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48.クラブ勧誘

 この学校での活動は、そのほとんどすべてが魔巌洞(ダンジョン)の探索と攻略だ。


 同じぐらいのレベルの生徒たちが、ほとんどの場合が同じ学年や同じクラスの者たちが集まってグループを作る。基本的にはこの『グループ』単位で活動することになるのは当然のこと。


 でもそれだけでは済まない、効率が悪くなってしまうことだって少なくない。例えば攻略のための情報、こういうものは自分たちだけで悩むよりも、先輩に聞けばすぐに手に入る。


 強力な武器や防具だって、先輩の装備を下取りさせてもらえれば手ごろな価格で手に入れられることになる。


 三郎坊先輩によれば、クラブ活動は学年の縦のつながりを作るためのモノらしい。


「僕ら一年生が入っても、先輩たちにはあんまりメリットはないのでは?」

「それがそうでもないのでござるよ。クラブ対抗戦というものがござってな、ランクを上げるためにも強い後輩は歓迎でござる」


 強いクラブはランクが上がり、学校からの支援も厚くなる。そうすれば色々と美味しい思いも出来るのだとか。


「それがしたちの隠密研究部は甲種(上位)クラブでござるし、美少女を上納しろとか、そういう無体なことも一切ござらん。クラブに興味があるなら是非とも検討くだされ」


 三郎坊先輩はそれだけ言うと、手を軽くさっと振った。


 風と共に木の葉が舞い、気づくと目の前にいたはずの先輩の姿が無い。


 そして(あらた)の手には、いつの間にか隠密研究部と書かれたカードが一枚、握られていた。


「隠密研究って、もしかしたら忍術修行みたいなヤツでは?」


 なんとなく面白そうだ。でも、やっぱりやめますと言ったら抜け忍として狩られそうで怖い。



 ~~~~~



 隠密研究部、それは数多くのクラブがひしめくこの学校にあって、長い歴史と伝統を持つ、『八強』と呼ばれる倶楽部(クラブ)のうちの一つである。


 クラブはその強さに応じて、甲種、乙種、丙種、丁種の四段階に分類されているけれど、隠密研究部はもちろんその上位、甲種クラブに分類されていた。甲種ともなれば、部員はもちろん普通科の生徒だけではない。特侵科の生徒も在籍するような特別なクラブでもあった。


 ここはそんな隠密研究部の部室棟、その最奥の部屋。たとえ部員であってもそう簡単には入れない、特侵科専用室の一室。


 普通科三年生の三郎坊は、この部屋の主、秋風(あきかぜ)山吹(やまぶき)に呼び出されていた。


「それで、どうだったのかしら?」

「感触は悪くなかったでござるが、まだクラブというものが理解できておらぬ様子でござった」


「そう……、つまり生意気にも断ってきたということね。そこそこ面白いわ」

「それがしが見たところ、アレはただのモブ。姫が気にされるほどとは思えなかったでござるが……」


 図書館での不埒(ふらち)な行い、その制裁のために下っ端の二年生をけしかけたところ簡単に勝って見せた、そんな新入生。


 いくら見た目がモブ顔だからって、そんな男がただのモブのわけがない。


「しばらく様子を見ましょう。他のクラブに取られないように注意しなさい」

「了解でござる」


 こんなものは青田刈りもいいところ、ただの時間の無駄だ、三郎坊は内心ではそう思う。しかしそれをあまり顔には出さずに、その主に向かって承諾の返事をする。


 特侵科の貴族の気まぐれなど特に珍しいことではないし、大げさに反対しなければならないほど重要な問題でもないのだから。



 ~~~~~



 その頃、武士(たけし)と小柄の女子たち、同級生のグループは、魔巌洞(ダンジョン)の第一階層でゴブリン相手に汗を流していた。


「よいしょっ!」

「うん、上手いぞ! 頑張って!」


 小柄で可愛い女生徒の一人が棍棒に振り回されそうになりながらも、なんとか踏ん張ってゴブリンと戦う。


「きゃあっ!」


 ゴブリンに爪を引っかけられて、女生徒が悲鳴を上げた。


「大丈夫、落ち着いて!」

「頑張れ~!」


 武士(たけし)も、他の女生徒たち三人も応援するだけで手を出さない。今は一対一で戦う練習中なのだ。


 棍棒で殴りつけては時々反撃を受けている。それでも少女は怪我をしていない。この学校、真神原塾社の制服は簡易防具になっている。ゴブリン程度の攻撃では、そう簡単に傷を受ける心配は無いのだ。


 何度も棍棒を叩きつけ、ついにゴブリンは泡を吹いて倒れ、そして砂のように崩れて消えていった。


「やった! 一人で倒せました!」

「よくやった! 偉いぞ」


 武士(たけし)が喜んではしゃぐ少女を抱き寄せて、その頬に軽くキスをした。


「次は私です!」


 そんな様子をうらやましそうに眺めていた別の少女が、気合を入れて前に進み出た。



 武士(たけし)たちのグループでは、すでに五人全員が初心者(ノービス)レベル三まで成長している。もう次の階層に進むのに十分なレベルだと言ってもいい。それでもまだ第一階層に留まっているのは、こうして一対一で戦う練習をするためだ。


 ここ第一階層ではゴブリンは一匹づつしか出てこない。運が悪くて挟み撃ちにあったとしても二匹まで。けれど次の階層に行けば数匹のゴブリンに囲まれる危険性だってある。


 レベルを上げるだけじゃなく、実際にしっかり戦えるだけの技量を身に着ける。それがこのグループのリーダー、武士(たけし)の方針だ。


 他のクラスからは、安全と効率を考えてクラブに入った、なんて話もチラホラ聞こえてくる。でもまだそんな段階じゃないと思っている。



「みんな苦しいだろうけど、一緒に頑張ろうね!」

「うん、大丈夫。これが私たちのためだって分かってるよ」


 入学したての頃は新入生であふれていたこの第一階層も、日が経つにつれてかなり人が減った印象だ。ある程度レベルが上がって、第二階層に移動する人が増えているのが原因だろう。


「無理に進んでも、敵の取り合いになるだけだからなぁ」


 焦る事なんて何もない。ゆっくり確実に進んでいけばいい。


 なんといっても、自分たちの命がかかっているのだから。


 実は効率だって悪くない。人が減って倒されないまま残されるゴブリンが増えたことで、今では一匹倒しきる前に次のゴブリンが出てくることも珍しくなくなっていた。


「あっ! 後ろからゴブリンが来ました!」

「私の番だよっ!」


「前に出ないで、じっくり引き付けてからだからね?」

「うん、分かってる!」


 少女たちも少しづつ戦いに慣れていく。


 やはりこの方法で間違いない、武士(たけし)は自分の判断が正しいと確信していた。



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