67.地獄の炎
夕方になる頃、特別講習の受講者たちは、一部の例外を除いて第弐拠点に集結していた。
魔巌洞の中で夕方というのも変な話だけれど、太陽がしっかり西に傾いて夕焼け空になっているので、これはもう夕方と呼ぶしかない。
丸木小屋の中には、襲撃者の三年生が二十人、そしてその相手をしている女子生徒が五人。
壁際には、成績不良の三年生男子が八人と二年生男子が六人、並んで正座させられていた。
「これ、女の子たちが持たないよ」
「五人しかいないからなぁ」
ずっと襲撃者たちの相手をしている女子生徒たちは、もう疲労困憊して息絶え絶えだ。
「キミたちって、ほんと酷いなぁ。頑張ってる女の子たちを助けようとは思わないのかね?」
「助けると言われても……」
襲撃者の一人が正座の男子たちを馬鹿にしたような顔で言う。正座組からすれば、女の子たちを何とかしてやりたいのは山々だけれど、襲撃者に逆らう事なんてできない。
「頭が悪いのかな? まだ女子は七人いるはずだろ? そいつらがここに来れば、この子だって休めるようになるとは思わないのかね?」
あくまでも馬鹿にしたような言い方をする襲撃者。つまり他にもいるはずの女子生徒を探し出して連れて来い、そう言っているのだ。
「そんなことを言われましても……」
「残りは三年生が四人と、後は一年生だ。戦力的には充分だろうがよ」
反対の声を上げようとしても、すぐにつぶされてしまう。
「早く行って助けてやらないと駄目だろうが。外はゴブリンが湧いてるんだからな」
「女の子はちゃんと傷つけずに助けて来いよ? そうすればお前らだって仲間に入れてやるし、飯も食わせてやるぜ」
行けと言われれば行くしかない。
「あの、行く前に何か食べさせてください、もう俺たち腹が減って腹が減って……」
「阿呆か! 働かざる者、食うべからずだ! 何か食いたいなら、しっかり働いて来い!」
外には高レベルのゴブリンがウジャウジャいるらしい。おそらく残りの女子たちは、どこかの拠点の近くに隠れ潜んでいるに違いない。そうじゃなければ、今頃ゴブリンたちの餌食になっているか。
拠点から放り出された三年生八人と二年生六人は、茜色に染まったダンジョンの中へと、女子生徒を求めて走り出した。
女は無理でも食い物だけは手に入るだろう、それだけを信じて。
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新たちは草原の北にあった最初の砦の後、西、南と順番にゴブリンたちの砦を叩き潰していた。
敵とのレベル差はあるけれど、強さはほとんど感じない。新たちのレベルもあれからは一つも上がっていなかった。
「敵とのレベル差と貰える経験値ってあんまり関係ないみたいだね」
「強さ、ともちゃんと連動していない気がしますし、何か別の条件があるんでしょうか」
経験値とレベルの関係はよくわからない。ただし、敵を倒さないとレベルは上がらない、これだけははっきりしている。
「次は東の砦だね、そろそろレベルが上がって欲しいとこだ」
「拠点に近いわね。生徒同士の争いに巻き込まれなきゃいいんだけど」
「もしも襲ってくるなら、それはゴブリンですよ。遠慮なく叩き潰しましょう」
「うん、ゴブリンの首を斬るのはボクに任せて!」
木綿花と都久詩の殺意が非常に高い様子。とは言っても新だって音羽だって、二人の考えに反対しているわけではない。
見たら斬る、とまでは考えていないけれど、襲い掛かって来るなら遠慮は無用だ。そして戦うことになったら確実に仕留めた方がいい。
東のゴブリン砦はすぐに見つかった。相変わらずの丸太づくりで頑丈そうに見えるけれど、火に対しては脆いことは分かっている。木綿花の炎で簡単に落とせるはずだ。
草むらに潜みながらゆっくりと近づく。槍を持った門番が二匹いる、これも今まで通り。ただ少し違っていたのは、櫓の上に見張りのゴブリンがいたことだ。
ピューーッ! ピューーッ!
ホイッスルの鋭い音が周囲に響いた。
「うわ、見つかった!」
「中からどんどん出て来るわよ」
見張りなんていないものだと完全に舐めていたのが悪かった。
砦から出てくるゴブリンたちと草むらの中で戦う羽目になってしまった。ゴブリンの背丈は低い。隠れようと思っていなくても、どうしても草むらの中に埋もれてしまって戦いにくいのだ。
こちらは反対に、草に足を取られて機動力が下がってしまう。草原の中はゴブリン有利な戦場と言える。
「いざとなったら燃やしますね」
「頼んだ!」
草原が火事になると大変なことになるかも知れない。それでもゴブリンたちになぶり殺しにされるよりははるかにマシだ。魔巌洞の草原にはあまり風は吹いていない。これなら大火事にならない可能性だってある。
ザシュッ!
殺到してきたゴブリンの先陣の首が飛んだ。相変わらずの都久詩の剣技。
「ちょっと硬いかも!」
音羽が数匹のゴブリンを相手取って格闘戦を始めた。
「ホント、他の砦より、ちょっと手強いわ」
そう言いながらも確実にゴブリンを吹き飛ばしていく。
二人だけに任せておくわけにはいかない。新も前に出てゴブリンたちの中に飛び込んだ。巨大棍棒を全力で振り抜こうとすると、小さな盾で受けられた。しかしそのまま気合で、ゴブリンごと吹き飛ばすように振り抜く。
確かにちょっとだけ強い。でもゴブリンはゴブリンだ。
新たちの正面、ゴブリンの砦に火がついた。火はどんどん勢いを増して、夕焼けの空と区別がつかないほど、視界が地獄のように真っ赤に染まる。
中から飛び出てきたのは、人の背丈を越えるほどの巨大ゴブリン。巨大なハンマーを両手で支えている。あんなもので殴られたらペチャンコになってしまうに違いない。
これまでは木綿花の炎で焼き殺してきた砦のボス敵だ。どんなパワーを秘めているのか分からない。新はボスゴブリンを止めるべく、さらに前へと突き進む、
「グワオオオオッ!」
ボスゴブリンが新の方に振り向いて叫び声を上げた。一騎打ちしたいというのか? 望むところだ。
新もボスゴブリンを強く睨みつける。と同時に、ボスゴブリンが崩れるように倒れた。
あれ?
背を低くしてボスゴブリンに近づいた都久詩が、片足を切り飛ばしていた。
いつの間に……恐ろしい子!
ボスゴブリンが倒れたあとはただの殲滅戦だ。ゴブリンたちを切り倒し、なぎ倒し、砦を炎で焼き尽くす。
もしかしたら苦戦するかもと思えたけれど、終わってみればなんてことはない。あっけなくゴブリンたちは全滅していた。




