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底なしダンジョン学園にようこそ! なんて言われても困るんだけど(仮)  作者: 大沙かんな


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70.クラフターたち

 (あらた)たちは三年女子のクラフター組をつれて、拠点近くを離れて草原の中央あたりまで移動した。


 あまりに拠点近くだと、中からまた誰かが出てくるかもしれない。そうなったらやっぱり殺し合いだ。


 次に戦いになったら、落ちこぼれ組が相手じゃない。レベルだって二次職の二十から三十ぐらいになる。黙って負けるつもりは無いけれど、それでも今の(あらた)たちには少し厳しい相手なのだ。


 クラフター組の水と食料も、魔法の鎧袋の中に仕舞い込んでいる。やっぱりあっさりと入ってしまった。もしかしてこの袋、容量制限がないんじゃないのか?


 土偶のキーホルダーが親指を立てている。そんなはずはないと二度見したら、やっぱり見間違いだった。今日は一日中ゴブリン狩りをしてたのでかなり疲れてるみたいだ。



「裁縫師にもこんな袋が作れたらいいんだけどな」


 裁縫師の亜紗(あさ)がそんなことを言いだした。


「作れないんですか?」

「分からないのよ。レベルが上がったらできるかもしれないけどね」


 そもそも裁縫師に需要がなさすぎて、モノづくりはあまりできないのだとか。私服禁止の校則も痛い。可愛い洋服を作っても誰も喜ばないから(さば)けないし、布を買うにもお金が足りない。


「鍛冶師なら武器や防具のメンテができるし、カスタマイズだってできちゃうから、そこそこ需要があるんだけどね」

「裁縫師ならローブが作れるでしょ? 木工師なんて家具よ、家具。この学校で誰がそんなものを欲しがるのよ」


 木工師の由樹(ゆき)が口を挟んでくる。


 なるほど、こんな草原みたいな領域なら木の机や椅子があったら快適に暮らせるかもしれない。でも魔巌洞(ダンジョン)にそんなものを運び込むような酔狂な生徒はいないに違いない。


 魔法の鎧袋のようなものがあればそこそこ人気が出るかも知れないけれど、それでも購買で売ってるような既成のキャンプ道具の方が、軽くて丈夫でさらに便利で人気が出るに違いない。


「栽培師……お花を育てるのは好きだけど……畑がないです」

「調理師だって同じよ。食材だって高いし、そもそも台所がないんだもの」


 (みのり)の栽培師はさらに冷遇されている模様。陽菜(ひな)の調理師だって大概だろう。何か作ろうと思っても場所すらないんじゃモノづくり以前の問題みたいだ。



 さらに話を聞いてみると、魔巌洞(ダンジョン)のノルマ、そのせいで時間を取られるので何かを作る時間なんてどこにもない。そこが一番の問題なのだとか。魔巌洞(ダンジョン)での稼ぎも少ないので、充分な素材を手に入れる事が難しい、これも問題だ。


 問題ばかりが山積みで、得られるものもごくわずか。その上戦闘の役にも立たないんじゃ全く取り柄が無いと言っても過言じゃない。


 彼女たちを捨てたという元の仲間に思うところはあるけれど、元の仲間たちだって命がかかっているのだ。それを一概に悪いということはできそうにない。


 簡単に言えば、真神原塾社はクラフター系の職業を相手にしていない、ということに他ならない。


 どっかのRPGみたいに、魔巌洞(ダンジョン)で素材集めができればいいんだけどね。今のところはビー玉ぐらいしかドロップしてないから望みは薄いかもしれん。


「クラフター系だとドロップはあるわよ?」

「え? あるの?」


「ありますけど、ゴブリンの(きも)とか。誰が拾います?」

「料理に使えなくはないけど、誰も食べたいとは思わないよね」


 ごもっとも。もう少し美味しそうなものが欲しいよね。



 草原の中央あたりの丘の上で野営する。見張りは四交代、もちろん三年クラフター組も一緒だ。


 (あらた)は三番目、調理師の陽菜(ひな)と組むことになった。


「それじゃ、あとはよろしくね」

「うん、わかった。お休み」


 音羽(おとは)組と交代して、深夜の見張りにつく。


 (あらた)には特に話がしたいことはない。小柄な陽菜(ひな)と背中合わせに座り、広い草原を眺める。冷たい月明かりが照らし出す草原は、まるで北の海のように暗い。


「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「なんですか?」


 しばらく見張りを続けていると、小さな声で陽菜(ひな)が話しかけてきた。


「今回の特別講習は成績が特に悪い者が対象なのに、なんで(あらた)たちは参加させられてるの?」

「学生証に何も記録されてなくて」


 システムがポンコツなお陰で戦っていない判定された件を簡単に説明しておく。


「それだけ強いのに、災難だね」

「先輩たちはレベルが低いからですか?」


陽菜(ひな)でいいよ。レベルだけじゃなくて、クラフターだから処分対象にされているんだよ」

「処分対象?」


「うん、そうだよ。私たちよりもレベルが低い子だっているんだけどね。問題児扱いされてるんだと思う」

「そういうのもあるでしょうね、この学校って教師がいい加減だから。いつかシバキ倒してやりたいですね」


 担任の夏草(なつくさ)先生のことを思い浮かべる。入学初日からいい加減で、(あらた)たちを魑魅(ちみ)領域とかいう変な場所に送り込んだ女教師だ。


「難しいと思うよ、この学校の先生ってここの卒業生だから。二次職のレベル六十以上は必要かな。多分もっと上だと思うけどね」

「レベル六十って……」


 夏草(なつくさ)先生ってそんなにレベルが高いのか。もしかしたらいい戦いができるかもと思ってたよ。危ないところだった。



 会話が途切れた。陽菜(ひな)は何かを思い悩んでいる様子。


 おそらくあれのことか、そう思い当たる事はある。二年生の女生徒たちのことだ。人の心なんて察することができない(あらた)でも気がつくほど単純な話だ。


 でもわざわざ声をかけることはしない。そこまで踏み込むことは必要ない。この特別講習が終わればただの先輩と後輩に戻る、そういう関係だ。命をかけるほどではない。


 それよりなにより、音羽(おとは)木綿花(ゆうか)都久詩(つくし)たちを危険にさらすことなんてできるはずがない。


 いくじがないのう、心の声さんにはそう言われそうだ。


 虫の声は聞こえず、強い風が吹くこともない。そんな魔巌洞(ダンジョン)内の草原の夜空に、大きな丸い月が浮かんでいた。



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