表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/54

47.春の風

 第二階層のボス、ゴブリン魔女を無事に討伐した(あらた)たち四人は、食堂で遅めの昼食を取っていた。


 ちなみに何の効果も無いと思われた炎帝の護符(タリスマン)は、購買でそれなりの値段で引き取ってもらえた。


「あのボスの強さ、ほとんど装備の強さだったとは思わなかったわね」

「装備なしだと火の玉だけじゃなくて、瞬間移動も無理みたいでしたから」


 こうして後から思えば、あのゴブリンは装備に振り回されていたんだろう。そうじゃなく、もしもあのゴブリンが装備を使いこなしていたとしたら、何人か死んでいてもおかしくなかったと思う。


 特に都久詩(つくし)が魔法耐性なしで突っ込んでいったアレ、よく無事で済んだと思う。


 その都久詩(つくし)だけど、やはり疲れたのか、いつもと比べてかなりおとなしい。頭を撫でろと押しかけてくるかと思っていたのに、特にそんな感じもない。


 少し顔を赤らめるようにして、時々ふうッと甘い息を漏らしている。少女漫画に出てくる美少女系主人公の真似か何かなんだろうか。


 それともゴブリン魔女の魅了、あの魔法の後遺症? そんな、まさか。



 そこまで想像して、やっと気づいた。


都久詩(つくし)、熱があるんじゃない?」

「ふえ?」


 ふむふむ。どうも反応が鈍い。


 昼食のお盆をさっさと返却して、無理やり保健室に連れていく。


 体温を測ってみるとやっぱりだ。


「完全に風邪ですね」

「様子がおかしい感じはしてたけど、ボス撃破でテンションが上がってるだけかと思ってたわ」


 まだ春先だというのに、頭から冷たい水を何度もかぶって薄暗い魔巌洞(ダンジョン)に潜っていたのだ。それに完治したとはいえ、都久詩(つくし)は大ヤケドまで負ったわけで、体力の限界が来ていたっておかしくない。


「私が寮まで送って、そのまましばらく付き添うわ」

「残念ですけど、午後の魔巌洞(ダンジョン)探索は中止ですね」


「うう~、魔巌洞(ダンジョン)行きたいよぅ……」

「駄目ですよ、熱が下がるまでは禁止です」


 少し心配ではあったけれど、都久詩(つくし)のことは音羽(おとは)に任せることにした。保健室で薬も貰ってあるし、多分大丈夫だろう。


 ……大丈夫だよね?



 午後はガッツリ魔巌洞(ダンジョン)に籠る予定だったのに、やることが無くなってしまった。


木綿花(ゆうか)はどうする?」

「私は図書館でもう少し詳しく『巫子』のことを調べようと思っています。専用の武技や魔法が見つかるかもしれませんから」


 武技か……。あの決闘の時に二年生の戦士から少しだけ見せられた。(あらた)には詳しいことは良く分からないし、なんだか威力のある攻撃、今はまだ、ただそれだけの印象だ。


 木綿花(ゆうか)の巫子だけじゃなく、音羽(おとは)の拳闘士、都久詩(つくし)の剣豪、この辺りの職業なら、もしかしたら凄い武技があるかも。いい機会だから時間があれば一緒に調べてもらえるように頼んでおこう。


「他に用がないなら、(あらた)も一緒に来ませんか?」

「僕はやめておくよ。この前、受付のお姉さんに(しか)られちゃったし」


 せっかくの図書館デートのお誘いだったけど、もしも木綿花(ゆうか)まで目をつけられることになったりしたら、ちょっと困ったことになるからねえ。


 これも全部あの、真っ赤な制服の女子中学生のせいだ。



 図書館の前で木綿花(ゆうか)と別れて、(あらた)は広い真神原塾社の学校構内を目的もなく、ただブラブラ歩き始める。


 この学校は広い。意味もなく広い。それにしても、なんで学校の中に森があったり小川が流れていたりするのか。やっぱりどこか普通じゃない。


 キノコがちょこちょこ生えてる切り株に腰掛けて、ぼんやりと空を眺める。春の青空に白い綿雲が流れていく。こうしていると魔巌洞(ダンジョン)での危険な毎日、そして命のやり取りなんて、まるで嘘のようだ。



 平和だねえ。


 何も考えずにぼーっとしていると、いつの間にか目の前に一人の男子生徒が立っていた。


 いつ現れたんだろう、全然気づかなかった。


「一年辰組の若草(わかくさ)(あらた)くん、で間違いござらんか?」


 おそらく先輩だと思うけど、態度は柔らかい感じだ。


「はい、そうですけど、何か……」

「それがしは隠密研究部の三年生、三郎坊という者でござる。単純に言うと、勧誘のために(あらた)くんに会いにきたんだけれど、クラブ活動に興味はござらんかな?」


「あの、間に合ってます……」


 なんだ? このゴザルの人は。


 かなり胡散臭い。こういうのは断っておくに限る。


「宗教とか押し売りとか、そういうのとは違うのでござるが」


 三郎坊と名乗った先輩は何やら苦笑している。


「新入生だとあまりピンとこないかもしれないけれど、この学校はクラブ活動も活発なのでござるよ」

「クラブって言うと、野球部とかサッカー部とか? あんまり見かけた事ないですよ?」


 放課後はずっと魔巌洞(ダンジョン)に入り浸っているので、他の人が何をしているのかを知る機会がないだけかもしれないけれど、(あらた)はユニフォーム姿の生徒を見かけた記憶が全くない。


「ああ、そういうスポーツ系のクラブではなくて、魔巌洞(ダンジョン)探索のためのクラブでござるゆえ」


 今はまだ、クラブなどには興味はない。


 でも暇つぶしになるだろうし、ちょっとは詳しく話を聞いてみてもいいのかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ