05.レベル上げ
「ありがとう、新。助かったわ」
「私たちももう少し戦えるようにならないと駄目ですね」
なんとなくだけど、囮になって散っていったチンピラ四人組のことなんて、完全に忘れておられるような気がする。まあ覚えていてもしょうがない。そもそも名前も知らない、どこの誰ともわからない相手だ。
他人なんてどうせそんなもんだ。親戚だってそんなもんだ。他人の物を騙して奪い取って去っていくだけの存在だ。
ゴブリンに引っかかれて、ズタズタのボロボロになっていた二人のプリーツスカートも、完全に新品同様に戻っている。何度体験してもこれには驚かされる。
「どうしよう。もう一回、する?」
「ちょっと腰が持たないかも。少しだけ休憩しませんか?」
確かにかなり敵が多かった。頑張りすぎたかも知れない。
「へへへ、よお兄弟、お楽しみみたいだな」
「俺たちも混ぜてくれよ。一緒に楽しい事しようぜ」
新しいチンピラ四人組が現れた。良く分からないけど、なんだかとっても既視感だ。
今回のリーダーは出っ歯らしい。でも後ろの方にちゃんとプリン頭もいるから安心。
「楽しいかどうかは、僕には分からないよ?」
「ちゃんと戦えるなら来てくれても構わないけど」
「私はやっぱりあんまり……」
〈♪~〉
何となくだけど、心の声さんは嬉しそうなご様子。やっぱりプチッとするのが楽しいのかも。
「もちろん戦えるぜ、なあ?」
「マッサージも得意だぜ」
そんなこんなで新しいチンピラ四人組と一緒に、もう一度魔巌洞の門をくぐる。設定は前回と同じ三十分だ。
魔巌洞に入って天井に卵が鈴なりになっていることを確認する。うん、ちゃんと復活してる。偉いぞ。
「うわ~助けてくれ~」
「くそ、こいつら、どっか行け!」
「お母ちゃーんっ」
一瞬のうちに生まれたてのゴブリンに飲み込まれて消えていく新チンピラ四人組。
ぱこっ、ぱこっ、ぱこっ!
順調にゴブリンたちを叩き潰していく。
気が付くと、いつの間にか音羽だけでなく、木綿花までパコパコ祭りに参加しておられた。
ビー玉を拾い集めて、時間切れを待って外へ。
「もう一回するよね?」
「ええ、行きましょう」
周囲を眺める。どうやらチンピラは打ち止めの模様。
〈ちっ〉
心の声さんの舌打ち、初めて聞いたよ……。
「少し時間を伸ばそうか」
「そうね、いいと思うわ」
というわけで一時間に設定してもう一度魔巌洞の中に突入だ。
残念ながら、今回は天井の卵は無かった。復活したりしなかったり、どうも魔巌洞のルールが良く分からない。もしかしたら餌として男子生徒が必要なのかも。
まさかね。
そのまま周囲だけでなく、天井の様子も確認しながら洞窟を奥へと進んでいく。相変わらず暗くて曲がりくねっているし、生ぬるいような空気が漂っている。
「かなりレベルが上がってる気がするんだけど、見る方法って無いのかな?」
「多分あると思うけど、私は知らないわ」
「早く知りたい気持ちもありますけど、方法を教えてもらうまでのお楽しみにしておきましょうよ」
最初はあんなに震えていた二人だったのに、今ではお気楽ハイキング状態になっている。あんまり舐めプしていると危険な気もするけれど、その辺りは自分で考えて行動してもらいたい。女子に指摘するのは面倒なので。
洞窟は細くなったり太くなったり、急な上り坂になったり崖のような下り坂になったりしながら、奥へ奥へと続いていく。
「え? 行き止まり?」
「いえ、ほら、上に通れそうなところがありますよ」
木綿花の指さしたところ、ちょうど人の頭よりちょっと高い場所に、人が十分入れるような横穴が空いていた。
岩壁はヌルヌルして滑りやすいけれど、手掛かり足掛かりもしっかりしていて頑張れば登れそうな気がする。
「私が最初に行ってみるわね」
音羽はそう言い残すと、岩壁に張り付くようにしてするすると……は登れなかった。
「何よこれ、ヌルヌル滑って登れやしないじゃない」
岩壁を睨みつけているけれど、そいつは反省したりしないと思うんだ。
「肩車で何とかなりませんか?」
「やってみようか」
新は壁に向かってしゃがみ込むと、音羽に肩の上に乗ってもらう。
「絶対上を見ないでよ?」
「……ごめん、無理」
覗きたいのを我慢できないというよりも、どうしたって見えてしまうものは避けられない。
「ああもう! 見えちゃうのは仕方ないから我慢するけど、触るのは絶対ナシだからね!」
「善処します」
音羽がしっかり肩の上で立ったのを見計らって、新もゆっくりと立ち上がる。音羽はひょいっと肩から横穴へ飛び移ると、そのまま穴の中に消えていった。
「大丈夫、敵はいないわ。次は木綿花ね」
同じことの繰り返しで済むかと思ったけれど、木綿花は音羽に比べてかなりどんくさくて、なかなか新の肩の上で立つことができないでいる。
「きゃっ!」
滑り落ちてしまった。
立つのは諦めて新の首にまたがってもらう。すると今度は柔らかくていい薫りのものに挟まれて、新が立てなくなってしまう。
「もう、二人とも、何やってるのよ」
それでも頑張って、上から引っ張り下から押し上げ、なんとか木綿花を横穴に届けることに成功した。
とても素晴らしかったと思うけれど、それも不可抗力。そんなに睨まないで。
最後は新。邪魔になりそうな棍棒を先に上に放り上げてから壁に挑む。
「うわわっ! これほんとにヌルヌルしてて登れないね」
「でしょ? どうする? 引っ張り上げる?」
「いや、ちょっと待って」
助走をつけて跳び上がってみると、なんとか自力で上まで這い上がる事ができた。
「その手があったかぁ」
「やっぱり男の子ですね」
あとから考えてみると、引っ張ってもらった方が合法的に二人と手をつなげて、かなりお得だったのではなかろうか。
あれ、自分ってこんな性格だった?
さっきからなんだかちょっと変な気がする。自分はもっと疑い深くて、他人と関わり合いになるのを嫌っていたんじゃなかったか。両親を事故で亡くした時からずっと。
いや、考えるのは後にして今は先に進もう、面倒くさいし。
うん、面倒くさい。どうやらこの性格は変わってないようで安心だ。




