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50.第三階層へ

 昨日水をかぶりまくったせいで熱を出してしまった都久詩(つくし)は、日曜の朝には完全に元通り元気になっていた。


「それは良かった。午前中はゆっくりして、午後から魔巌洞(ダンジョン)に行くことにしようか」

「えええ~っ! そんなの嫌だよ! 今すぐ行こうよっ!」


「そんな無理をして、また熱が出たりしたら大変ですよ?」

「嫌だもんっ! 絶対行くもんっ!」


 午前中は大事を取ってお休みにしたかったんだけど、都久詩(つくし)がどうしても言うことを聞かない。


「だって、新しい階層だよ? 早く行きたいよっ!」

「第二階層はかなり時間がかかっちゃったし、仕方ない、行こうか」



「やった! (あらた)大好きっ! あ、痛い!」


 都久詩(つくし)が飛びついてきて、軽く悲鳴を上げた。


 今朝の(あらた)はいつもの制服姿じゃない。決闘で奪い取った全身鎧を身に着けているのだ。何も考えずに胸に飛び込んだりしたら、硬い鉄板に抱きつくようなもの。そりゃ痛いに決まってる。


 両手は丈夫な篭手に覆われているので、頭を撫でるのも遠慮しておく。全身鎧のおかげで、ある意味では楽しみが減ったと言えるけれど、これで過剰なスキンシップに怯える必要もなさそうだ。


(あらた)が手ごわくなったわね」

「ええ、これは作戦を見直す必要がありそうです」


 音羽(おとは)木綿花(ゆうか)がコソコソ何かを話し合っているようだけど、ケンカでは無さそうだし特に問題はないよね。



 そんなこんなで(あらた)たちは朝食をすませると魔巌洞(ダンジョン)の第三階層に入場(ゲート)までやって来ていた。


「うわ、すごい人だよ!」

「日曜の朝だから、混んでても仕方ないわよ」


 これまでにも混んでいることはあったけど、今朝はいつにも増して魔巌洞(ダンジョン)前は生徒たちでごったがえしている。順番待ちの列は結構長い。中に入るまで少し時間がかかりそうだ。


 列の一番後ろに並んでいると、辺りから冷たい視線が降りそそぐ。


 美少女が三人もいるからね、彼女たちに男子生徒からの粘っこい視線が集中するのは当然だ。同じく女子生徒からの嫉妬を帯びた冷たい視線も当然。


 さらに言うと、そんな美少女たちと一緒にいる(あらた)に、男子生徒からの殺意が込められた視線が飛んでくるのも当然。ここまでは慣れたもの。


 でもなんだかちょっと変だ。


 なぜか(あらた)に向かって女子生徒たちからも怒りの視線が飛んでくるのだ。こんなの初めてのことだ。ちっとも身に覚えはないんだけど……。


「自分だけあんな立派な鎧を着ちゃって。仲間の女の子は制服のままなんて」

「女の子はゴミ扱い。男なんてそんなものだけど、あれはないわよね」

「女の敵」


 耳を澄ませるまでもなく、彼女たちからの聞えよがしの悪口が耳に飛び込んでくる。


 なるほど、見た目はその通りだった。


 全身をまだ真新しい鎧に包まれた(あらた)に対して、音羽おとはが手足に鎧を身に着けている他は、グループの女子三人は制服の上から簡易防具を身に着けただけ、初期装備のままだ。


 インナーにビキニアーマーを着こんでいることなんて、外からじゃ見えないからねえ。


「外野の声なんて気にしなくていいわよ?」

「その通りです。好きなだけ言わせておけばいいんです」


 音羽(おとは)木綿花(ゆうか)の二人が、左右から(あらた)の腕に抱きついて体を押し付けてくる。


 全身鎧のせいで胸を押し付けられても全然楽しくないし、周囲からの殺意が増えるだけなんで、ほどほどにして欲しい。



 魔巌洞(ダンジョン)に入るための行列は少しづつ進んでいく。


「今回はどうなんでしょう? 単純な地形だといいんですが」

「ループはもうごめんよだよっ!」


 (あらた)もそう願っているけれど、どうなるかは魔巌洞(ダンジョン)次第。できるだけ穏やかなことを祈るしかない。


 やっと順番が回って来て魔巌洞(ダンジョン)に入ると、第二階層のボス、ゴブリン魔女を倒した次の部屋だった。


 後ろの扉は締まっていて、ゴブリン魔女とは戦えないようになっている。そして部屋の中央には大きな魔法陣。おそらく次の階層へ魔法で転送してくれるんだろう。


「それじゃ、行ってみようか」


 心の声さんからも特に反対の声は聞こえない。まずは(あらた)が一人だけで魔法陣の上に乗ってみる。


 すると、魔法陣だけじゃない、部屋全体が明るく光ったと思ったら、四人全員が軽い浮遊感に襲われて暗闇に囚われていた。


「うわわっ、これって転送……だよね?」

「真っ暗で何も見えないですけど、みんなそこにいるんですか?」


 声をかけあってみると、全員が無事なことが分かった。どうやら四人全員が同時に転送されてしまったらしい。



 罠か、と警戒したけれど、特に襲われることはなかった。


 胸ポケットからペンライトを取り出して辺りを照らしてみる。


「なんでしょう、ここ。廃坑道みたいな感じでしょうか?」

「まさかこんな真っ暗な階層があるとは思わなかったわ」


 木綿花(ゆうか)が壁にペンライトの光を向けると、丸木でできた太い柱が壁ぎわに並んでいるのが映し出される。柱の上には、これも丸木で太い(はり)があり、天井板で土が崩れ落ちてくるのを防いでいる。


 この階層は、今までの自然洞窟っぽい感じや、四角い部屋が並んだ感じとは全く違う。はるか昔に廃止された鉱山のようなたたずまいだ。地面の所々に横木が埋められているのは、トロッコのレールのための枕木という設定なんだろうか。


 今までだと壁にぼんやりと光るコケが生えていたんだけど、この階層にはそれがない。各自でペンライトを持ち込んでいるから何とかなっているけれど、それが無ければ真っ暗な中で時間切れを待つ以外に手が無かっただろう。


「なんだか狭いかも」

「天井も低いね」


 通路は数人が横に並べるだけの広さはあるけれど、自由に武器を振り回すだけの余裕はないっぽい。天井も低くて、ちょっと跳び上がったら手がついてしまうぐらいだ。普通に歩く分には問題がないけれど、武器を振りかぶったらつっかえてしまうだろう。


 素手で戦える音羽(おとは)は別にして、これだけ通路が狭いと(あらた)の巨大棍棒や木綿花(ゆうか)の両手槍は取り回しが困難だ。都久詩(つくし)の日本刀だってかなり動きが制限されてしまうのは間違いない。



 暗さ、そして狭さ。


 まさかこんなことで出鼻をくじかれるとは思ってもいなかった。


「あ~あ、せっかく武技を試そうと思ったのに……」

「ゴブリン魔女を倒した後、ここまで来ておけば良かったねえ」

「急遽お休みにしましたからね」


 ペンライト片手に探索を始めてみたけれど、それだとどうしても片手が塞がってしまう。


「しっかり準備を整えないと、この先は危険な気がするよ」


 魔巌洞(ダンジョン)、本当に根性が悪い。



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