06.第零階層のボス
時々出てくるゴブリンを叩き潰しながら横穴をさらに進んでいくと、大きめの部屋のような場所に出た。
部屋の中央には宝箱のような物が置いてあって、その上には人と同じくらいの背丈がありそうな大きなゴブリンが座っている。
巨大な棍棒を手にして、鎧まで着こんでいる。なんだかとっても偉そうだ。
「手ごわそうな敵ね」
「もしかしたらこの階層のボスでしょうか」
ボスまでいるのか。どこまでもRPGのような洞窟だ。
「どうする? このまま挑戦するか、それとも一度戻ってもう少しレベルを上げるか」
「レベル上げした方が良さそうね」
「私も賛成です。死んじゃったら終わりですから」
そう、なんとなくRPGみたいではあるけれど、ここは現実世界。死に戻りして何度もゾンビアタックすることなんてできない。安全策を取った方がいいに決まってる。
元来た道を引き返し、例の横穴から飛び降りる。天井は緑の卵でいっぱいだ。
「どうやら復活したみたいね」
「好都合だな」
制限時間いっぱいまでゴブリンを叩き潰し、またダンジョンに入り直してゴブリンを叩き潰す。
何度も何度も繰り返していると、そのうちゴブリンを倒しても、あの強くなる感覚がしなくなった。何往復もしたのでポケットの中はビー玉でいっぱいだ。
「どうする? そろそろ行ってみる?」
「そうね。多分これ以上レベルは上がらない感じがするわね」
「ちょっと怖いですけど挑戦してみましょう」
例の横穴に来ると、音羽はひょいッと跳び上がって一人で登り切ってしまった。
「レベル上げの効果ってすごいね、軽く登れちゃった」
木綿花の方は先ほどと同じく、肩車から押し上げ、引っ張り上げだ。レベルが上がってもどんくさいのは治らない模様。
もちろん新も軽く登って、そのまま三人でボスの部屋まで進む。
部屋を覗いてみると、やっぱり巨大なゴブリンはそこにいる。消えたりしてない。
「ねえ、宝箱が二つに増えてない?」
「なんだかお得ですね」
一度ダンジョンから外に出て戻ると、地形は変わっていないけれど敵が消えたり復活したりする。時には宝箱が増えることもあるらしい。無くなっちゃうことだってあるかもしれない。
「それじゃ僕が先に行くね。様子を見て、行けそうなら後から来て」
「分かったわ」
「お願いします」
新は棍棒を右手に、しずしずと部屋の中を進む。
最初は座ったまま、それを興味深そうに眺めていた巨大ゴブリンだったけれど、残忍そうな笑みを醜い顔いっぱいに浮かべると、落ち着いた様子で徐に立ち上がった。
クワッ!
音になって聞こえた気がするくらい両目を大きく開くと、巨大な棍棒を強く握りしめて振り上げる。そして深くしゃがみ込むと……消えた。
「上ですっ!」
跳び上がった巨大ゴブリンが新目掛けて落ちてくる。
ズガーンッ!
さっきまで新が立っていた地面に、力いっぱい振り下ろされた棍棒が地響きを立てる。
大穴が空いていた。
なんてパワーだ。あんなの食らったら中身が出るどころか粉々になっちゃうよ。
巨大ゴブリンは素早く新に向き直ると、一発、そしてもう一発と、棍棒を振り下ろす。そのたびに大きな音と振動が地面から伝わってくる。
当たらなければどうってことはない。
そんな言葉が浮かんできたけれど、実際はそうでもない模様。砂ぼこりが舞って視界は悪くなるし、棍棒が地面に叩きつけられるたびに石が飛んできて地味に痛い。
それに床が穴だらけにされてしまうと、おそらくだけど、避け続けるのは無理になりそうだ。
呑気にそんなことを考えていたのは、新にそれだけ余裕があったから。かなりピンチに見えるかも知れないけど、実際はそうでもないってこと。
巨大ゴブリンの棍棒攻撃は威力だけは大きいけれど、大ぶりな上に単調で、避けるのはそんなに難しくない。
それより何より、心の声さんが何も言ってこない。
じゃあそろそろ行ってみてもいいかな。
ズガーンッ!
大振りの攻撃をサッと右に避け、下がった頭に向けて棍棒を思いっきり振り抜いた。こめかみに一発もらった巨大ゴブリンの体がグラッと揺れる。
そこにすかさずもう一発。今度は延髄に決まった。さらにふらつく巨大ゴブリン、すぐには立ち上がれない様子。
追加で一発、そしてもう一発と延髄に棍棒を叩きこむ。我慢できずについに膝をついた。それでもお構いなしに一発、そして一発と、全力で棍棒をお見舞いする。
耐えきれなくなった巨大ゴブリンはとうとう床に転がった。その太い腕から巨大な棍棒が零れ落ちる。そして手足をピクピク痙攣させて泡を吹き始めた。もう終わりだ。
気づいたら音羽と木綿花もしっかり駆け寄ってきていて、まるでペッタンペッタンお餅をつくように巨大ゴブリンに棍棒を叩きつけていらっしゃった。
「大きいだけじゃなくて、とっても硬いわ」
「こんなの疲れちゃいますよ」
弱っている者にはすかさず攻撃する、その態度は見習わざるを得ない。
そうしてしばらく殴り続けていると、ごきっ! と一発いいのが入った。巨大ゴブリンの体が砂のように崩れ始めた。
あの体の奥から力があふれてくる感覚がやってくる。
残されたのは大きめのビー玉、巨大で頑丈そうな棍棒、そして二つの宝箱。
「宝箱の中身、楽しみですね!」
「うん、開けてみよう」
「ちょっと待って! 罠があるかも!」
「え?」
音羽が注意したのは、木綿花が宝箱を開けてしまった、その後だった。




