そんな気しかしないわ」
誰でもそんな予想をするだろう。そして予想通り、次に向かいの鉄格子が開いた時、そこから現れたのは三匹の巨大ゴブリンだった。
新のような巨大棍棒持ちが二匹、両手用の大剣持ちが一匹だ。
「予想通りだけど、いろいろ組み合わせを変えてくるねえ」
相手は一対一なら格上の感じがする。ただこちらは都久詩がチート級なのと、数の優位でなんとかなっているだけのこと。このままずっと敵が増え続ければどこかで破綻することになる。
その時は、木綿花の魔法がどこまで通じるか、クラフター組がどこまで耐えてくれるか、それに賭けるしかない。
新、音羽、都久詩の三人がゆっくりと前に出ると、あちらも三人に対して一匹づつ、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
一対一が三組、そういうことだ。
大剣ゴブリンが音羽に向かったので、新と都久詩の相手は自動的に棍棒ゴブリンということになる。
「グガァ、グゴグルウガッ」
闘技場の中央で、新の前に立った棍棒ゴブリンが大声を上げる。まるで何かを話しかけてきているようだけど、残念ながら何を言っているのか全く理解できない。
人間風情が、とか、多分そんなことを言ってるんじゃないかな? なんとなくだけどそんな感じがする。
「そういうのは勝ってから言うもんだ。まあ、負けたら何も喋れなくなるから、今のうちに言っとくのは正解かもね」
「グガッガッガッガ!」
どうやら笑ってるらしい。なんとなくだけどお互いが言ってることが通じてる気がする。なんかとっても嫌な話だ。
お互いが巨大棍棒を振り上げて、まるで決闘のような戦いが始まった。
――――――――――
若草新 中級見習い十三→十四
装備: 全身鎧、巨大棍棒、聖者の瞳
鳴神音羽 拳闘士十三→十四
装備: 簡易防具、頑丈な篭手、頑丈な脛当、棍棒、ビキニアーマー(黄)
坂江木綿花 巫子十三→十四
装備: 簡易防具、無骨な槍、ビキニアーマー(白)、炎の杖(魔力向上小、炎魔法連射)、魔法のドレス(魔力向上小、炎耐性中)
不知火都久詩 剣豪十四→十五
装備: 簡易防具、無骨な刀、ビキニアーマー(水色)
天坂陽菜 調理師十→十一
紅野亜紗 裁縫師十→十一
白妙由樹 木工師十→十一
朝顔穂 栽培師十→十一




