59.掛け違い
新たちが魔巌洞の|第三階層を攻略していた、ちょうど同じ頃。
同じ一年辰組、青雲志郎が率いる男子一人と女子三人の四人組グループは第一階層を抜け、第二階層へと突入していた。
「志郎くん……、私たちまだレベル二になったばかりだけど、危なくない?」
「心配しなくても大丈夫。敵の数は増えるけど、強さは変わらないから」
女生徒たちは不安そうな表情を浮かべているけれど、ソロでこの階層に籠っている志郎はそんなことはまったくお構いなしだ。
さすがに日曜日なだけあって、魔巌洞の中は人でいっぱいだ。見た感じ、おそらく同じ一年生だろう。みんな志郎たちと同じように、制服の紺ブレザーの上から簡易防具を身に着けて、棍棒を手にしている。
せっかく見つけてあった狩場も、他のクラスの一年生グループに占拠されてる。志郎は神経質そうに眼鏡を指で上げると、軽く舌打ちをした。
「このあたりは人が多いから、敵の取り合いになって効率が上がらないね。もう少し奥に行くよ」
仲間の女生徒たちの返事も待たずに、どんどん先へと進んでいく。
魔巌洞の第二階層は、第一階層と同じで洞窟型の構造になっている。洞窟といっても自然の洞穴や鍾乳洞といった感じではなくて、人間の手で掘られた広いトンネルといった感じだ。
天井は高く、うっすらと明かりが灯っている。話に聞いたところ電灯じゃなくて魔法の光なので、特にエネルギー不要で光り続けるのだとか。それならあの天井板を引っ剥がして持って帰れば、電力問題は解決するかというとそうはいかない。天井から切り取った瞬間に光は消えてしまうそうだ。
「こんな奥まで来て無事に帰れるのかな……」
「時間が来れば勝手に戻れるんだから、何も心配はいらないって」
魔巌洞探索は命がけだなんて言うけれど、この辺りの階層では滅多なことじゃ命を落とすどころか、大怪我すらすることはない。
出てくる敵は弱小のゴブリン、それも同時に出るのは数匹だけ。それもほとんどの場合は武器も鎧も身に着けていない。この学校、真神原塾社の制服は簡易防具になっているので、ゴブリン程度の力ではよっぽどのことでもない限り、何の心配もいらないのだ。
志郎たちのグループはさらに奥へと進み、他には人がいない、四つ角になっている場所に陣取った。
「まずは俺一人で戦う。レベルが十分上がったら手伝ってくれ」
毎日のように授業をサボってレベル上げをしていた志郎は、今では初心者レベル五まで上がっている。今の時期、一年生の中では恐らくトップクラスと言ってもいいだろう。
実際のところ、ソロならもう第三階層で狩りを始めているぐらい。第二階層ごとき楽勝だ。
どれぐらいのレベルでその階層に挑戦するのが適切なのか、学校が決めた推奨レベルというものがある。
第二階層はレベル四以上、第三階層はレベル八以上、という風に決まっているのだけれど、ぶっちゃけこの推奨レベルは安全マージンを取りすぎている。なぜなら第三階層までは出てくる敵はゴブリンだけ、階層が進んでもその数が増えていくだけなのだ。
十分倒しきれるだけの攻撃力があるなら、どんどん階層を上げていくのが鉄則。
完全に囲まれて動きが取れなくなるようならば別だけど、そうじゃなければ第三階層まで進んだ方がはるかに効率よくレベル上げできるのだ。
「敵を倒すのが遅れることはあるけど、走り回ったりしないでね。その場で棍棒を振り回してればいいから」
志郎はそう言い残すと、三人の女生徒たちをその場に残して敵を求めて近場を巡回し始めた。
その頭の中に浮かんでいるのは残してきた三人ではない。モブ顔の男子とグループを組んでいる別の二人の美少女の姿だ。
「あのクソモブ、俺様に残り物を押し付けやがって」
武士はグループの女生徒たちに、マンツーマンで手取り足取り戦い方を教えているらしい。もしもあの二人が一緒のグループだったとしたら、志郎だって間違いなくそうしていただろう。
鳴神音羽、そして坂江木綿花。そんじゃそこらのグラビアアイドルを越える美貌、そして肢体。本来だったら志郎のモノになっていたはずの二人を横から盗んでいったモブ。
あの美女たちをなんとしても奪い返さなければいけない。
「今に見ていろよ、クソビッチどもめ。誰が本当のご主人様なのか、その体にしっかりと教えてやるからな」
最終的には決闘になるだろう。ならばその掛け金として今いる三人は確実にキープしておく必要がある。
志郎は昏い瞳を血走らせながら、敵を探して魔巌洞探索を続ける。
志郎グループの女生徒たち三人は、魔巌洞の中でただ身を寄せ合っていた。
理屈は理解できる。でも置いていかれた方からしたらたまったものじゃない。まだ魔巌洞での戦いに慣れていないし、自分たちだけで戦える、そんな自信は全く持ってない。
本当に大丈夫なのか、そのまま捨てていかれるんじゃないか、そんな不安で心がいっぱいになってしまうのも無理な話じゃない。
そして志郎への反発が生まれるのにも、そんなに長い時間は必要なかった。
「志郎くんって、私たちのことなんてどうでもいいと思ってるとこあるよね」
「ガチャ失敗した感あるわ」
志郎が見えなくなった後、彼女たちの口からあふれ出た愚痴は聞くに堪えないものだった。
レベルアップ酔いとやらで魔巌洞内で突然ぶっ倒れたり、体育の持久走で完走できなかったり、志郎はクラスの男子三人の中で一番弱っちい疑惑がある。
それはそうだ。しかし、そもそも自立しようとせず、強い男子にぶら下がろうと思ってる時点で彼女たちだって終わっている。
もしも彼女たちがそれを反省するような人間だったとしたら、そもそも自分たちで戦って道を切り開き始めているのだから、どっちが悪いとも言えない話だ。
どっちもどっちな四人組は、グループ崩壊の危機をゆっくりと、しかし確実に育てていく。




