68.やっぱり面倒ごと
ゴブリンのボスが砂になって崩れた後も、その巨大ハンマーは崩れることなく、その場に落ちて残っていた。
――巨大ハンマー 桁違いの威力がある鈍器
新が持ち上げてみると、今まで使っていた巨大棍棒の数倍重たい上に、頑丈そうな作りをしている。
「こっちの方がいいかも、交換しようかな」
そう口に出した途端に、なぜか巨大ハンマーは煙のようになって、巨大棍棒に吸い込まれるようにして消えてしまった。
途端にグッと重たさを増す巨大棍棒。
「え? 今の何? どうしたの?」
「なんだかハンマーが棍棒に食べられちゃったみたい……」
何が起こったのか意味不明だけど、巨大ハンマーと巨大棍棒が合体して一つになった模様。巨大棍棒の肌つやというかなんというか、少し黒光りが増して強さが増えたようにも見える。
「不思議だけど、まあ強くなったならそれでいいかなぁ」
「新がそれでいいならいいけど、それ、大丈夫なの?」
正直分からん。でも受け入れるしか無さげ。
草むらでの戦いになったので、ビー玉がどこに落ちているのか探すのは一苦労だ。夕日が沈もうとしているので、どんどん周囲が暗くなってくる。砦がまだ燃え続けているので暗闇にはなっていないけれど、ビー玉を全部拾いきるのは難しそうだ。
周囲が暗さを増していく中で、遠くの方で人影が動いているのが見えた。ゴブリンかな? いや、どうやら人間のようにも見える。こちらに近づいてくるような気がするけれどどうなんだろう?
「面倒くさいのが来たぞ」
「十人以上いるわね、いや、追われているのかな?」
気のせいかもしれないけど、追いかけられて何人かがこちらに逃げてきている。
いや気のせいじゃない。逃げてくるのは女子生徒、それが真っすぐこっちに走ってくる。鑑定によれば三年生の模様。それを追いかけているのは三年生と二年生の男子たちが十人以上だ。
これって完全に擦り付けだよね。何があったのか、おおよそ見当がつくけれど、だからって一年生に向かって逃げて来るなんて。
東の拠点近くに来ると何かあるとは思っていたけれど、やっぱり面倒臭いことに巻き込まれたみたいだ。
「これがゲームだったら、完全にトレインで迷惑プレイよね」
「どうしましょう? 今からでも走って逃げましょうか?」
「そうしたいところだけど、余計に面倒くさいことにならないかな」
人間って自分勝手に恨んで、陰で姑息な嫌がらせをしてくるものだし。
追って来る方だけでなく、逃げてくる方も、新にとってはどっちも敵だ。
春陽と穂乃香、あの双子が面倒を見ていた二年生の女子たちの姿が思い出される。自分勝手で厚かましく、他人に寄生する気満々の人々。その姿がどうしても、逃げてくる女子生徒たちと重なる。
この学校がそうさせている部分はもちろんある。でもそれだけじゃない。彼女たち自身が自分で判断してそうしているのだから。
音羽と木綿花、そして都久詩も、女子生徒たちを助けたいという思いはある。でも新がまったくそう思っていないことも同時に感じている。そしてその理由も理解できる。
三人の中でも、特に音羽と木綿花は、あの時新に助けられていなければ、今はもう生きてはいない。だから余計に、こういう時に新に意見するのは憚られるのだ。
都久詩は二人とはちょっと違って命を助けられたわけではない。最初は日本刀を貰った、ただそれだけだった。幼いころから剣術を習っていた彼女にとってそれは極めて大きかった、でもそれは本当にそれだけのことだったのだ。
後で話を聞いたところ、都久詩が参加してすぐに日本刀、そして都久詩サイズのビキニアーマーがドロップしたのだと言う。そんなことがあり得るのか。新が魔巌洞のアイテムドロップを制御しているんじゃないのか。
その疑いは春陽と穂乃香、朝霞姉妹が参加した時にさらに大きくなった。この二人にもピッタリサイズのビキニアーマーがドロップしたのだ。
疑い、いやもう確定と言っても良い。新には何か大きな力が宿っていて、それが彼女たち三人を守ってくれているのだ。
武技を覚えた時もそう。体の奥から何か不思議な力が湧きだしてきた。その暖かさ、力強さはどこか彼の匂いがするような気がした。彼が力を分け与えてくれている、そう思って間違いない。
新はなんだかんだ、面倒くさいと言いながらも逃げてくる四人を受け入れるだろう。問題は彼女たちの態度。それを当たり前だと感じているようならば、斬り捨てなければいけない。それが都久詩の思い。
そしてそれは、音羽と木綿花にも共通する思いだった。
「た、たすけて! お願い!」
ついに四人の三年女子生徒たちが、新たちのところにたどり着いた。ほぼ全力で走ってきたのだろう、四人とも激しく息を切らしている。
そして彼女たちを追いかけてきた男子たち。
とてもじゃないけど、無事にすむとは思えない。




