74.謎の祭壇
新たち四人とクラフターの三年生女子四人は、バーベキューを楽しんだ後、一日目と同じように交代で見張りを行いながら、ゆっくりと体を休めていた。
夜中の間に数回、妖獣が襲ってきたけれど、特に問題なく撃退して、朝にはみんなが元気な顔を覗かせた。
ただ一人だけ、ちょっと元気がなさそうな、というか眠そうな顔をした人がいる。裁縫師の亜紗だ。黙り込んだかと思えば何やらウンウンと唸り、頭をひねらせている。何かあったんだろうか。
「ああ、あれね、大したことないというか、病気というかね」
「え? 病気? マズいんじゃないの?」
「ああ、病気と言ってもアレだよ。作ってるもので悩んでるだけだから。放っておいてもいい奴だよ」
昨日作っていたポシェット、あれがうまくいってないらしい。なんじゃそりゃ。
「モノづくりはいいんだけど、今は魔巌洞の中だし、敵と戦うのが優先だよ。下手をすると自分だけじゃなくて他の人の命にもかかわることになるんだからね」
「分かってはいるのよ、だから病気なのよね。素材が集まりすぎちゃって、ちょっとハイになってるのもあるかな」
気持ちは分からなくもないんだけど、やっぱり安全は重視しておきたい所存。
体調だけは気をつけてもらわないとね。全力疾走で逃げなきゃ死んじゃう時だってあるんだから。
昨日と同じく、森の木々をどんどん伐採しながら出てくる妖獣を倒していく。すると森の中に苔むした石垣のような物があるのが目に留まった。
「なんでしょう、ここは」
「なんだか遺跡みたいな感じね」
なんとなくだけど、何かの建物の跡みたいな感じだ。もちろん天井なんか残ってないし、壁なんかも崩れ落ちている。床だって直接地面になっているし、そこら中から草がボーボーに生えている。
もしこれが建物だったと考えた場合、ちょうど真ん中あたりになる場所に、半分崩れかけた大きな壁が立っていた。その壁には何やら魔法陣らしき模様が描かれていて、それが綺麗に残っている。
壁の前には石造りのテーブルのような物が置かれているので、まるでどこかの神殿の跡みたいな感じに見えた。
「うん、やっぱり魔法陣だね」
「これもちゃんと写真に撮っておこうか」
「この石って祭壇か何かかな?」
「ドラキュラの棺かもしれないですよ」
クラフター組の四人には、こういう廃墟のようなものが好みに合うらしい。さっきからずっとそこら中の写真を撮ったり、長さを測ったり、チョコマカと忙しそうに動いている。
「それじゃあ、開けてみようか」
くさびを打ち込んだり、即席の木づちで叩いたり、重たい石の板を少しづつ動かしていく。石の祭壇のすぐ横に即席の作業台を作って、その上に石の板を移動する作戦の模様。開けた後にまた閉じることも考えてのことらしい。
測ったわけじゃないけど、その石の板はたぶん何トンもあるだろう。頑丈そうな作業台の上に石の板が移動していくと、ミシミシと音がするのが聞こえてくる。
本当にあの作業台は耐えられるんだろうか。危なくないのかな。
そこで一つ気がついた。
「あのさ、ちょっと待ってもらえるかな?」
「今とっても忙しいから、後にして貰えないかな?」
「う~ん、後でもいいんだけど、できるなら今の方がいいんだよね」
ちょっと怪訝な表情を浮かべているけれど、それでも四人は作業を一時中断してくれる。
「それって、魔法の鎧袋に入れちゃえば簡単にいかないかな?」
一瞬あっけにとられたような顔をする四人組。
「そういうことは、もっと早く行ってよね!」
「そうだよ。無駄に作業台作っちゃったじゃないの!」
いや、袋に入らないかも知れないし、まだ無駄とは限らないんだけど……。
あっさりと入ってしまった。
上に乗っていた石の板を除けてみると、祭壇のようなものの中は縦穴になっていて、下に降りられるようにハシゴまでついていた。
「なんだろ、これ。地下室への入り口かな?」
「別のダンジョンに繋がっているのかも」
問題は降りてみるかどうかなんだけど、クラフター組の表情を見ていると、どうも降りないという選択肢は無さそうな気配。
「えっと、まだ丸一日以上時間はあるけど、レベル上げ優先しなくてもいいの……かな……って、そんなの後でいいですよね」
四人から一斉にギロッと睨まれたので、レベル上げは後回しにすることにしておく。
「私たちはどっちでもいいけどね」
「地下に行ったら強い敵がいるんじゃないかな!」
こっちのグループにも特に反対者はいないみたいだ。
新たちとは違って、クラフター組にはヘッドランプの持ち合わせが無かったので、予備のランプを貸しておく。
「へえ、準備がいいんだね」
「最近良く行く領域が真っ暗なので」
管理された領域だと、浅い階層には暗闇のところなんて存在しないそうだ。
新たちが魔巌洞の管理領域外を探索していることはしっかりと伝わっていたらしく、特に変な混乱は起きない。それどころかなんだか妙な納得のされ方をしそうな雰囲気。
「誰が先頭で……って、僕だよね……」
音羽がニコニコ顔で頷いた。
すぐに戦いになるなら素手の音羽、または都久詩が先鋒を務めるのが良い場合が多い。
でも今回のように何が起こるか分からない場合は、聖者の瞳で危険を察知し、全身鎧で身を守れる新が最適に決まっている。
まずは一人だけでハシゴを降りていく。
特に危険は感じられない。ハシゴはしっかりしていて、途中が崩れているなんてことはない。縦穴は狭いけれど、全身鎧が引っかかるほど狭いわけでもない。
一番下まで降りてみると、地面は岩ではなくて柔らかな土だった。一体どんな理屈だと思ったけれど、考えてみればここは魔巌洞。現実と同じ原理が働いていると思わない方がいい。
周りを見回すと十二畳から十六畳ぐらいの丸い部屋になっていた。その一ヶ所に別の場所へと続く回廊がつながっている。
「大丈夫そうだ、みんなも降りてきて」
新が声をかけると、まずは新組、そしてクラフター組が一人づつ順番にハシゴを降りてくる。
「祭壇の先の地下回廊ですか……これで何も無かったらびっくりですよ」
木綿花の言う通り。
この先には絶対に何かがある、口には出さなくても、ここにいる八人全員がそう確信していた。
八人が地下に降りた後、蓋の開いた祭壇の前の魔法陣がかすかに光を帯びた。廃墟に茂った雑草以外に、それを見ていたものはいない。




