60.補講
翌日はあいにくの雨だった。少し肌寒い感じがする。
まあ、春だからね。こうして雨が降って少し冷えて、また雨が降って少し暖かくなる。それを繰り返してどんどん夏に向かっていくのだ。
「新、魔巌洞はどんな感じ? 第三階層なんだろ?」
「やっと安定して戦えるようになってきたかなってとこ」
最初はどうなる事かと思っていたけれど、みんなが武技を覚えたことで、戦闘力は充分、敵をあまり逃がすことなく戦えるようになってきている。
「それはすごいな。こっちはまだ第一階層でうろうろしてるってのに」
「ただ敵が足りなくてね、レベルは上がらなかったよ。武士はどうだった?」
「こっちも同じだ。全員がそれなりに戦えるようになってきたんだけどな。敵が少ないのはどうにもしょうがないさ」
安定して戦えるからと言って、すぐにレベルが上がるわけじゃない。それなりの数の敵を倒さないとレベルは上がってくれないのだ。
強いボスを倒すという手もあるけれど、それにはどうしても命がけの危険がつきものになってしまう。安全を考えたらあまり無理をするべきじゃない。
離れたところの、誰も座っていない空いている席を見る。志郎の席だ。今日も一人、授業を休んで魔巌洞でレベル上げを頑張っているんだろう。
この真神原塾社はダンジョン攻略を学ぶための特別な高等専門学校だ。ちゃんと授業もあるし試験だってあるけれど、そこで赤点を取っても落第なんてことはない。魔巌洞の階層を進みさえすれば、何も問題なく進級できるシステムだ。
というよりも、魔巌洞を踏破することだけが求められていると考えたほうがいい。レベルを上げるためという正当な理由があるならば、いくらでも授業を欠席することだってできるのだ。
「まだノルマは緩いし、そこまで気合を入れなくてもいいと思うけどなぁ」
この学校は前期・後期制になっている。一年生の場合、前期で第二階層突破、後期には第四階層突破が必須とされている。二年生になれば前期に第六二階層、後期に第八階層突破と、半年で二階層進めていく必要がある。
突破できなくてもすぐに落第することはないそうだけど、その代わりにトラウマになりそうなほど過酷な補講が課せられてしまうという話。
新たちのすでに第三階層に入っているし、レベルだって第七階層の推奨レベルに到達している。将来は分からないけれど、今はまだ授業を休んでまで魔巌洞に入り浸る必要はない。安心していて大丈夫だ。
しかし昼休み前のホームルームの時間に、担任の夏草先生からとんでもない言葉が飛び出した。
「……坂江、不知火、鳴神、若草、以上四名は明日からの特別魔巌洞講習を受講するように」
え? 夏草先生? 今なんて言ったの?
補講や特別講習は成績不良者に課されるものだ。学期末に行われることもあれば、今回のように抜き打ちで行われることもある。
それにしてもまだ四月だ。まだノルマが課されていない一年生が対象になるなんて前代未聞じゃなかろうか。
何より新たちは第三階層を攻略中なのだ。成績不良者扱いされるいわれなんてどこにもない。
「先生、ちょっとどういうことなのか説明してくださいっ!」
ホームルームが終わるとすぐに、新たち四人は夏草先生の所に詰めかけた。どう考えたって特別講習を受けなければならないような成績じゃないはずなのだ。
「う~ん、それじゃ君たち、学生証を出してくれるかな?」
「学生証?」
よく分からないけれど、言われるがままに学生証を出して見せる。
「ほら、君たちの学生証には職業もレベルも、それに到達階層も表記されていないじゃないの。魔巌洞に入っていればしっかりと表示されているはずです。そのことは入学式の後、ちゃんと説明しましたよね?」
「え? なんですか、それ……」
レベルや階層が学生証に表示されるだって?
新には、そんな説明を聞いた記憶が一切ない。聞き逃しただけかと思って音羽たち三人の方を見たけれど、三人とも首を横に振っている。
さては夏草先生、説明するのを忘れたな?
「君たちがまじめに聞いてなかったのは分かりました。それでも魔巌洞攻略を進めていれば、レベルと階層は表示されているはずです」
「いや、そんなはずはないです。私たちは第三階層まで……」
「そうだよ、おかしいよっ!」
「いいえ、魔巌洞に入った時に階層が自動的に記録されて表示されるシステムです。何も表示されないだなんて、あまりにサボりすぎですよ?」
「システムがバグってるんじゃないでしょうか、ちゃんと調べて貰えませんか?」
「システムのバグはあるかもしれませんね。だからといって今回の特別講習は免除されません。特別講習を受けて、それからは真面目に魔巌洞攻略を行うようにしてくださいね」
抗議をしてみたものの全く相手にされず、新たち四人は特別講習を受けなければならない事になってしまった。
一体何がどうなっているんだろう。




