04.再挑戦
ニヤケ顔のチンピラ四人組を追いかけるようにして、ふたたび魔巌洞門へと向かう。
「おい、チンタラすんなよ」
プリン頭がやたらと吠えたててくる。
なんでこんなに偉そうなのか。見た目だけじゃなく、頭の中までプリンなんじゃなかろうか。
魔巌洞には潜っていられる時間、つまり制限時間があって、門で設定できるようになっている。
制限時間が来れば強制的に退去させられるというか、制限時間が来るまで絶対に外に出られないというか、まあそういう時間制になっているってこと。
「一時間でいいぞ」
「早漏かよ、二時間たっぷり必要だろ」
「アホか、ちょっとは頭使えよ。ドロドロのまま使うのか? 外に出たらまた新品に戻るんだぞ?」
「ドロドロになるのがいいんだろうが!」
なかなかのオゲレツ紳士さんたちだ。木綿花から表情が無くなって顔が真っ白になっているので、ほどほどにして貰いたい。
もちろん新には彼らに従うつもりはまったくない。制限時間の設定が最短の三十分になっているのを確認してから門を起動する。
魔巌洞の中に入ると、先ほどと同じような洞窟の中だった。
「聞いた通り、同じ場所に出るんだね」
そう、ここは先ほど出た時と同じ場所のはず。もちろん男子生徒たちの遺体やゴブリンたちの死骸は残っていないし、それどころか戦いの痕跡なんて何も残っていない。
ただなんとなく見覚えがあるような岩壁と、床から突き出た岩がいくつか目に留まるだけだ。
「もうちょっと広い所に行こうぜ」
「そうだな。おい、モタモタするな、早くしろ」
チンピラ四人組が奥へと移動を始める。
でも新は足が出なかった。
この先は危険!
そんな圧倒的な危機感のせいで前に進むことができない。
「どうしたの?」
「二人とも絶対に声を出さないで。上を見て」
チンピラたちが進む先の天井を指さす。
そこには尖った岩が一つもない。暗い緑色をした丸い塊で埋め尽くされていた。
「ヒッ!」
木綿花の喉から声にならないような声が漏れた。
あれはおそらく卵。ゴブリンの卵だ。それがびっしりと天井を覆っている。
「ゆっくり僕の後ろに下がって」
音羽と木綿花は声を出さずにコクコクと頷くと、新の言葉通りにゆっくりと後ずさりする。
「おい何してんだよ、早く」
ピシッ!
卵にひびが入るのが見えた。
ピシッ! ピシッ! ピシッ!
天井を埋め尽くした卵に一斉にヒビが入り始めたと思ったら、中から飛び出したゴブリンたちがまるで豪雨のようにチンピラたちの上から降り注いだ。
「うわぁ、なんだっ」
「うぐ、痛てぇ。なんだってんだよ」
さっき見た、上から敵が降って来たのはこれだったのか。
「この、この野郎!」
「だめだこいつら、硬すぎるっ」
駄目だ。これは駄目だ。
逃げるか? 逃げるってどこに? それに女子二人は置いていくのか?
〈臆せずともよい、薙ぎ払え〉
そんな無理を言われても。
〈大丈夫じゃ、妾がついておる〉
ついているって、あなた、心の声じゃないですか。
〈前に出過ぎぬよう気をつけよ〉
それは問題ない。目の前の状況を見て、前に出るバカなんていないから。
チンピラたちからは声すら聞こえてこなくなった。最後まで立っていたプリン頭も、ゴブリンたちに飲み込まれてしまって姿は見えない。
「盾にするからって、盾になる前に全滅してるじゃないですか!」
「そんなこと言われても、こんなのさすがに想像できなかったわよ」
まさかそんな腹黒なことを考えておられたとは。女の子って恐ろしい。
「グゲゲ」「グゲッグゲッ」
薄暗い洞窟に大量の双眼が光る。敵をしとめたゴブリンたちが、新たな獲物を狙っているのだ。獲物、それはもちろん新たち三人に他ならない。
「来るよ」
そんな新の声に合わせるかのように、ゴブリンの集団が襲い掛かってきた。
「倒さなくていいから。落ち着いて追い払って」
声が上ずりそうになるのを押さえながら、ゆっくりはっきり二人に呼びかける。多分だけど、パニックになったら終わる。
〈良い心がけじゃ〉
心の声がこんなに何度も話しかけてくるのは初めてのこと。今の状況はそれだけピンチってことじゃなかろうか。
こうなることが分かってたなら、もっと早く教えてくれればいいのに。あ、もしかしたらチンピラたちにイラっとして、プチってしたくなっちゃった?
〈つきみれば、ちぢにものこそ悲しけれ……〉
心の声さんの言ってることが良く分からない。でも何となくだけど、何が言いたいのかわかるような気がするよ。多分、間違ってるけどね!
飛び掛かってくるゴブリンに棍棒を振り回し、一匹、また一匹と叩き潰していく。そして叩き潰すごとに力がみなぎって来るのが分かる。
ぱこんっ! ぱこんっ! ぱこんっ!
叩き潰しながら時々後ろを振り返る。音羽はかなり安定しているようだけど、木綿花はかなり危なっかしい。それでもまだ取りつかれてもいないし、引きずり倒されてもいない模様。
「もうちょっとだけ耐えててね」
卵から孵ったばかりだからなのか、それとも新のレベルが上がったからなのか、ゴブリンたちは思った以上に柔らかい。
最初は床を埋め尽くすほどだったのに、棍棒を振り回すごとに数を減らしていき、もうほとんど残っていないほどだ。それでも逃げ出すことなく襲い掛かってくる。もしかしたら人間を襲わないと死んじゃう病気なのかもしれない。
ぱこーんっ!
そして最後の一匹を吹き飛ばした。
「ふう……終わった、の?」
「取りあえずね。まだ奥にいるかもしれないけど」
ズタズタに引き裂かれたスカートの隙間から魅惑の太ももを露わにした二人。そんな美少女たちから目をそらして、うごめいているゴブリンにとどめを刺す。そして地面に転がったビー玉を拾い集めていく。
チンピラたちが飲み込まれた辺りには、ちょっと大きめのビー玉と、新たちが使っているのとよく似た棍棒が数本落ちていたので、ありがたく貰っておくことにした。
これ、ドロップアイテムと呼んでいいんだろうか?




